医療関係者向けのページです

バンコマイシン耐性腸球菌(VRE:Vancomycin-Resistant Enterococci)について

1997年度の細菌学会において、ついにバンコマイシン高度耐性腸球菌(E.faecium)の国内での分離(出現!)に関する報告がなされました。これは、バンコマイシン耐性遺伝子であるvanAを有する腸球菌の国内における初めての報告であり、わが国においても、人におけるバンコマイシン高度耐性菌(VRE)の存在が初めて確認されたことになります。 そして、これによってMRSAと同様に、国内においても院内感染菌としてVREが広がってゆく状況が予見されるに到った、と言えるのではないでしょうか。従って、今後VREの発生、伝播が、院内感染予防対策上のきわめて重要な問題となることは間違いのないこと、と考えます。

バンコマイシン高度耐性腸球菌分離の経緯

高度バンコマイシン耐性(vanA)腸球菌(E.faecium)の尿路感染症患者からの分離とその遺伝学的性質 藤田直久、池 康嘉ら(京都府立医大、群馬大)

急性腎盂炎で入院加療を行っていた81才の女性よりE.faecium が分離され(E.faecium FN1と命名)、本菌がバンコマイシンに対して高度耐性( >100μg/ml)であることが確認された。
またPc、Em、Gmにも耐性(多剤耐性)であり、複数のプラスミドの保持と共に、分離されたプラスミド上にバンコマイシン耐性遺伝子(vanA)の存在が確認された。

では予防対策はどのように行えば良いのか?

それには、先ずバンコマイシンとは?VREとは?等・・・関連する事項についての知識を再確認し、その上で、十分な情報を基にした的確な対処(患者への処置、環境への配慮)へとつなげるため、迅速且つ信頼性の高い検査を行うことが大切であると考えます。
また更にそれが、バンコマイシンの臨床における慎重な使用へとつながるものと確信します。
そこでここでは、知識を再確認して頂き、また日常の検査に役立てて頂くことを考慮して、先ず基本事項からお話を進めたいと思います。

バンコマイシン(VCM)とは?

放線菌の1種であるStreptomyces orientalis が産生し、glucose、vancosamine(これらは糖です)と7つのアミノ酸からなるグリコ(糖)ペプチド系抗生物質。
細菌の生存に必須の(特にグラム陽性菌)細胞壁(ペプチドグリカン)構成成分であるムレインモノマー(murein monomer)末端のD-alanyl-D-alanine(アミノ酸)に結合して、これが細胞壁の一部として取り込まれるのを阻害します。
その結果細胞壁の合成は阻害され、浸透圧の差に耐えられなくなった細菌は増殖することが出来なくなり溶菌します。
以上のように、VCMは細胞壁の構成成分の前駆体に直接結合して合成阻害を引き起こしますが、同じ細胞壁合成阻害剤でも、βーラクタム剤と呼ばれるペニシリン系やセファロスポリン系の薬剤は細胞壁に直接作用するのではなく、細胞壁合成の最終段階のクロスリンクを完成する酵素(ペニシリン結合タンパク質:PBPと呼ばれます)に結合してその酵素活性を阻害し、間接的に細胞壁合成阻害を引き起こします。
尚、細菌の外殻構造はグラム陽性菌と陰性菌では大きく異なり、細胞壁(ペプチドリカン)合成阻害剤(ペニシリン、セファロスポリン)はペプチドグリカンの発達したグラム陽性菌に対して高い抗菌活性を示しますが、ペプチドグリカンが未発達で外膜に覆われたグラム陰性菌に対しては、高い抗菌活性を示し難くなります。特にバンコマイシンは分子量が大きく、細菌の外膜を極めて透過し難いため、グラム陰性菌に対しては抗菌活性を示すことができません。

関連用語

●アミノ酸とは?
分子内にアミノ基(-NH3)とカルボキシル基(-COOH)を持つ両性電解質でタンパク質の構成成分。

●グリコペプチド系抗生物質とは?
他にテイコプラニン(Teicoplanin:TEIC)があり、バンコマイシンと同等の抗菌スペクトルを有する。

●細胞壁とは?
細胞質を取り囲んで菌固有の形を決定し、また細胞内部の高い浸透圧や外部からの物理的衝撃に対して防御し、細胞の維持にあずかっている。グラム陰性菌と陽性菌では構成が異なり、陽性菌ではペプチドグリカンが発達し、陰性菌ではペプチドグリカンは未発達であるが最外殻をLPS(内毒素:0抗原と言われる)を含む外膜が覆い、細胞を維持している。
尚、人体細胞を含む動物細胞には、細胞壁はない

細菌(腸球菌)の耐性機構について

抗生物質の有する抗菌活性は以下のような作用によって担われます。

作用機序
抗生物質の種類
細胞壁(ペプチドグリカン)合成阻害 β-ラクタム系,バンコマイシン
細胞質膜の傷害 ポリペプチド系,アゾール系
タンパク質合成阻害 アミノ配糖体系,テトラサイクリン系,マクロライド系
代謝拮抗作用 サルファ剤
核酸(DNA,RNA)合成阻害 ピリドンカルボン酸系(ニューキノロン),マイトマイシン他の抗ガン剤

VREの耐性機構について

バンコマイシンはD-alanyl-D-alanineに特異的に結合して細胞壁(ペプチドグリカン)構成成分に構造変化を引き起こし、これが細胞壁の一部として取り込まれるのを阻害することにより、抗菌活性を示します。 ところが耐性を獲得した腸球菌では、D-alanyl-D-alanineがD-alanyl-D-lactate(乳酸塩)に変化し、つまり特異的作用点(結合点)が構造変化したためにバンコマイシンが結合できなくなって抗菌活性を失います。 これは、細菌が酵素等の機能分子(PBP等)の変異に留まらず、菌体の構造自体を完全に変えると言う驚くべき事例であると言えます。 前にも述べましたように、細胞壁はPBP(ペプチドグリカン合成酵素)によって合成されますが、PBPはD-alanyl-D-alanineを特異的に認識するのではなく、変異したD-alanyl-D-lactateも効率の良い基質として利用することができるのです。これもまた驚くべきことです。 そしてこの活性に関する情報の主だったものは、他の殆どの耐性菌と同様に薬剤耐性プラスミドによって、接合という方法を取りながら他の菌に伝播して行きます。 現在、バンコマイシン耐性遺伝子であるvanA プラスミドの伝播が確認されている腸球菌属として、E. faecium、E. faecalis、E. avium、E. durans 等があります。

なぜvanAを有するVREが脅威なのか?

ところで、この遺伝子(vanA)がトランスポゾンの性質を持つことが分かってきました。
トランスポゾンとは何でしょうか?
トランスポゾンとは、転移遺伝因子(動く遺伝子)と言われる遺伝子の一種で、非常に特異な配列(遺伝子は核酸の連なったものです)を有し、その名の通り、転移を助ける酵素の働きによりかなり自由に動き回ることが可能と考えられています。また転移を助ッる酵素( transposase:トランスポザーゼ)も同一の遺伝子に組み込まれています。
vanA はTn1546 と呼ばれるトランスポゾンに、幾つかの異なる機能をもった遺伝子(耐性の誘導発現に関与する遺伝子等)と共にのっていますが、vanA がトランスポゾンであると言うことは、薬剤耐性遺伝子が自由に動き回るということであり、これはプラスミドからプラスミドへ簡単に転移することを意味します。つまりそれだけ菌種を越えて、バンコマイシンに対する耐性因子が伝播して行くことも意味することになります。
現実に、1992年Nobelらによって行われた実験が、vanA のバンコマイシン感受性S.aureus への伝播を証明しています。
このような事実に鑑みても、将来広くグラム陽性菌に伝播してゆくことが非常に危惧されるので、信頼性の高い検査によって確実な検出を行い、院内感染を未然に防ぐと共に臨床での慎重な使用が求められる訳です。

参考文献一覧

バンコマイシン耐性院内感染菌の出現 -その耐性メカニズム-
 平松啓一 感染 炎症 免疫 27(2):2 〜 9,1997

腸球菌の高度薬剤耐性 ゲンタマイシン・ペニシリン・バンコマイシン耐性
薬剤耐性 -基礎と臨床-
 山口 恵三ら 呼吸 15(6):590 〜 598,1996

Newメディカルサイエンス
細菌感染の分子医学 その新展開
 渡邊治雄 編 羊土社 刊

Emergence and Dissemination of a High Vancomycin-Resistant
vanA Strainof Enterococcus faecium at Large Teaching Hospital
 Pegues,D.A. et al. J.Clin.Microbiol.35(6):1565 〜 1570,1997
大病院における,高度耐性E.faecium の患者及び他のVRE株への急速な広がりについて報告。

Survey of Enterococcal Susceptibility Pattern in Belgium
 Vandamme, P. et al. J. Clin. Microbiol. 34(10):2752 〜 2576,1996
ペニシリン,アンピシリン及びバンコマイシン等に関する耐性菌出現の調査結果について報告。

Selective Media for Detecting Gastrointestinal Carriage of
Vancomycin-Resistant Enterococci
 Barton, A. L. et al. Diagn. Microbiol. Infect. Dis. 23:119 〜122,1995
バンコマイシン耐性腸球菌を検出する培地組成について報告。

Rapid Detection of Vancomycin-Resistant Enterococci
 Edberg, S. C. et al. J. Clin. Microbiol. 32(9):2182 〜 2184,1994
バンコマイシン耐性腸球菌の迅速検出法について報告。

Development of a Standardized Screening Method for Detection
of Vancomycin-Resistant Enterococci
 Swenson, J. M. et al. J. Clin. Microbiol. 32(7):1700 〜 1704,1994
バンコマイシン耐性腸球菌の迅速検出法について報告。

Co-transfer of vancomycin and other resistanace genes from
Enterococcus faecalis NCTC 12201 to Staphylococcus aureus
 Nobel, W.C. et al. FEMS Microbiol.Lett. 93:195 〜 198,1992
vanA の,腸球菌よりブドウ状球菌への菌体関接合による伝達について報告。

Resistance to Vancomycin and Teicoplanin: an Emerging Clinical
Problem
 Johnson, A. P. et al. Clin. Microbiol. Rev. 3(3):280 〜 291,1990
バンコマイシン,テイコプラニンに対する耐性についての総論。グリコペプチド系抗生物質について解説し,耐性菌に関する疫学的調査結果について報告。