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第13回日本病院総合診療医学会学術総会 ランチョンセミナー2

開催地 東京都
会場 第2会場(品川プリンスホテル アネックスタワー5F「浅間・立山」)
開催日時 2016年09月16日 12:15〜13:05
司会

前田 隆浩 先生

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 先進予防医学講座 地域医療学分野 教授
備考 本セミナーは整理券制です。
配布時間:9月16日(金)8:00~
配布場所:品川プリンスホテル アネックスタワー5F (総合受付付近)
※整理券はセミナー開始直後に無効となります。
※整理券はお一人様一枚とさせていただきます。
(配布は先着順で、なくなり次第終了とさせていただきますので予めご了承ください)

共催:第13回日本病院総合診療医学会学共催術総会/日本ベクトン・ディッキンソン株式会社

「免疫老化」からみた高齢者の敗血症

なぜ高齢者は敗血症になりやすく、重症化するのか?

井上 茂亮 先生

東海大学医学部外科学系救命救急医学 准教授
東海大学医学部付属八王子病院救急センター センター長

 少子高齢化は日本が抱える大きな社会問題である。2030年には65歳以上人口は約3500万人に達し、総人口の約30%を占めるといわれている。高齢者では軽度な外傷や熱傷、脳梗塞、市中肺炎など軽度の侵襲から局所感染が全身性に波及する敗血症に陥り、重症化しやすい。
 高齢者では呼吸器や心臓、肝・腎・筋骨格系の機能が低下するとともに、加齢に伴い免疫機能も変化し、肺炎などの感染症の罹患率増加や重篤化と関与していると考えられている。この加齢に伴う免疫機能変化は「免疫老化 (immunosenescence)」と呼ばれ、主に抗原特異的な獲得免疫機能の低下を引き起こす。加齢に伴い胸腺は萎縮し、成熟T細胞の生成と供給が障害され、末梢におけるナイーブT細胞数は減少する。さらにCD8+ T細胞数の減少、T細胞の活性化障害、メモリーB細胞の抗体産生能・分化・増殖の低下など、T細胞やB細胞の様々な機能が加齢により障害される。また好中球の殺菌能、マクロファージの貪食能、樹状細胞の抗原提示能などの自然免疫系も加齢により障害される。このように免疫機能が障害された高齢者は体内に侵入した病原体を排除できない状態に陥るため、敗血症が重症化しやすいと考えられる。
 我々は65歳以上の高齢者敗血症の3ヶ月後生存率は18-64歳の成人敗血症と比較して有意に低く(59% vs.90%; p<0.01)、過剰な炎症反応やT細胞の数や機能の低下が遷延し、ICU入室後の2次感染率および死亡が増加していることを報告した(Inoue, et al. Crit Care Med. 2013, Crit Care 2014)。また65歳以上の高齢者敗血症では、ナイーブB細胞数の低下やB細胞のIgM産生障害、血清IgM濃度の低下などを認め、2次感染率の増加と関連していることを報告した (Suzuki et al. Shock 2015)。
 なぜ高齢者は敗血症に陥りやすく重症化するのか?超高齢社会の本邦の集中治療室で直面するこの疑問に対して、本講演では高齢者の加齢に伴う身体的・免疫学的変化を紹介するとともに、今後本邦で爆発的に増加しうる高齢者敗血症の病態と治療を指向した免疫学的アプローチを紹介する。