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【Medical Tribune 特別企画】インタビューVol.3
微生物検査の迅速化がもたらすメリットと運用のポイントとは

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・診断学分野(臨床検査医学)教授/長崎大学病院検査部部長 栁原 克紀 氏
2017.01.10 | Medical Tribuneウェブサイトより転載
栁原 克紀 氏
 近年、微生物検査においては、大学病院を中心に質量分析器による同定検査の迅速化が進み、より早期の薬剤感受性の判定が可能な迅速感受性機器を導入する施設も増えている。こうした微生物検査の迅速化については、昨年(2016年)閣議決定された薬剤耐性(AMR)対策アクションプランにもその重要性が盛り込まれている。そこで、あらためて微生物検査の迅速化が臨床現場にもたらすメリットや、最新機器およびシステムの運用を行う上でのポイントについて、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・診断学分野(臨床検査医学)教授で長崎大学病院検査部部長の栁原克紀氏にお話を伺った。

微生物検査の迅速化が早期確定診断や検査部の信頼度向上に寄与

—迅速化により、微生物検査はどう変わるのでしょうか。

栁原 従来の微生物検査では、検査結果を臨床現場に報告するまでに4日前後を要していました。しかし、患者さんの予後を考えれば、より早期からの抗菌薬投与が必須であり、検査結果を待たずに広域スペクトラムを有する抗菌薬を選択せざるをえないという実情がありました。これが、現在の薬剤耐性菌問題の背景です。最近では質量分析器や迅速感受性機器の導入による検査結果の迅速化が実現され(図1)、当施設でも検査結果を報告するまでの期間が従来に比べて1日(24時間)程度、短縮できるようになりました。これにより、臨床現場ではよりピンポイントかつ適切な抗菌薬の選択が可能になります。
図1. 迅速化した微生物検査のタイムライン
図1. 迅速化した微生物検査のタイムライン

—メディカルトリビューンの医師会員向けアンケートでも、「微生物検査の結果が早く出ることのメリットとは」という問いに対して、9割超が「速やかな確定診断に役立つ」と回答しています(図2)。

図2. 微生物検査の結果が早く出ることのメリット(メディカルトリビューンアンケート結果)
図2. 微生物検査の結果が早く出ることのメリット(メディカルトリビューンアンケート結果)
栁原 妥当な結果であると思います。微生物検査の結果が迅速化することで、臨床医はより早期に確定診断が行える上、治療の見通しが立てやすくなります。患者さんとその家族に対してきちんとした説明ができ、安心感を与えられることもメリットになります。一方、検査部のメリットとしては、臨床医からの信頼度の向上による両者の信頼関係の強化が挙げられます。さらに院内感染対策という観点から見ると、病院全体、ひいては社会全体にとっても大きなメリットになると考えています。

迅速化を促進するポイントは、検査部からの積極的な情報提供

—微生物検査の迅速化を促進する上で、検査部に求められるものはなんでしょうか。

栁原 最新の機器やシステムを導入することにより、微生物検査の結果報告までの時間が短縮化されますが、そのことを臨床医に周知徹底することがポイントです。臨床医からの問い合わせの有無にかかわらず、検査結果が報告できるまでの日数など、具体的な情報提供を検査部から積極的に行うことが重要です。また、検査結果の迅速な報告は臨床医の抗菌薬の選択や適正使用において重要な役割を担うことから、結果的にAMR対策アクションプランにも貢献すると思います。機器やシステムのハード面とコミュニケーションというソフト面の「両輪」がそろってこそ、微生物検査の迅速化が促進されると考えています。このことは、先のアンケート結果において、「治療の精度が向上する」という回答が臨床医の7割にとどまっていることとも関係します。つまり、検査部から積極的な情報提供を行うことで、微生物検査の迅速化による治療精度の向上を実感できる臨床医が増えるのではないでしょうか。

—検査部からの積極的な情報提供について、先生が実践されてきた改革についてお話しいただけますか。

栁原 迅速化が実現可能な微生物検査機器を導入したとしても、それを扱える検査技師がいなければ、検査結果の報告までの期間は短縮できません。とはいうものの、年中無休、24時間体制で検査室を稼働させることは、検査技師の疲弊につながります。そこで私は、当施設の検査技師を5人から8人に増員するよう病院と交渉しました。これにより、個々の検査技師の負担を増やすことなく土日祝日も稼働できる年中無休の体制が実現できました。

微生物検査の自動化を学問的に捉え、メリットを周知する

—微生物検査においても他の検査と同様に自動化が進められています。こうした機器がルーチン検査にも導入されることに対する先生のお考えをお聞かせください。

栁原 微生物検査の自動化について、積極的に考える時期になったと思います。世の中のあらゆる分野において、さまざまな技術革新が行われ、時代とともに新たな機器や技術が導入されています。そうした機器や技術のメリットをよく理解して、われわれも対応していくことが重要ではないでしょうか。
 近年、微生物検査においても、新世代の機器(微生物同定機器、感受性機器)が登場し、迅速化が進められていますが、検査技師の質の低下や人員削減を招くと危惧する意見もあります。しかし、私は学問的な立場に立って、自動化が臨床現場にもたらすメリットについて考えることが大切ではないかと考えています。検査部の部長という立場からも、自動化の意義を周知していきたいと考えており、私が会長を務める第28回日本臨床微生物学会総会・学術大会(1月20〜22日、長崎)において、「微生物検査の自動化」と題する会長企画を通して実現したいと願っています。

—今後のさらなる微生物検査の迅速化に向けて、開発企業への要望はありますか。

栁原 当然ながら、感度、精度、特異度が高い機器の開発には今後も取り組み続けてほしいと思います。ただ、そうした技術革新に加えて、新しい機器や技術に対して懸念を抱く検査技師の存在を考慮し、パンフレット作成やセミナー開催を通じた教育にも力を入れていくことが必要ではないかと感じています。