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名古屋第一赤十字病院
血液培養、効率・迅速な報告体制構築

2カ所の装置を一元管理
THE MEDICAL & TEST JOURNAL 2017年9月1日
 名古屋第一赤十字病院(名古屋市、852床)は、高度で安全、安心な医療を提供し続けることを使命に、地域完結型の医療を目指している。同病院検査部は、今年2月に血液培養自動分析装置を日本ベクトン・ディッキンソン株式会社の「BD バクテック™ FX」に更新。西棟、東棟に装置を2台ずつ設置して、同社が提供するシステムにより、血液培養検査の一体的な情報管理を行い、効率的で、より迅速な報告体制を構築した。


 同病院は、医療連携を密にして地域完結型の医療を目指している。救命救急センターのほか、総合周産期母子医療センター、造血幹細胞移植推進拠点病院、地域中核災害医療センター、エイズ治療拠点病院、地域がん診療連携拠点病院など高度医療にも対応した病院機能を持つ。診療科は33を数える。血液内科や小児血液腫瘍科における造血幹細胞移植施行数は1977年のスタート以降、現在までに1,500例を超える。小児科では、緊急を要する患者を受け入れており、休日・夜間も小児当直医1名、新生児当直医2名の体制で対応している。臨床検査関連では、先の血液内科、小児科をはじめ、救急科、呼吸器内科、整形外科など多くの診療科から検査の依頼があり、血液培養の検査数も多い。

細菌検査の365日体制

 検査部は、①精度の高い検査結果を提供する②迅速に検査結果を報告する③検査技術を向上させるため研鑽を積む—を理念として業務を行っている。2009年に新棟が完成し、それに伴い細菌検査室と病理検査室は東棟地下1階に、それ以外の検体検査部門は西棟3階に移転し、2カ所に分かれてしまった。臨床検査技師は全体で64名。西棟の検査業務は土曜・休日の日勤帯は3名体制で、当直は2名体制で運用している。
 東棟の細菌検査室では、8名の検査技師が365日年中無休で日勤帯の業務に当たり、西棟の当直も交代で対応している。細菌検査室の責任者である西山秀樹氏は、「細菌検査を外注する施設が多い中、年中無休で検査を行っている」と同検査部の特徴を説明する。
 愛知県は、以前から微生物検査が盛んで、全国でもトップレベルの検査技術を持つという。細菌検査室について西山氏は、日本臨床微生物学会の「血液培養検査ガイド」や、愛知県臨床検査標準化協議会が定めた「日常微生物検査における標準手引書」に準拠した検査業務を行い、業務の標準化を目指しているという。

以前の血培はパンク状態

写真:西山氏、向山氏、美濃島氏
右から西山氏、向山氏、美濃島氏
 血液培養検査について西山氏は、「機器の更新前は、全て細菌検査室で行っていた」と振り返る。そのため夜間は、検体が細菌検査室に到着するまでに時間を要することがあり、結果報告が遅くなることもあった。
 検査部の血液培養検査は、血液培養が2セットで算定可能になった14年の診療報酬改定以前でも月間750〜850件程度が行われていた。14年改定以降は、検査数が増加し、現在は月間約1,200件程度となり、従来の血液培養装置(240テスト×2台)のボトル装填数では賄えないことがあった。
 これまで日勤帯は、細菌検査室に血液培養ボトルを搬送していたが、細菌検査室の検査技師が不在になる午後5時20分以降、当直の技師が午前0時〜1時頃に東棟の細菌検査室にまとめて血液培養ボトルを搬送し、装置に装填していた。その際、陽性となった血液培養があれば、サブカルチャー(2次培養)を行っていた。午前1時以降の検査依頼については、翌朝、細菌検査室の技師が出勤するまで西棟の検査室に置かれており、看護助手などが細菌検査室に搬送していた。

検査能力を1.8倍に増強

BD EpiCenter™ システム(上)と BD バクテック™ FX40システム
BD EpiCenter™ システム(上)と
BD バクテック™ FX40システム
 今回、血液培養装置の更新に伴い、西棟と東棟の検査室それぞれに装置を設置し、検査室に血液培養ボトルが到着すると、直ちに培養が始められる体制を構築した。東棟の細菌検査室には、血液培養ボトルが400本装填できる「BD バクテック™ FXシステム」を2台、西棟の検査室には、同40本装填できる「BD バクテック™ FX40システム」2台を導入し、検査能力を1.8倍に増強した。
 2つの検査室の血液培養検査装置の情報は、西棟の検査室に設置されたBD EpiCenter™ システムで常にモニタリングされ、陽性検体の有無がリアルタイムに表示される(写真右)。これにより離れた場所にある装置の陽性ステータスの確認が可能となった。またBD EpiCenter™ システムでは両装置のデータが一元的に管理されており、測定中のデータを保持したままボトル移動を装置間で行うことができる。
 現在、毎朝、細菌検査技師の出勤時に西棟の血液培養装置に装填されたボトルを、東棟の細菌検査室の装置に移動し、日中はこれまでと同様に細菌検査室管理下にて血液培養検査を継続している。
 血液培養について西山氏は、「菌の種類、菌量によって陽性までの時間が異なる。菌量が多いと陽性になるまでの時間が早く、患者は重篤な場合が多い」と指摘する。同病院では陽性までの時間は早いと約3時間、中央値13時間程度で陽性と判定される。一方、以前までは午後5時20分〜午前0時、午前1時〜9時に提出された血液培養ボトルは、直ちに装置に装填されず室温放置されていた。夜間の血液培養検査について西山氏は、「直ちに血液培養ボトルを装置に装填することで、培養開始までの時間が最大8時間程度短縮され、陽性の報告も速やかになったと感じる」と評価した。細菌検査室の美濃島慎氏は、「日勤帯であれば、当然すぐに細菌検査室の技師がグラム染色とサブカルチャーを行っている」と話す。続けて西山氏は「日勤帯に培養陽性が増え、すぐにグラム染色やサブカルチャー、質量分析層装置による同定検査を行うことで、全体的な報告時間も短縮された」と迅速に血液培養ボトルを装置に装填するメリットを挙げた。

「判定までのスピード早まった」

 ICT(感染対策チーム)に所属する薬剤師の向山直樹氏は、「血液培養装置の更新により、判定までのスピードが早まった印象を受ける」と感想を述べる。菌の同定・薬剤感受性の結果が早く得られることにより、広域抗菌薬の無用な長期投与を避けることができるという。
 さらに向山氏は、「臨床医は感染臓器から原因菌を想定し抗菌薬を経験的に選択している」と述べ、全ての症例で広域抗菌薬が使われるわけではなく、最初から狭域抗菌薬を選択し、検査結果によって経験的治療が適切であったかどうかを確認できることもあるとした。
 同病院には、AST(抗菌薬適正使用支援チーム)がなく、ICTが業務を兼ねる。全病棟に薬剤師が1名配置されており、病棟薬剤師とICTが連携して抗菌薬の適正使用を進めている。西山氏は、「菌の同定や薬剤感受性情報を迅速に臨床へ伝えることで、適正な抗菌薬使用に繋がる」と迅速に検査結果を報告するメリットを挙げた。
写真:細菌検査室の皆さん
細菌検査室の皆さん