医療関係者向けのページです

米国におけるICT活動の視点 -院内感染対策の経済効果を疫学・医療経済学で証明する-

必見!諸外国の医療経済事情
2005年11月
 経営者にICT の貢献度を示すには、総論ではなくエビデンスに基づいた費用効果分析が必要である。海外では積極的にICT活動による費用削減の分析に取り組んでいるが、日本では予防活動に焦点が置かれている向きがある1)。本稿では、経済学、統計学および疫学的手法を用いて経済的影響を考察する。
 まず、院内感染が、死亡率、入院期間、病状などに影響を及ぼすことはよく知られているが、その影響を具体的に測定することは単純な作業ではない。入院期間の延長や病状悪化の程度は疾病により異なり、特にICUでの入院期間延長にかかる費用は一般病棟のそれを大幅に上回る。院内感染の経済的な影響を証明するには高度な疫学的研究が必要であり、特に「交絡因子」の影響を統計的に補正することが必要である2)
 「交絡因子」とは、結果に対する曝露とは独立した危険因子であり、なおかつ曝露とも相関関係を持つ因子などと定義される。例えば、コーヒーと癌の関係について調べる場合、コーヒーを多く摂取する人はタバコも吸うという関連があるとすれば、癌を誘発する可能性がある喫煙を交絡因子として考慮する必要がある。喫煙が背景因子として結果(癌)に影響することが考えられるためである。

疫学的手法を用いた院内感染対策の効果の推定

 疫学研究の型は様々である。イグナッソ第2号ではRSウイルス院内感染について感染防止策導入前後の罹患率を比較したものを掲載した。先の交絡の影響を排除するためには層別化、多変量解析などの方法があるが、第2号では、入院期間による曝露の影響(交絡因子)を補正する為、曝露群を入院期間ごとのグループに分け、それぞれの罹患率を算出し、防止策導入前後の相対危険度を計算した。その結果、導入後、約4年間で40症例が減少したと推定された。
 この経済効果は患者対照研究(ケースコントロールスタディ)で検討された。院内感染対策の費用対効果を示すには疫学研究を用いて、様々な指標を統計的に検討する必要がある。

経済学モデリングを用いた投資効果の推定

 図2は、感染率の削減に伴う費用削減の概念を示したものである3)。Aのラインが示す通り、院内感染の罹患率を0.01%に抑えるには1,500,000 ドル(約1.7億円)、5%に抑えるには393,661 ドル(約4,300万円)の投資が必要である(P1→P2)。モデルの様な費用対効果を実際に施設ごとに示すことは難しく、多くの文献は他の文献の原価を引用して院内感染対策の効果を検討している。
 Robertsらは病院の経費を、各部門の従業員の人数または面積により分配し4)、部門内の経費は各業務および配置された人数により配分した。また、入院患者の全経費を調べ、重回帰分析* による経済モデリング法を用いて院内感染による入院費の影響を検討した。モデル1では疾患の影響を補正するため、APACHEスコア** と入院費を検討し、モデル2では独立変数として院内感染を追加した。モデル3ではAPACHEスコア、院内感染およびICU滞在期間を同時に検討した。検討の結果、Robertsは疾病による因子で補正を加えても、院内感染は1患者あたり平均15,275 ドルの入院経費が増加することを証明した。
 最後に、図2の概念を専任ICP採用の検討例で示す。右の仮定においては、専任ICP2人までの採用がコスト効果的であると言える。

参考文献

1. 福田治久、今中雄一: 感染制御の経済−感染のコストと予防への投資.臨床検査49 (6): 607-614, 2005
2. Saint, S., et al. 2001. The role of economic evaluation in infection control. AJIC 29 (5): 338-344
3. Graves, N. 2004. Economics and preventing hospital-acquired infection. Emerg. Infect. Dis. 7: 282-285
4. Roberts, R. R., et al. 2003. The use of economic modeling to determine the hospital costs associated with nosocomial infections. CID 36 (1): 1424 - 1432
(文責: 日本BD 高橋洋)