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OSHAとは?

人間の権利としての労働安全(セーフティ)
OSHAは、1970年に当時リチャード・ニクソン大統領の署名によって法制化された労働安全衛生法(Occupational Safety and Health act)に基づき設立されました。この労働安全衛生法は、OSHAの規制権限、連邦/国家的司法権、罰金/召喚システムを制定し確立しました。

Amber C. Hogan (アンバー・C・ホーガン)

米国労働安全衛生局(OSHA)、衛生強化部強化プログラム責任者、労働環境衛生上級管理官として、健康に基づくOSHA規準の全国的な遵守・強化活動の取り纏めや、血液媒介病原体、感染管理、バイオハザード、危険有害性周知、医療器具、および検査室安全性と関連した問題の国の専門家として2003年10月までOSHAに所属 。労働省次官に仕え連邦のOSHA政策の研究、開発、解釈に関する通達作成に携わり、職場における安全および健康に関し他の政府機関と協働、米国の多くの職場でOSHA監査を実施。米国の民間および連邦の被雇用者、および企業・職業組合に対する連邦OSHA強化政策に関する訓練の開発および提案において数多くの実績をもつ。

Amber C.Hoganからのメッセージ

はじめまして(といっても数回の来日ですでにお会いしている日本の皆様もいらっしゃるかもしれませんが)、米国BDセーフティ&ヘルスパブリックポリシーのマネージャーのアンバー・ホーガンです。BDに入社する前は、国家的血液媒介病原体プログラムコーディネーター、労働環境衛生上級管理官として5年間 OSHAに従事していました。

この連載「OSHAとは?」では、医療関連の労働安全衛生(occupational safety and health)と、それが患者の安全(patient safety)やよりよい臨床的成果に及ぼす影響などに関連した問題を取り上げていきます。日本の医療の現場がより安全になることを祈りつつ、少しでもこの連載が皆様に役立つ情報となれば幸いです。皆様のフィードバックを楽しみにしています。

OSHAとNIOSHの違いは?

世界的な職業安全対策や健康プログラムの多くは、米国で存続しているプログラムや政府基盤に続いてモデル化されます。米国では職業安全衛生は、米国労働省(US Department of Labor: DOL)の連邦機関のひとつであるOccupational Safety and Health Administration;OSHA(労働安全衛生管理局;オーシャ)によって規制されています。

OSHAは、1970年に当時リチャード・ニクソン大統領の署名によって法制化された労働安全衛生法(Occupational Safety and Health act)に基づき設立されました。この労働安全衛生法は、OSHAの規制権限、連邦/国家的司法権、罰金/召喚システムを制定し確立しました。さらに、OSHAの姉妹機関として、米国厚生省(US Department of Health and Human Services;DHHS)の疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention;CDC)の下部組織のひとつであるNational Institute of Occupational Safety and Health;NIOSH(国立労働安全衛生研究所)が設立されました。NIOSHは、研究を主体とした連邦機関であり、一方、OSHAは法律の施行を主体とした規制連邦機関です。DHHS(厚生省)とDOL(労働省)は、ともに米国行政府の下部組織です。行政には執行府のほかに全米で選ばれた高官で成り立つ立法府、そして米国裁判組織の司法府があります。

参考:米国政府
※この組織図は数ある米国行政府の下部組織のうち、OSHAおよびNIOSHに関連した組織のみを抜粋しています。

OSHAと労働安全衛生法

労働安全衛生法は、全ての雇用者が、重大な健康被害に至る可能性のある周知のハザード(危険要素)に脅かされない労働環境を提供することを、法律によって命じています。OSHAはこの法律を施行する機関なのです。OSHAの司法権はほぼ全ての職場(労働環境)を網羅しますが、血液媒介病原体やエチシリンオキサイド、グルタラールデハイド、一般化学危険物、転倒/転落、結核、人間工学/患者対応など医療関連施設の雇用者(そしてその従業員)特有に適用される基準や命令も制定しています。

基準の制定プロセスは、大変長く、そして包括的です。OSHAやNIOSHの科学者や臨床専門家、労働安全衛生のエキスパート、産業衛生学者、安全工学者、毒物学者、専門団体からのデータや情報、そして公衆や労働団体やそのほかの情報を取り入れています。

医療関連施設でのOSHAによる規制

医療関連施設で適用される全ての基準や命令は、職業上のハザードへの曝露を予防するために重要ですが、特に1991年に公布された血液媒介病原体基準(Bloodborne Pathogens Standard; BPS)は特有の重要性をもっています。曝露事例によって、C型肝炎、B型肝炎、HIV/AIDS、そのほかの生命を脅かす疾患の血液媒介病原体に感染する危険性があるため、雇用者に、血液やその他の感染の可能性のある物質に対する職業曝露を排除もしくは可能な最小程度まで削減することを要求しているのです。

この基準は、B型肝炎ワクチン、従業員への年次教育、安全機能付き器材の使用、鋭利物専用廃棄容器も使用、環境表面の適切な消毒/滅菌、そして適切な曝露後フォローアップの要求などが含まれています。

安全機能付き器材の使用については、そもそも1991年のOSHAの血液媒介病原体基準において要求されていましたが、2000年に針刺し安全予防連邦法が制定されたことで、OSHAの血液媒介病原体基準の要求の重要性を再度強調し、市販されている安全機能付き器材の評価と選定、鋭利損傷事例報告の文書化、最先端で医療に従事している管理者でない従事者の工学的管理(例:安全機能付き器材)選定への参加など、新たな要求が追加されました。

1991年12月6日
● OSHAがBloodborne Pathogens Standard(血液媒介病原体基準)を公布

<主な内容>
工学的管理と作業管理のコンビネーション、個人防護具、HBワクチンプログラム、ユニバーサルプリコーションなどによって感染の危険性が削減または排除される

1999年11月5日
● OSHAがCompliance Directive(遵守命令)を公布

<主な内容>
次のような規制を「血液媒介病原体に関する基準」に追加し、雇用主の遵守を強化する

−曝露管理計画を毎年見直すこと
−安全器材を評価し導入すること
−CDCの最新勧告を実施すること

2000年11月6日
● 針刺し安全予防法(Federal Needlestick Safety and Prevention Act)

<制定>
この法律は、OSHAが血液媒介病原体基準を強化するために1999年11月5日に発令した遵守命令を、法的に保護する

<主な内容>
1. 安全器材の使用
2. 安全器材の重要性や使用を含む曝露管理計画が記録され、毎年更新される
3. 針刺し損傷の詳細と、原因器材の種類やブランドの詳細の情報が記録された報告
4. 器材を取り扱う現場のスタッフが、安全器材の選択・評価・実践に参加すること

人間の権利としての労働安全衛生

医療関連における労働安全性への行政介入による明確な効果を例証する初期のサクセスストーリーとして、血液やその他の感染の可能性のある物質に曝露する可能性のある全ての従業員へのHBVワクチン接種の要求(義務)によって職業上のB型肝炎ウイルス獲得を80%以上減少させることができました。米国では現在は、子供たちもHBVワクチンが要求されているため、今後20年間のうちにHBVは職業上のハザードから完全に消されるかもしれません。

米国のモデルは決して完璧ではありませんし、全ての職業上の損傷や疾病をなくす訳ではありませんが、どのような行政が社会と協働すれば、国民が働く環境において守ることができるのかのモデルの基礎と見本を提供します。

元米国財務省のPaul O'Neil長官がピッツバーグで開催された労働安全の会議において、労働安全は「優先事項」や「ゴール」ではなく、「人間としての権利(human right)」としてマインドセットし直すべきだと言っておりました。全ての人々は、職場に到着したときと同じ安全性で、安全に職場から帰る権利があるのです。