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第51回日本小児呼吸器学会 教育セミナー2

開催地 北海道
会場 ロイトン札幌2階 第3会場 ハイネスホール
開催日時 2018年9月28日(金)12:15-13:15
備考 ※本セミナーは整理券の配布は行いません。直接会場へお越しください。
共催:第51回日本小児呼吸器学会/日本ベクトン・ディッキンソン株式会社

抗菌薬適正使用と微生物検査
-上気道炎・肺炎・侵襲性感染症-

座長:柴田 睦郎 先生 北海道医療大学病院 診療教授・小児科 医長
演者:西 順一郎 先生 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 微生物学分野 教授

わが国では2016年4月に薬剤耐性(AMR)対策アクションプランが決定され、さまざまな分野で取り組みが開始されている。抗菌薬を使用することの多い小児科診療では、適正使用がとくに求められるが、不必要な抗菌薬使用を減らすだけではなく、使うべき時には十分量をしっかり使用する姿勢も重要である。
上気道炎については、2017年6月に厚生労働省が公開した「抗微生物薬適正使用の手引き」において「感冒に抗菌薬投与を行わない」ことが明快に記載された。また、急性咽頭炎の抗菌薬投与には、迅速検査等によるA群レンサ球菌(GAS)の検出を必須としており、微生物検査の重要性が強調されている。「小児感染症診療ガイドライン2017」でもGAS咽頭・扁桃炎の第1選択薬はアモキシシリンとされ、30~50 mg/kg/日・分2~3・10日間の用法用量が示されている。GASはペニシリン耐性株が世界で1株も報告されておらず、今後も耐性菌を作らない抗菌薬療法が求められる。
小児市中肺炎では、同ガイドラインで、治療のために原因微生物検査を積極的に行うこと、とくに血液培養や喀痰塗抹検査が推奨されている。小児での喀痰検査はそもそも行われないことが多いが、手順どおりに実施すれば決して困難ではない。細菌性肺炎の初期選択薬はアンピシリン、投与期間は5日間と簡潔に記載されている。また、肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)の普及で、ペニシリン耐性肺炎球菌が駆逐され、肺炎球菌の薬剤感受性が改善しており、AMR対策におけるワクチンの役割を示すよい例である。
侵襲性Hib感染症はHibワクチンの普及で激減したが、non-b型や無莢膜型による侵襲性インフルエンザ菌感染症が漸増している。侵襲性肺炎球菌感染症もPCVによって半減したが、非ワクチン型が増加し血清型置換がみられている。B群レンサ球菌は、早発型・遅発型ともに一定の頻度で推移しているが、高齢者で報告されているペニシリン低感受性株に注意が必要である。侵襲性髄膜炎菌感染症はわが国での罹患率は低いが、忘れてはならない重篤な疾患である。病原性の強いST11クローンが莢膜遺伝子組換えによってC群からW群に変化し海外で流行している。大腸菌による敗血症・髄膜炎の実態は不明だが、ESBL産生菌が増加しており抗菌薬選択に注意が必要である。
これらの侵襲性細菌感染症は、病初期には感冒などウイルス感染症と鑑別が困難であるため、抗菌薬適正使用が進む中でこそ、見逃してはならない疾患である。再診によるこまめな経過観察と血液培養検査の実施が望まれる。ヒトとともに存在する細菌は、ワクチンや抗菌薬の選択圧によって病原性や薬剤感受性をダイナミックに変えながら共進化しており、適切な微生物検査による病原体サーベイランスが重要である。