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I's eye:新興菌種 Candida auris

複数の抗真菌薬に耐性を示す新興のカンジダ属菌種
CDCが注意喚起、本邦では?
2019年3月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

新興菌種 Candida auris1)

 カンジダ症はカビ(糸状菌)や酵母(酵母様真菌)を原因菌とする真菌感染症の一種で、酵母であるカンジダ属菌種によって引き起こされます。
感染は表在性で局所的なものから全身性の生命に関わるものまでが含まれますが、カンジダ属の主な菌種そのものは元々、体表面、消化管、そして膣粘膜に生息し、いわゆる正常微生物叢の一部を形成しています。したがって、カンジダ感染は、宿主の防御能の低下による日和見感染が大半です。
 主な原因菌種はCandida albicansですが、他にC. glabrata、C.tropicalis等の場合もあります。なお、感染が成立しても、痒みや刺激等症状による不快感はあるものの、一般的には、人の健康に大きな影響を及ぼすことはありません。
 ところが、生息宿主の生理的な変化、抵抗性の低下、例えば糖尿病の悪化、がん(悪性腫瘍)、エイズ(後天性免疫不全症候群)の発症等が原因で免疫機能が低下すると急激に菌数を増やし、さらに菌が血流に侵入して、全身性のカンジダ血症に至ることもままあります。
 そしてカンジダ血症にまで至ると、侵襲性感染症*aが成立して極めて重篤な症状を示し、不幸な転帰を迎えることにもなるわけです。
 カンジダ属は命名法の統一等も相まって、現在300を優に超える菌種の報告がなされています2)。2005年に本邦で収集された未同定の種名不明の1株、これは都内の医療施設で患者の外耳道浸出液から分離されたものですが、分子系統的な解析の結果新菌種であることが明らかとなって、分離株はC. aurisと命名されました(図1)1)

 分子系統的な解析・分類は、26S rDNA D1/D2ドメインの塩基配列データ〔およびITS region(internal transcribed spacer領域:複数のrRNAを比較)〕を基になされます。D1/D2ドメインの場合、分離株(JCM15448T)とC. haemulonii、C.pseudohaemulonii、およびC. ruelliaeそれぞれの配列の相同性は85.7%、 83.0%、 82.4%で、これらと近縁なカンジダ属の新菌種であると結論付けられました1)
 さて、本邦で分離されたJCM15448T株は試験された抗真菌薬〔4薬剤;AMPH-B(Amphotericin B)を含まず〕に対して感受性を示し、また分離が1株のみということも相まって、感染症学上の重大な事象であるという認識は乏しく、特別視されることはありませんでした。
 本件に関するSatohらの報告は2009年になされましたが、前後して海外での報告も相次ぐことになります。
 まず韓国の5大学病院で、慢性中耳炎の患者から2004~6年にかけて分離され保存されていた“普通ではない”15株に関する報告がありました。これらの多くがFLCZ(Fluconazole)に耐性を示し、また、他の薬剤に対するMICの上昇が見られることも併せて述べられました4)。そして分子系統的な解析の結果、これらも新菌種 C. aurisであることが明らかとなりました5)
 さらに韓国で初めての侵襲性感染症例(院内血流感染)の報告があり、3症例中1例(2分離株)は明らかにFLCZとITCZ(Itraconazole)に耐性と思われ、また、これは1996年に分離されていた最も古い株であることも示されました6)
 世界でC. auris分離・検出の報告は続き、韓国からの報告と時期を同じくして、インドから血流感染を起こしたアウトブレイクと推定される全例FLCZに耐性の12例(12株)に関する報告7)、およびFLCZ耐性のみならず、複数の薬剤にも耐性の株を含む症例報告がなされました8)
 そして多剤耐性株を含む感染、検出事例は南アフリカ、ベネズエラ、英国、クウェート、イスラエルと続き3,9)、米国における最初の7例の報告に至ります。
Candida auris(文献1より引用) 図1 26S rDNA D1/D2ドメイン塩基配列データを基にした分子系統的分類( 文献1より引用)
左:Candida auris(文献1より引用)
右: 図1 26S rDNA D1/D2ドメイン塩基配列データを基にした分子系統的分類( 文献1より引用)

米国での最初の報告、CDCが注意喚起10)

 2013年5月から2016年8月にかけて4州6施設(イリノイの2例は同施設)で検出され(表1)、6例(6株)のゲノム検査(全塩基配列確認)の結果(SNPの有無・数)からメリーランド、ニュージャージー、ニューヨークで同定された分離株は互いに密接に関連していることが明らかとなりました。また、イリノイの2株に関してはほぼ同一であり、また、病室内からも同様に検出され、環境中に存在できることも併せて明らかとなりました。
5例の分離株はFLCZに耐性、そのうち1株はAMPH-Bに耐性等2剤以上の薬剤に耐性、またはMICの上昇が見られる多剤耐性化をしていました。患者は重篤な基礎疾患を有していたので、死亡原因がC.aurisによるものとは必ずしも言えませんが、4名は死亡の転帰をたどっています。
 海外での検出事例、そして米国での一部多剤耐性化した7例の確認、および現在の同定システムでは検出が困難であること等も踏まえて、CDCは2016年6月に初めての、真菌の新興菌種C.aurisに関する注意喚起を発出するに至りました11)
表1 米国におけるC. auris 分離・検出の報告(2013~2016年)
表1 米国におけるC. auris 分離・検出の報告(2013~2016年)

今ある同定システムでの結果

 日常の検査には、糖やアミノ酸等の利用、分解パターンを菌種ごとにスコア化した生化学的手法による同定システムが汎用され、C. aurisを疑う場合も使用されることになります。
 しかしながら、表2にある一般的と考えられるこれらの同定システムでは、被験株(臨床分離株)の多くで正確な同定ができず、誤同定結果を得ることが示されています。
 その原因は、これら同定システムのほとんどでC. aurisのデータがいまだ収載されていないことにあることは明らかです。
なお、仮性菌糸・菌糸形成の有無で可能性を論じられるかもしれませんが、ここに示されているように、分離株によっては性状の違いが見られるので注意が必要です。
 本邦で分離された株(JCM15448T)は40℃まで良好に発育、42℃では増殖スピードが鈍化して45℃では発育しないと報告されています1)
 誤同定頻度の高いC. haemuloniiは40℃以上で発育が見られないので、両菌種を先ず識別するためには異なる培養温度で増殖の有無を確認することも必要かもしれません。
 ところで、CDCからC. aurisの同定アルゴリズムが提示され(2018年4月23日更新版が最新)、生化学的手法による同定システムでは唯一VITEK 2 YSTで初期結果C. aurisの場合はそのまま報告できると記載されています。
 他の同定システムでは、質量分析装置であるBruker Biotyper MALDI-TOF(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization-Time of Flight)のみが、C. aurisと確認できるデータベースを備えていることが示されています12)
表2 各種同定システムによるC. auris 誤判定の結果
表2 各種同定システムによるC. auris 誤判定の結果

確定同定

表3 CMdbを備えたBruker Biotyper MALDI-TOFの評価結果
表3 CMdbを備えたBruker Biotyper MALDI-TOFの評価結果
CDC提示の同定アルゴリズムには、同定システムで初期結果がC. haemulonii等でもC. aurisを疑う場合は“Needs further
work-up(拡張された詳細な試験)”で確定同定を、と記載されています12)
上述のごとく、Bruker Biotyper MALDI-TOFがC. aurisと確認できるデータベースを備えているとされますが、Satohら1)が最初に報告したrDNA D1/D2領域、およびITS region(internal transcribed spacer領域)の塩基配列の確認等分子生物学的な方法のほうがより精度の高い手法と考えられるので、可能であればこちらで判断すべきでしょう。
しかしながら、現実的には一般の検査室でこのような対応はほぼ不可能なので、今後本邦でもC. aurisの検出例が続き、日常検査の必要が生じるような際には、質量分析装置MALDI-TOFでの結果を以て確定同定とすることが求められるようになるのかもしれません。
表3は最新のデータベース(CMdb)を備えたBruker Biotyper MALDI-TOFの評価結果です13)。CMdbでC. aurisを100%検出できることが示されています。なお、他菌種も精度高く検出するためには、CMdbとRUO libraryを組み合わせたEPdbを使用する必要があります。

どのように対峙を

 感染宿主細胞への接着、侵襲を担う分泌性の毒素を産生、ならびにバイオフィルムや仮性菌糸、または菌糸の形成能が代表菌
C. albicansの病原性の高さを担っていると考えられますが、C. aurisはどうやら最強のC. albicansと同等の毒性を持つようです15)
 ただ、C. aurisの場合、バイオフィルム形成の有無や、仮性菌糸・菌糸の形成能がほとんどの株で認められないのに、なぜC.albicansに比肩する毒性を有するのかなど、いまだ不明な点も多く、今後の解析を待つ状況にあります。
 さて、不明な点はさておき、もしもC. aurisが分離された場合には、先ずは対応を取る必要があります。
 多剤耐性化とともに、宿主の状態によっては侵襲性の感染症を引き起こし、かつまた院内環境中での長期の生存も可能な新興真菌であることがほぼ明らかなので、何はともあれ伝播・感染を広げないことに注力しなければなりません。
 これは伝播を避ける、またはその危険を減じることに他なりませんが、そのためには標準予防策(スタンダード・プリコーション)*bと接触予防策*cの完全な履行が求められることになります。
 すなわち、菌が分離された患者の個室または集団隔離、病室の除菌、消毒ならびに関連する医療機器の除菌、消毒、清拭等を徹底することになるわけです。
 そのためには、有効な消毒薬が必要であることは言をまちませんが、C. aurisに対する完全な有効性が示された消毒薬はないようなので、これも今後の課題の一つで、残念ながら臨床現場の現状は心もとなく、歯がゆい感じを否めません。

最後に

 本邦での分離の報告は、2009年(Satohら)1)と2018年(Iguchiら)16)の2例のみで、またこれらは侵襲性の感染症、そして院内感染等に関連するものではないので、国立感染症研究所(NIID)からのC. aurisに関する情報発信もいまだなされていません。
 しかしながら、本邦以外の分離・発症事例は1996年まで遡れること、そして確定同定はDNAレベルでの確認、または最新のデータベースを備えたMALDI-TOFによる必要があり、既存の同定システムでは検出が難しいことなどを勘案すると、現在まで他の菌種として誤同定され、見逃されてきた事例も多かったのではと考えられます。
 差し当たって、本邦での多剤耐性のカンジダ属の報告は見受けられないので、適切な抗真菌薬が選択されなかったなど、過去の感染事例への憂慮は杞憂なのかもしれませんが、2016年に至る英国におけるアウトブレイクの例14)もみると、新興の新しい多剤耐性菌への怠りのない準備は?と心配するのは、私だけではないと思います。

(文責:武澤 敏行)

<脚注>

*a 侵襲性感染症: 非侵襲性とは異なり、本来無菌である組織、臓器等への菌の侵入で引き起こされ、重症例が多数。侵襲性カンジダ感染症(Invasive Candidasis)は一例。
*b 標準予防策(スタンダード・プリコーション): すべての患者の血液、体液(汗を除く)、分泌物、排せつ物、健常でない皮膚、粘膜は、感染性があるものとして対応すること。
*c 接触予防策: 感染経路別予防策の一つ。手袋、ガウンの着用、できれば個室収容、集団隔離(コホーティング)、器具は患者専用または患者ごとに必ず洗浄。

参照

1) Candida auris sp. nov., a novel ascomycetous yeast isolated from the external ear canal of an inpatient in a Japanese hospital. K. Satoh, K. Makimura, et al., Microbiol Immunol 53:41–44, 2009
2) Candida 属とは何か?─命名法改訂がもたらす酵母学名の再編─ . 遠藤力也, Microbiol Cult Coll 30(2):169-175, 2014
3) Candida auris: A systematic review and meta- analysis of current updates on an emerging multidrug- resistant pathogen_2017C. albicans
4) Candida haemulonii and Closely Related Species at 5 University Hospitals in Korea: Identification, Antifungal Susceptibility, and Clinical Features. Mi-Na Kim, et al., Clin Infect Dis:48, e57-61, 2009
5) Biofilm formation and genotyping of Candida haemulonii, Candida pseudohaemulonii, and a proposed new species (Candida auris) isolates from Korea.BONG JOON OH, et al., Med Mycol 49:98–102, 2011
6) First Three Reported Cases of Nosocomial Fungemia Caused by Candida auris. Wee Gyo Lee, et al., J Clin Microbiol49(9):3139–3142, 2011
7) New Clonal Strain of Candida auris, Delhi, India.Anuradha Chowdhary et al., Emerg Infect Dis19(10):1670-1673, 2013
8) Multidrug-resistant endemic clonal strain of Candida auris in India. A. Chowdhary et al., Eur J Clin Microbiol Infect Dis33:919-926, 2014
9) 各国での検出報告
https://www.cdc.gov/fungal/candida-auris/candida-auris-alert.html
10) 米国での最初の7例(2013年5月~2016年8月)
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/65/wr/mm6544e1.htm?s_cid=mm6544e1_w
11) Clinical Alert to U.S. Healthcare Facilities - June 2016. Global Emergence of Invasive Infections Caused by the Multidrug-Resistant Yeast Candida auris CDC_MMWR Nov. 2016.Investigation of the First Seven Reported Cases of Candida auris, a Globally Emerging Invasive, Multidrug-Resistant Fungus ̶ United States, May 2013–August 2016
https://www.cdc.gov/fungal/candida-auris/candida-auris-alert.html
12) Algorithm to identify Candida auris based on phenotypic laboratory method and initial species identification
https://www.cdc.gov/fungal/diseases/candidiasis/pdf/Testing-algorithm-by-Method-temp.pdf
13) Rapid, Accurate Identification of Candida auris by Using a Novel Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization–Time of Flight Mass Spectrometry (MALDI-TOF MS) Database (Library).Jian R. Bao, et al., J Clin Microbiol56 Issue4:e01700-17, 2018
14) First hospital outbreak of the globally emerging Candida auris in a European hospital. Silke Schelenz, et al., Antimicrob Resist Infect Control5:35, 2016
15) Comparative Pathogenicity of United Kingdom Isolates of the Emerging Pathogen Candida auris and Other Key Pathogenic Candida Species.Andrew M. Borman, et al., mSphere1(4):e00189-16, 2016
16) The Second Candida auris Isolate from Aural Discharge in Japan. Shigekazu Iguchi, et al., Jpn J Infect Dis 71:174–175, 2018