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Ignazzo Interview: リンクナースとして

東邦大学大森病院におけるICN、看護部感染対策委員会の活動
2008年6月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

組織について

Q 組織体制と感染対策のリンクナースについてお聞かせください。

飯澤 : 当院の感染管理は、病院全体としての方針を決定する「院内感染対策委員会」(毎月1回開催)、看護部門における感染管理対策の企画・実施を担う「看護部感染対策委員会」(毎月2回開催)、対策実施の実働部隊である「感染管理室」、そして「看護部感染対策委員会」と「感染管理室」と各部署との橋渡し的な役割を担う「感染対策のリンクナース」によって運営されています。
私は「看護部感染対策委員会」の委員長ですが、「院内感染対策委員会」のメンバーでもあります。
「看護部感染対策委員会」は、「基準手順委員会」「安全対策委員会」などと同じ看護部長の諮問機関の1つですが、設置以来病院全体の感染対策をリードする役割を果たしてきました。
当院の感染対策を現場で支えているのが各病棟の感染対策のリンクナースです。

荒木 : 「看護部感染対策委員会」は「院内感染対策委員会」と連携して感染対策を実施しています。
「看護部感染対策委員会」は13人の看護師で構成され、救命救急センター、NICU、外科病棟など関連しやすい部署の主任と補佐が入っており、私も一員となっています。
当院では、各病棟にいろいろな係を置いていますが、その係の1つとして各病棟に1人以上の感染係を置いています。複数感染係がいる部署はその中の代表を「感染対策のリンクナース」(以下、リンクナース)として登録します。
リンクナースの選考は病棟師長が担当します。両委員会の方針に沿って、私が所属する「感染管理室」がリンクナースと連携して、実際の感染管理業務を遂行しています。
「感染管理室」では、他のメンバーは兼任ですが、私は専任ICNとして活動しており、私を含めた認定看護師の数人は、看護部長の直轄という組織体系になっています。
Q 現場での対策徹底という点でリンクナースの役割は重要ですね。

飯澤 : リンクナースには、日常の仕事をこなしながらよりよい環境作りに高い意識を持って活動することを求めています。例えば新人に対して、ゴミの分別、採血の手順、手袋着用をどうするかといった点に気を配りながら、日常業務をこなしていかなければなりません。
さらに、看護部から指示される感染対策関連の調査依頼などにも対応しなければなりません。リンクナースは、日々の仕事と並行してよりよい環境を作るために、どのスタッフよりも意識を高く持って活動していくことが求められます。

荒木 : リンクナースの存在が、感染管理に対する病棟の意識を高めることにつながっています。
専任ICNである私は現場にいないので、現場の状況についてリンクナースが、何が問題なのかを引き上げ、「感染管理室」に相談し、対応策を持ち帰って病棟で周知徹底します。
リンクナースは、現場で感染対策のモデルになっています。
一方的に指示しても、現場で周知徹底できません。現場のことは現場の人が一番よくわかるため、リンクナースの存在は重要であり、「感染管理室」としては現場が困らずに業務が継続できる方法を考えていくことが大切だと考えています。
そしてリンクナースが困ったときに相談にのって、少しずつ病棟全体を底上げできればよいと思っています。
また、リンクナースの意見は、病棟やICNだけでなく、看護部全体や、院内にもあがる場合があり、求められている感染対策を実践する上で、重要な役割を担っていると思います。

廣川 : 感染対策のリンクナースは病院全体で計24人おり、私は急性期消化器病棟の病棟スタッフ、リンクナースとして勤務していますが、感染管理に興味をもち自ら立候補しました。
私の病棟は45床で、計3人の感染係がいます。創傷管理や輸液ライン管理に関して気になることがあれば、部署のスタッフに注意し、記録に残し、アドバイスもしています。
感染対策に興味のない人でも同じ対応ができるように、病棟単位で底上げすることはリンクナースの重要な仕事です。
リンクナースは、文字通りICTと各部門、現場をつなぐリーダーであると考えています。
私は自ら手を挙げましたが、他の選考された人たちも、リーダーとしての自覚と気概を持って日々活動しています。
そして、それがICT活動の強化に役立ち、ひいては患者様のためになっていると思っています。

感染対策活動の現状

Q リンクナースの感染対策活動の現状についてお聞かせください。

廣川 : リンクナースはまず年度始めに、病棟の感染対策の課題と目標、計画を挙げます。
基本的に病院、看護部、ならびに看護部感染対策委員会の課題と目標に沿いますが、優先順位などを含めて、より具体的な現場の課題と行動目標を明確にします。
さらに評価項目も挙げ、9〜10月ごろには中間評価を実施します。ちなみに、私の病棟では2006年度の目標は、表1の5つを挙げました。
リンクナースは他のスタッフとともに行動目標に基づいて日々の感染対策活動を実践するとともに、MRSAなどその時々で発生した問題にもリーダーシップをもって対処します。
また、病棟の特殊性を反映した独自のマニュアルを(病院のマニュアルから外れない範囲で)作成したり、感染対策を実践しやすいよう物品の配置場所の工夫をしたりしています。
例えば、針廃棄容器を病院で新たに導入する際にも、実際に現場で使用可能かどうかを評価することは重要であり、このようなトライアルの実施先として現場で実践可能な対策のモニタリングも率先して行っています。

飯澤 : 日常的な感染管理活動の中核を担うのは「感染管理室」です。
微生物検査室から感染管理上重要な菌検出の第一報が入ると、直ちにカルテを開いて、病棟に出向いて指示するというのが基本的な活動になります。
専任ICNがいることで情報の交通整理ができ、時間も短縮できるし、病院の感染対策が高いレベルで維持できるようになりました。

荒木 : 「感染管理室」は感染対策の実働部隊という意味から実質的には「院内感染対策委員会」に対応するICTと位置づけています。
感染管理の上で問題が発生すると「感染管理室」に連絡がきます。それを受けて、私とICDが介入していくという形です。
主任看護師だけでなく、入職1年目や2年目の看護師からも私のところに連絡が来ます。
「感染管理室」に寄せられる報告に関して実際に対応したのは2005年度実績で年間114件です。これは、「感染管理室」として対応しなければならないもの、例えば流行性結膜炎が病棟で出た場合の、個室隔離の対応などです。
このほかに、個々の患者様へ投与すべき抗生剤は何かといったコンサルテーションがICDにいきます。
これが年間125件。そして、私のところには、洗浄をどうしたらよいか、ゴミ箱の位置をどうしたらよいか、サーベイランスをどうするかといった質問など90件の報告が来ています。

飯澤 : こうした報告については、細かい質問についてもどう答えたかを記録し、毎週木曜日に、前週の報告、連絡、相談についてすべてを「感染管理室」にあげて、判断が間違っていないということを確認しています。

荒木 : 専任ICNの配置によって、初期対応が早くなり、そしてフォローアップも継続してできるようになりました。従来は、その後感染がどうなったかについてフォローアップできなかったものが、現在は、結核などは全員転院されるまで、他の菌であれば検出されなくなるか、退院されるまでこちらで全部確認しています。

廣川 : 電子カルテによってどこでも書けて、どこでも見ることができるようになっています。リンクナースも、もちろん常に見ることができるので、適切に連携されているかの確認に役立てています。
Q ラウンドへのリンクナースの関わりは?

荒木 : ラウンドは、「環境調査」として年2回実施しており、必要に応じて院内感染対策委員会の権限により改善命令を出すことができます。またラウンドにはリンクナースも参加します。
リンクナースがラウンドするというのは、ほかの部署をみるという大きな意味があります。
リンクナースはなかなか他の病棟に行く機会がないので、病棟だけでなく、検査や病理など、普段行かないところへも一緒にラウンドします。今年はどこをみたいかといった希望を聞いて進めています。
また、できる限り普段の交流が少ない病棟のリンクナース同士が組めるように工夫しています。
その交流の中で、リンクナース同士が、自ら意見交換するようになっていくというメリットもあるようです。
リンクナース同士の交流により、自分だけがつらい思いをしているのではないという意識も芽生えるようになりました。

廣川 : ラウンドに参加することは、リンクナースにとって楽しみな活動の1つです(ラウンドを受け入れる側の立場の場合は、緊張しますけど)。
4-5人のグループで半日かけて複数箇所を、チェック項目を確認しながらまわります。
特に、同じ病棟スタッフであるリンクナースが、現場レベルの素朴な疑問や注意事項を、その病棟のリンクナースやスタッフに伝えることは、受け入れられやすく、とても効果的だと思います。
また、当院では、号館によって病棟の構造も異なるのですが、他の環境での工夫をチェックすることで、自分の病棟の実践に活かすことができます。
仕方ないと思っていたことがそうではなく、みんなそれぞれの環境で頑張っているということがお互いの励みになり、意見交換が刺激となって、現場の視点での効果的なラウンドができていると思います。

荒木 : 私の立場では指示しにくいという状況もありますが、同じ現場スタッフであるリンクナースが、ラウンド時に現場で熱心に改善の指示をしています。
ただ注意するよりも積極的な改善提案をしたいという気持ちが強いですね。
現場のスタッフが感染対策を嫌がるようになってしまったらどうしようもありません。
病棟のスタッフに協力してもらわなければ感染対策はできません。
最近では、リンクナース同士がお互いに「ここはおかしくない?」と言い合っている姿を見ると私の入る余地はないと感じます。
ただし、疑問点が解決できない場合には私が判断することになります。

Q 実際にラウンドをして参考になったことはありますか?

廣川 : 病棟によって使用している部材が違ったり、使用方法が違ったりするケースがあり、参考になることが多いですね。
例えば冷蔵庫の使用方法などは病棟によっては冷蔵庫に何でも混在させる病棟と、きちんと用途別に分けているところがあり、このようなラウンドを通して初めて気がつきました。
また点滴作成台で針の廃棄用BOXがまだ普及していなかったころに、ラウンド中にそれを使用している病棟があり、早速導入したというケースもありました。ずっと同じところにいると気がつかないことが多く、本当に役に立っています。
また、一般的にマネジメントする立場の方ですと、なかなか現場感覚が理解されず、一方的な指摘になってしまいがちだと思いますが、リンクナース同士で指摘しあえると、現場感覚に近い現実的な対応が可能です。

Q サーベイランスへのリンクナースの関わりは?

荒木 : ICUサーベイランスとNICUサーベイランスは現場のリンクナースとICDが行っています。
SSIサーベイランスは、消化器外科と心臓血管外科で行っています。消化器外科は私と医師が中心となり、心臓血管外科は各部署のリンクナースと、私と医師で実施しています。

廣川 : 日常的な多忙なケアの中でサーベイランスを実践していくことは、現場スタッフには難しい部分もあります。リンクナースの立場としては、例えば創傷部位に関心・興味をもってもらい、適切な管理がなされるよう努力しています。

Q 感染対策実施における組織的支援体制についてお聞かせください。

荒木 : 感染対策に関して、各部署が共通して抱えているような問題は「看護部感染対策委員会」に報告します。
看護部全体として、対策をとらなければならないことや共通して認識してもらわなければならないことは必ずみなさんに伝えます。
「看護部感染対策委員会」には、リンクナースから上がってきた意見も出します。
2〜3病棟に1人は「看護部感染対策委員会」の委員がいます。
リンクナースをフォローしているのは専任ICNだけではなく、各部署の委員もフォローしています。
リンクナースには2つの窓口が与えられています。リンクナースも孤立しがちですが、フォローするのは1人ではないということです。
ICNも、リンクナースの立場からみれば相談機能の一番大きいところだと思います。私にしてみると、リンクナースからあがってきたものを自分で決めるだけでなく、看護部にも相談できます。相談し、さらに決定された方針についても、1人で言うよりはリンクナースを通した方が周知徹底されやすいということです。

廣川 : 現場の病棟の意見が反映されやすくなりました。
「感染管理室」や「院内感染対策委員会」で取り上げていただく課題として、病棟のささいな出来事であっても相談しやすくなりました。
同じ看護師であるICNがいることで、相談しやすくなったということは大きいです。

荒木 : リンクナースとICN間だけで感染対策を終えてしまうのはよくないと思っています。
そのため、内容を判断して「看護部感染対策委員会」に報告し、場合によっては業務的に必要なことを委員会で決めていただいて、それをリンクナース会の報告などで、現場スタッフに返していく。そこが当院の大きな特長です。

教育と育成について

Q リンクナースの育成はどのように実施されていますか。

飯澤 : リンクナースの育成には力を入れています。
原則、臨床経験4年目以上をリンクナースの条件としていますが、若い人の活躍が刺激になって、全体のレベルが上がることを期待しています。
平均勤続年数が短縮化しているなかでは難しい要素もありますが、技術、知識、指導力もあるといったリーダーシップがとれる人材をリンクナースとして登録して育成していきたいと考えています。
リンクナースとして登録し、どんどん教育する。知識、技術について一定の基準を満たした人を、リンクナースとして位置づけていきたいという夢はあります。

廣川 : 私は入職後5年目ですが、2年目に感染対策係になりました。
感染対策が重視される部署に配属されたということに加えて、病棟内の感染対策係の集まりで具体的な感染対策の方法について発言することも楽しかったですね。
2年目の途中から病棟のサブリーダーになったことで「やらなきゃ」という気持ちがさらに強まりました。
創部の感染症に興味を持ったことも大きかったですね。感染に興味があるからだけでなく、リンクナースになってから初めて自覚が芽生え興味を持つ場合があります。
あるリンクナースは、今年は「知る」年だったが、来年は「実行する」年にしたいと言っています。自分の学びの機会になると思います。人に聞かれて「わからない」ことを、少しでもなくすようにしたいという意識がモチベーションになっているリンクナースもいます。
現在私は、専門知識を深めるために、病棟で勤務しながら大学院で勉強しています。病棟での業務改善だけであれば特に資格はいりませんが、感染管理は医師と協力することも多いので、医師と連携する際にも、専門的な知識や技術の裏づけが必要だと思います。

Q 院内職員を対象にした感染管理教育への取り組み状況についてお聞かせください。

荒木 : 看護部門の感染管理教育については、本年度から年4回シリーズの感染基礎研修を「感染管理室」主催で実施しています。
目的は、(1)感染の基礎知識を習得し、看護業務を踏まえた実際の感染予防策がわかる (2)感染の基礎知識を習得し、看護単位の、感染管理のリソースになることができる (3)院内感染防止に関する、医療チームの一員として重要な役割を担っていることの自覚ができる——の3つです。
テーマは、第1回目「スタンダードプリコーションと手洗い」、第2回目「正しい検体採取法、正しい検体提出について」、第3回目「感染経路別予防策」、第4回目「カテーテル管理」です。
1年目から10年以上と知識や経験のレベルがさまざまなためこのような教育研修の形をとっており、リンクナースだけでなく、師長、師長補佐、主任などのリンクナースを支える人たちも対象者としています。
研修時間は各回1時間です。病棟から依頼があれば、病棟での勉強会も15分から20分程度で随時開催しています。

廣川 : リンクナースの教育における役割については、例えば病棟でのゴミの問題など、日常的な改善はリンクナースが中心となってやっていくようにしています。
各病棟での活動に関してはリンクナースに一任されているので、病棟内の教育についても企画・運営しています。
今年は行動目標について係内での分担を決めて、勉強会の企画を立ててもらうようにしました。それまでは、どちらかというとリンクナースだけががんばるという形だったものを、係のメンバーにも自覚を持ってもらうように意識してやりました。
リンクナースが、その病棟で対応が徹底するように教育しなければなりません。若い看護師は、注意されたことを必要以上に気に掛ける場合が間々ありますので、個人に注意すべきこと、病棟全体で周知徹底すべきことなど、内容や状況によって言い方は変えています。
それとは逆に、感染対策は新しいことが多いので、ベテランの方には、手袋をつけて患者様に触れるのは失礼だという感覚があったりもします。
スタッフ個々の状況に応じた対応によって、よい方向にもっていきたいと思っています。

飯澤 : 病棟責任者は師長ですが、一方的に上から命令するという形ではない、リンクナースによる病棟スタッフへの教育は重要です。
ただ、病棟からの質問の内容も、感染管理のことがまったくわからないというものは減って、むしろこの対応でよいかどうかを確認するレベルに上がってきていると感じています。
リンクナースが機能して、病棟の底上げは着実に進んでいると思います。

感染対策のアウトカム評価、予算、今後の課題

Q 感染対策の成果、予算の確保についてはどのような状況ですか。

飯澤 : 感染対策のアウトカムということでは、針刺し事例の減少や、手袋着用率がアンケート調査によると60%から80%以上まで向上していること、血糖測定の際に手袋装着の必要性を知らないと答えた人が2回にわたる調査ではいなくなった、といった形で現れています。
リンクナースの成長も評価できると考えています。

荒木 : 当初はICUのMRSAが減ることをアウトカムに想定していましたが、あまり減っていません。NICUでは減りました。

飯澤 : 今後の課題ということでは、「感染管理室」にもう1人専任ICNを配置するということもありますが、院内感染対策は現場レベルできちんと管理してもらうことが一番です。
アウトブレイクが起こらないということが究極の目的であり、さらに知識・技術のレベルアップがあります。
「感染管理室」の仕事は、資格がありますというだけではできません。
各部門の業務を把握し、円滑に連携できる能力が必要になります。現場で実績を積んでから、専任として活動してもらうという形が望ましいと考えています。

荒木 : 将来リンクドクターを置きたいとも考えています。
在、院内感染発生時の対応窓口としてどの医師に連絡したらよいかを決めることについては許可を得ていますが、リンクドクターを置くところまでには至っていません。
ただ、現在の「感染管理室」にはリンクドクターに十分対応できるキャパシティーがありません。リンクナースが現場で相談できるリンクドクターの配置は今後の大きな課題です。

編集後記

今回のインタビューでは、大学病院のような大規模な組織の中での感染管理の難しさをリンクナースとICNとの関わりを通じて理解することができました。リンクナースという、現場に最も近い方々の活動をベースにしたボトムアップ型の感染管理活動は究極の感染制御のあり方を示唆しているようにも感じました。