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刈谷豊田総合病院
血液培養 結果報告に工夫

治療・制御・ケアの3方向に
THE MEDICAL & TEST JOURNAL 2017年4月1日
 刈谷豊田総合病院(愛知県刈谷市、実働672床)は2015年12月、微生物同定検査に質量分析装置を導入したのに伴い、血液培養検査陽性時の報告運用体制を整備した。検査結果の使い方に合わせ、治療、患者管理、感染制御の3つの方向にそれぞれのタイミングで結果報告する運用を開始している。


 同病院は、トヨタグループ8社が運営に加わる企業立病院。診療科20科を有し、半径10キロ圏の人口約60万人を主な診療圏に、高度急性期医療を提供する。運営面でも、管理職以上を対象にした早朝の部課長会議が月1回開かれるなど、経営指数を活用した目標管理の手法が浸透しているという。
 臨床検査・病理技術科のスタッフは計53人(非常勤を含む)で、検体、輸血・一般、生理、病理、感染制御と大きく5つのグループに分かれる。このうち感染制御グループは、リーダーの藏前仁氏を含む計5人が所属し、年間6万9593件(15年度)の細菌検査を受け持つ。
 月間件数は塗抹検査が800件、培養検査が約3500件。血液培養検査は同病院でも増加傾向にあり、月約1000件と、約10年前の10倍になっている。

連休にしない運用

 細菌検査は、検査の遅延が患者予後に深刻な影響を与えかねず、他の医療機関では過去に医療訴訟に発展した事例もある。同病院の細菌検査室では、微生物検査の停滞を避けるため、「2連休にならない」運用を導入し、土日の週末休みであれば日曜日、3連休であれば真ん中の日にスタッフ2人が出勤する休日体制を敷く。
 土曜日と日曜日に1人ずつ出勤し休日をつくらないことも検討したが、臨床検査技師1人でできる検査の量はどうしても限られる。検証の結果、連休を避け、かつ休日出勤は2人という体制に落ち着いたと藏前氏は説明する。「本来は休日を完全に無くすべきで、現状には満足していません。しかし、検査のマンパワーと臨床貢献とのバランスの中で今できることをしています」。
【写真1】バクテック 用 ダッシュボード
【写真1】バクテック 用 ダッシュボード
 細菌検査室は、16年度の目標管理の一つとして、「MRSAの3日以内報告を8割以上にする」を掲げた。数値目標の設定の仕方は、患者1人1人の予後に影響する細菌検査だからこそ、平均値の目標ではなく、達成割合とすることにこだわった。目標数値は前年度の7割からさらに引き上げたが、今年度の10カ月間は全て8割を超え、年度を通じて目標が達成できる見通しとなった。
 血液培養検査は、自動分析装置「BD バクテック FX システム」を細菌検査室内と、同じフロアにある検査室の当直室のそれぞれに配置し、細菌検査室内の端末で集中管理するシステムを導入した(写真1)。距離が離れた当直室で陽性検体が出た場合でも、速やかに結果を把握し、対応できる仕組みを採用した。
 当直室では、エアシューターの隣にバクテックを置き、救急外来などから送付されてきた血液培養ボトルを当直者が受け付け後、すぐにドロワー内に収納し検査を開始する。同病院は夜勤1人体制のため、以前は他の検査をしながら血液培養ボトルを細菌検査室まで運ぶストレスは大きかったが、当直室へのバクテック追加導入により夜勤者の動線は短縮した。
 夜勤時の血液培養検査で陽性となった検体(ボトル)は、細菌検査室のスタッフが翌朝7時30分から一連の検査を開始する。塗抹検査、培養検査を終えた後、質量分析装置MALDIバイオタイパーにより同定検査を行い、午前中には菌名が判明する。その後、全自動同定感受性検査システム「BD フェニックス」による、薬剤感受性検査へと進む。フェニックスによる迅速薬剤感受性検査により、午前のアッセイであれば夕方までにはMRSAやESBLなどの一部耐性菌が判明し、午後のアッセイでも、翌朝にはすべての感受性検査の結果まで報告できる運用となっている。
 また、1日2回の運用が可能なため、検査効率の平準化にも役立っている。

臨床報告のタイミング

写真:細菌検査室のスタッフ(後列右が藏前氏)
細菌検査室のスタッフ(後列右が藏前氏)
 臨床側への血液培養陽性時の結果報告のタイミングはいくつかある。まず塗抹検査の結果判明時点。細菌検査室から主治医に電話で結果を伝え、菌同定時に再度、電話報告する必要があるかどうかを話し合って決める。菌名は不要で感受性試験の結果が必要な症例では次の電話報告は翌朝になる。
 結果報告について藏前氏は「かなりのスキルが求められる」と指摘する。そのため技師教育の仕組みを構築し、配属2年目に日本臨床検査同学院の二級臨床検査士、その後、認定臨床微生物検査技師の資格取得を推奨。県内の認定者37人(昨年1月時点)のうち3人が同病院の技師という。
 塗抹検査の結果報告を前に各検査技師は、電子カルテを閲覧して患者背景や診療情報などを確認。主治医とのディスカッションに臨む。菌の属性や菌名の目安にとどまらず、薬剤選択について臨床医と討議することもあるという。
 主治医に電話で口頭報告する一方、感染管理看護師(ICN)に対しては、細菌検査情報システムの端末画面のハードコピーを手渡しして報告する。ハードコピーを使うのは、口頭報告で起こりがちな誤認を避けつつ、検査室側の新たな入力作業を避けるためだという。
 さらに、病棟看護師には菌名が判明した時点で連絡する。その際は、細菌検査情報システムの追加機能を使って病棟にファクスを送る。ファクスなら呼び出し音が鳴るため、到着に気付いてもらえ、印刷物が誰にも気付かれないままプリンターのトレーに放置される事態が避けられる。電話は確実に連絡できるが、多忙な病棟看護師の仕事の手を止めさせることになり、医療事故を誘発しやすい事態を招く。そのリスクを回避しつつ、確実に結果を伝える工夫がファクスの活用なのだという。
 早期治療開始が必要な主治医には電話、感染制御を受け持つICNには画面ハードコピー、患者管理を行う病棟看護師にはファクスと、それぞれにふさわしい連絡手段を組み合わせて3つの方向に血液培養陽性症例の結果報告が行き渡る。藏前氏は、「治療する人(医師)と、感染管理する人(ICN)、患者をケアする人(病棟看護師)はそれぞれ方向性が違っていて、求めている情報、出すタイミング、伝え方が変わってきます」と説明する。

次の課題は「半日短縮」

写真2:ベンチングユニット
【写真2】ベンチングユニット
 血液培養検査の直近の課題は、夜間に判明した陽性例への対応。現在の運用では、細菌検査室が稼働する翌朝からの検査開始となるためMALDIバイオタイパーを使っても菌名報告は昼にならざるをえない。これを半日早めたいと藏前氏は話す。鍵になるのは、「夜中0時」と「サブカルチャー用ベンチングユニットの導入」(写真2)だという。
 このベンチングユニットは、陽性ボトルから培養液を抜き取るための安全器材。陽性となったバクテックボトルに直接、装着し先端の針から培養液1滴を培地に垂らす。その後、滅菌綿棒で培養液を広げ培養器に入れておく。この操作を当直者が0時の段階で行えれば、翌朝には菌が発育し、MALDIバイオタイパーで菌名が分かると同時に、一部耐性菌の結果も昼には報告できる。
 「菌の発育時間を考慮すれば朝4時や5時に操作してもあまり意味がない。夜中0時のワンポイントに行うことが鍵」と藏前氏。1人しかいない当直者に過重な負担を掛けず、さらに臨床に貢献できる可能性があると説明する。
 細菌検査室はまた、全自動核酸抽出増幅検査システム「BDマックス」の導入に向けて本格的に検討を始めた。CRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)など市中の耐性菌の迅速検出に対応するためという。
 CREでも、CPE(腸内細菌科カルバペネマーゼ産生菌)かどうかで感染管理は変わる。診療連携を円滑に進める上では、どのような感染管理が必要な患者かを正確に把握し、地域のさまざまな施設と情報共有する必要もある。
 こうした課題を挙げる一方で藏前氏は、最大のテーマは「人材育成」という。臨床側とのディスカッションができる知識やコミュニケーション力、さらには人間力をも備わった人材をどう継続して育成していくか。「これは課題というよりも永遠のテーマです」。
 微生物検査を担当する臨床検査技師は、臨床(特に医師)との関わりが多いのは血液培養陽性報告時である。過去には電話連絡をすると、検査結果がいつ出るのか?という質問が多く、それ以上の検査情報に興味を示すことは少なかった印象がある。しかし、血液培養検査の迅速化を進めると同時に血液培養陽性報告内容を培養陽性までの時間、陽性ボトル数(例えば4/4本陽性)、溶血の有無、ガス産生の有無、同日提出検体(尿など)の塗抹情報を提供するようになってからは、臨床の反応が変わってきた。
 問い合わせ内容が今までとは違い、検査結果に関することに変わり、コンタミネーションの可能性の有無や、考えられる血液への侵入門戸の情報、抗菌薬のアドバイスを求めてくる医師が増えてきた。根気強く詳細な情報提供を続けていったことで、最初は興味を示さなかった医師も、われわれが提供する情報に興味を持ってくれるようになった。
 臨床とのつながりをより一層強くしていくために、臨床検査技師側からの情報提供をさらに詳細に報告してもいいのではないかと考えている。最初の血液培養陽性報告時に、すでに抗菌薬の選択が間違っていたならばアドバイスを行い、最終結果報告時にも広域抗菌薬から狭域抗菌薬へのde-escalationを提案してみることも今後は取り組んでいきたいと考えている。