医療関係者向けのページです

Ignazzo Interview: ICNとして

名古屋医療センターにおけるICT活動への取り組み
2005年11月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。


村松ICNと研修生と一緒に(前列右が藤田ICN)
独立行政法人 国立病院機構 名古屋医療センター
感染制御対策室 院内感染管理者
感染管理認定看護師
藤田 烈 先生


略歴
平成7年3月 国立名古屋病院付属看護助産学校看護婦科卒業
平成7年4月 国立名古屋病院 救命救急センター配属
平成14年8月 社団法人日本看護協会より感染管理認定看護師に認定
平成15年10月 感染制御対策室 院内感染管理者(平成16年4月より専任)

趣味はサッカー観戦。
「好きな言葉は?」との問いに周囲からはすかさず「不眠不休!」との声が...

組織について

Q 感染制御対策室とはどのような組織なのでしょうか?

当院のICT活動は、5年程前から自主的な活動として始まりました。しかし、組織的な位置付けが明確でないと緊急時の対応や横断的な活動において弱い面があるため、2年程前に感染管理体制に関する規定の全面改訂を行いました。その際、院内感染制御というのは特定の組織から切り離してスタッフラインで位置付けるべきだという考えがあり、副院長を室長とする組織としました。また院内感染制御だけではなくて、感染症診療の質の向上にも貢献するという目的から感染制御対策室という名称にしました。いわゆるICT が当院においては感染制御対策室となります。
Q どのようなメンバーで構成されていますか?

創立時は副院長が感染管理委員会の委員長と感染制御対策室の室長を兼ね、感染症科の医師が副室長でした。昨年11月に副室長が室長となり、副室長として外科医師が加わりました。ほかに院内感染管理者、看護師、検査技師、薬剤師、事務職員が所属しています。栄養管理室からは現在は参加していませんが、NST(編集部注:栄養サポートチーム)の設立準備をしているところで、中心静脈ラインの管理など共通の課題が多いですから、ICTとは兄弟のような組織になると思います。院内感染管理者は感染管理委員会の事務局を兼ね、職位は規定されていませんが専任が望ましいとされています。感染制御対策室と感染管理委員会は互いに独立していて、行政と立法のようなイメージです。

感染管理認定看護師を目指した経緯

Q 感染管理認定を取得されたきっかけについて教えてください

先程申し上げた通り、当初は自主的な活動として感染管理を始めていました。ちょうどその頃、国立看護大学校ができたのですが、認定看護師研修で感染管理認定コースが設置され、病院で募集がかかったのです。その際、それまでの活動を評価していただいて、研修に送っていただけたというのがきっかけです。


Q 認定看護師としての活動はどのように開始されましたか?

 最初は救命救急センターと兼務でした。施設としても一職員に特別に時間を与えることは難しく、またICNの業務を大事だとは思いながらも期待よりも不安が大きかったのではないかと思います。しかし、認定看護師として活動したいという強い意思がありましたので、勤務時間外であっても自分の勉強として1年間活動させて欲しいと婦長を通じて看護部長に直接お願いをしました。何の活動にどれ位の時間をかけてどのような成果が得られたかを毎月報告書にまとめますので、病院として必要な活動かどうか判断していただきたい、と。責任問題を生じる可能性があったり、時間外であったりとリスクがあったはずですが、看護部長や上司の理解とサポートのお陰で活動を続けることができました。

初期の活動内容と状況

Q 新たな活動を始める上で、どのような難しさがありましたか?

 診療科ごとに独自の方法で感染管理を行っている状況で、感染管理のイメージは、面倒くさい、お金がかかるというようなネガティブなものでした。そこで、努力や苦労というような精神論ではなく、無駄な対策をなくして合理的な方法に改めることを目指しました。そのためには感染症の低減などのアウトカムデータを臨床に示す必要がありますが、その点が非常に難しかったです。2年目、3年目になると積み上げたデータがあり、実績をもって対策と結果を示すことができるのですが、当初は他施設のデータや文献に頼らざるを得なかったためです。


Q 何か具体的なエピソードをお聞かせいただけますか?

 当時はMRSAを鼻腔に保菌している状態でも患者さんを一律に隔離していたのです。そういう状況では、医療スタッフにも多くの業務的な負担があり、患者さんにも大変大きな精神的な負担があると思います。手術で病気を治してお孫さんと遊ぼうと決心して入院された患者さんが、手術が成功してもMRSAが鼻腔にいるというだけの理由で隔離されていました。当時はそれが必要だと信じていたわけで、責めるつもりはありませんが、結果的には大切なものを失うこともあったと思います。
 鼻腔にMRSAがいることが必ずしも問題ではないということを職員は経験の中では知っているのです。患者さんにも不利益だと思いながらもやらざるを得ないという強いジレンマを解決すべく、理論的な根拠や信頼性の高いデータなどを準備して示していくというのが最初の一番大切な仕事でした。
Q 厳しい対策を緩和することにも難しさがあったのですね?

怖いから変えられないのですね。変えて何かあったらどう責任を取るのだということです。対策を足すのは経済的には苦しいのですが、心情的には楽なのです。現在は、一律に隔離するのではなく、ケースごとに各セクションで判断できるようにガイドラインを出しています。フレキシブルに対応できればできるほど全体の管理のレベルは落としていくことができるのです。

全ベッドへの手指消毒剤の設置

Q 患者さんのご家族向けに教育活動などなさっていますか?

当院ではオーバーベッドテーブルをお借りして、各ベッドに手指消毒剤を置いています。患者さんからの監視効果が得られて手指消毒の遵守率が高まるという意味で感染対策をサポートしていただいているのです。患者さんにも使ってもらいますから、使用方法のポスターを制作して使い方を説明しています。ただ、患者さんや面会者が感染源とは考えていません。院内感染の大部分は医療従事者が媒介すると言われていますので、我々の遵守率の向上に付随するおまけとして、正しい手指消毒を理解してもらえるようなシステムになっています。



Q 消極的な立場の方もいらっしゃったのでは?

 監視効果をねらうというのはかなり刺激的な対策ですから、同意を得るのに難しい部分はありました。それに、当時はガイドラインのドラフトが出たばかりでアルコール消毒に対する認知も低かったのです。アルコールの信頼性や利便性に関しては、色々な文献を調べてほぼ確信を得ていましたが、説得には時間がかかりました。消毒剤には、誤飲のリスクなどを考えてアルコール単剤のジェル製剤を選びました。その後、様々なスタッフが出入りする救命救急センターで3ヶ月程、先行導入しながら細かな問題点を解決し、これで大丈夫とい
う段階で院内全体に導入しました。

情報収集とフィードバック

Q 病棟ラウンドはどのようになさっていますか?

 定期的な病棟ラウンドは行っていません。感染制御対策室ができた時には実施したのですが、MPのようだと受け取られた方もおられ、我々の取るべきスタンスではないと考えました。知名度の低い状況で方法にも問題があったと思います。ラウンドでないとコミュニケーションがとれないのか、あるいはチェックができないのかを考えましたが、院内PHSでコンサルテーションには随時対応できる状況でしたし、ICUの血流感染サーベイランスのためにICUから退出する患者さんを追いかけて各病棟に行けましたので、それをコンサルテーションの機会と考えました。また、手指消毒剤の全面配置と同時にハンドクリームを施設で購入し始めたのですが、それを私が配ることで病棟訪問の機会としています。このように、少なくとも週に1度程度は各病棟に訪問しており、1日平均10件以上は相談もいただいています。


Q マニュアルをウェブ版にしたことで情報を発信しやすくなったそうですね?

 はい。アップデートは1日に何度でもできる体制ですから、実際にSARSの時は1ヶ月で30回以上アップデートしました。また、最近、ノロウイルスの報道があった時も、翌朝にはノロウイルスの対応についてのガイドラインを院内にメールで発信しています。感染管理委員会や上司の許可を得なくても現場に任せていただいているということは当院の強みだと思います。朝9時に診療を開始する時点で職員に必要な情報が行っているということは、少しの間違いよりメリットが大きい、もし問題があれば必要な段階で修正すれば良いとの考えなのです。

職業感染対策

Q 職業感染対策を減らすための工夫についてお聞かせください

患者さんと医療者の双方を守る最大公約数的な対策がスタンダードプリコーションですので、その遵守率の向上が第一です。しかし、理想にこだわりすぎると遵守率がかえって下がるということが往々にしてありますので運用を第一に考えています。例えば、外来で1時間に40人採血する人に、毎回手指消毒して手袋を替えることを強要しても無理で、それでは遵守率がゼロに下がってしまう可能性があるわけです。
 実現可能な対策を立てる必要がありますが、それを職員の責任で行うというのは難しく、我々のような立場の人間が、施設の責任において方法を示すことで初めて納得して協力していただけます。最終図面を明確に持って段階的に考えることが、施設や患者さんの利益につながると思います。


Q 10分以内に手袋を交換するという現実的な目安を示されたのですね?

 10分というのは、実際に何日か採血室に足を運んで、一緒に採血をして手技を確認して、この位であれば何とかできそうというギリギリのラインです。一番忙しい時間帯に10分というのは決して楽ではないのです。でも、我々が実際その場に行って作った手技ということで、皆さん賛同して、守っていただいているようです。フレキシブルな対策というのは現場を把握して一緒に考えてはじめてできることだと思います。

リンクナースとの連携

Q リンクナースとはどのように連携されていますか?

 リンクナースは対策を実践する主役です。私にとってリンクナースの存在は何よりも大きく、その活動に支えていただいて、感染制御対策室の責任を何とか消化しているという認識です。

アウトカム

Q 対策を合理化することで費用削減につながったそうですね?

 無駄をなくし感染対策を合理化すれば、遵守率向上を期待することができると同時に、サーベイランスなどの有用な対策にコストと時間を転用することができます。また、病院執行部の感染対策に対するコスト面でのネガティブなイメージを払拭することもできます。経済的な効果を目的としたわけではありませんでしたが、当院では合理化により年間約1000万円の収支改善が達成できました。