医療関係者向けのページです

順天堂大学医学部附属 練馬病院
「FX40」救急室で稼働

医療の質と動線短縮を両立
THE MEDICAL & TEST JOURNAL 2018年6月21日
 順天堂大学医学部附属練馬病院(東京都練馬区、400床)は、血液培養自動分析装置「BDバクテック™FXシステム」「BDバクテック™FX40システム」を検査室と救急外来の院内2カ所に設置し、検体の動線を考慮した効率的な血液培養検査の運用を実現した。2次救急医療を担う同練馬病院でいったん救急患者を受け入れ初期治療をしたのち近隣の病院へ移送するといった救急医療連携をBDバクテックのシステムが支えている。


左から杉田氏、滝川氏、中村氏
左から杉田氏、滝川氏、中村氏
 練馬病院のある練馬区は人口約73万人を擁し、人口10万人当たりの病床数が281床(2014年)と東京23区で最も少ないという特徴を持つ。一方、隣接の板橋区には、3次救急医療を担う1000床超の特定機能病院が2病院あり、同じ2次医療圏内での病床偏在が激しい。交通インフラが整う都市部での病床偏在は、夜間帯の救急医療体制という課題を生む。
 練馬病院はICUを持ち、近隣の342床の総合病院とともに、一部重症例を含めた区民の2次救急医療ニーズに24時間対応する。救急車の受け入れ数は年約6897件(17年)と多く、ほかにウオークインの患者が年約2万件に上る。救急受け入れ要請に対する実際の受け入れ数を表す応需率は94.1%(同)。救急搬送の「たらい回し」を防ぐため原則として救急要請は断らない。

満床でも断らない

【図1】1,000patient-day当たりの血液培養数
【図1】1,000patient-day当たりの血液培養数
【図2】提出件数と2セット率の年次推移(患者ベース)
【図2】提出件数と2セット率の年次推移(患者ベース)
 救急・集中治療科長で感染対策室長を兼務する杉田学・同大医学部教授は「満床という理由で救急を断らない。病床が満床でもいったん当院で受け、診断がついてから、必要に応じて近隣の病院に搬送する連携がうまく機能している」と話す。医療体制の薄くなる夜間帯は、近隣の病院に専門医がいるとは限らない。細菌感染疑いでは練馬病院で血液培養検査を行いつつ治療方針を決め抗菌薬治療を開始してからであれば、近隣の病院も患者を受け入れやすい。
 血液培養数は1000patient-days当たり45.6(17年、図1)。病院開院(05年)以来、一貫して増加傾向にあるが、特に目を引くのは2セット率の高さ。成人は98.9%、小児でも38.1%に上る(17年、図2)。だが当初から高かったわけではない。開院当時の20.0%(06年)から急上昇した背景には、初期研修医に感染症教育を行い、感染症コンサルタントの医師を招いた講習会を院内で開き、さらに年間28回に上る感染対策講習会を続けるといった地道な取り組みがあったという。
 杉田氏は、2セット率が上昇した一番の理由に研修医への教育効果を挙げる。「最初に研修医を受け入れた08年から、臨床検査科に協力してもらい、グラム染色と感染症診療の教育をした」。細菌検査室では、夜間でも臨床医が出入りしグラム染色ができるようにした。そして初期研修オリエンテーションにはグラム染色のプログラムを組み入れた。当時の研修医がその後、指導医になり、2セット率のさらなる上昇へとつながっていく。
 2セット率の上昇とともに血液培養数は増え、10年、細菌検査室にあった「BDバクテック™9000システム」のボトル搭載能力を120本から240本に増強。さらに検体数が増えたことを契機に15年2月、「BDバクテック™FX40システム」を救急室に配備し、FXシステムの400本と合わせて計440本とした。「BD EpiCenter™システム」を通じ細菌検査室が両装置の状況を監視する。

「5分でも離れられない」

 臨床検査科主任で微生物検査を担当する滝川久美子氏は、血液培養を迅速に開始するため、需要の高い救急室にFX40を導入したと説明する。血液培養検査では検出率向上のため、採取から2時間以内の培養開始が目安だが、FX40導入以前は、救急の看護師が患者の処置に追われ遅延する事例もあった。
 救急室の看護主任、中村麻依子氏は当時をこう振り返る。「休日夜間は患者数が多く、夜勤3人の看護師は1人で何人もの患者さんを担当しなければならない。血液培養を早く始めた方がいいのは分かっていても患者さんのケアを優先するとなかなか検体を検査室に持って行かれず、そういうジレンマが現場にあった」。
 微生物検査は夜間対応を組んでいないため、FX40の導入以前は、救急の看護師が1階の救急室から、バクテックシステムのある地下1階の検査室へと検体を運び、夜間当直技師が装置に装填する必要があった。だが、救急処置に忙殺される中での血液培養はどうしても遅延しがちだ。「5~10分の短時間とはいえ、目の前の救急患者さんのそばから離れることは不安。その間に患者さんに何かあったら、と考えてしまう」。中村氏は、たとえ短時間であっても看護師として現場から離れることの難しさを説明する。
 FX40が救急室に設置された現在、採取後、その場で看護師らがボトルを装填できるようになり「非常に楽になった」と中村氏。滝川氏も検査の立場から「夜間でもほぼリアルタイムで培養が進み、検出が早くなった」と、検出時間の短縮を通じた医療の質向上効果を指摘する。

6割がFX40を経由

ERの血液培養検査をBDバクテックが支える
ERの血液培養検査をBDバクテックが支える
 救急室のFX40には、救急外来のほか、時間外病棟の血液培養ボトルも装填される。検査技師は、平日は朝と夕方の1日2回、休日も午前中と夕方にFX40からボトルを回収し、細菌検査室にあるFXシステムにボトルを移す。EpiCenterシステムで両装置が接続されるため測定データを保持したままボトルが移動できる。陽性になれば細菌検査室スタッフが365日、グラム染色を行い結果を臨床医に報告する。現在、血液培養の6割以上がFX40を経由する。
 杉田氏は「救急室は普段からストレスのある忙しい職場。システムを使うことで少しでも楽にならないかと考えた。でも一方で診療の質は落としたくない。余計な動線、作業工程が増えることは好ましくない」と、医療の質を維持しつつ動線を改善する選択がFX40の導入だったと話す。細菌検査室にとってはボトル回収の手間が生じるが「検査科が救急室に定期的に足を運ぶことで顔の見える関係になり、シームレスな関係になる」とむしろ効果の方に着目する。医療スタッフ同士の良好な関係の中で院内に感染症対策の意識が高まり、耐性菌対策もスムーズに進む。その結果「うちは非常に耐性菌が少ない」とも話す。
 単に検査装置を導入するだけでは、使われるシステムにはならない。杉田氏は「教育、ハードと全てがそろって運用がうまくいく。PDCAサイクルを回すことができる」と強調する。鍵になるのは、普段からの教育研修や、医療スタッフ同士の有機的な関係。その上にBDバクテックがあり、医療の質確保と効率的な業務運営の両立が可能になる。