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症例5 - 院外で心静止による心停止を呈した39歳女性患者

心停止 心静止

欧州のケーススタディ集 臨床における体温管理療法

情報および背景

治療実施国:イングランド
治療実施施設:レスター王立病院

概要

# 院外心停止、心静止、心停止時間約15分後に蘇生開始
# 目標体温36℃
# CPC1

医師に関する情報 マイケル・S・リトル博士
D・クリストファー・バウチ博士

レスター王立病院(LRI)
成人集中治療部
イングランド、レスター
体温管理の院内実績 リトル博士:心臓、神経、外傷、および総合的な成人集中治療部において、7年間にわたり体温管理療法を施行。バウチ博士:心臓、神経、外傷、および総合的な成人集中治療部において、10年間にわたり体温管理を施行。
 + 機器・手法  Arctic Sun™ 5000 体温管理システム、大腿および背中用パッドを使用。プロポフォールと アルフェンタニル* を使用した神経麻酔による深鎮静により、シバリングの管理を実施した。
上記に加えて、アトラクリウムの投与と、神経筋遮断の評価のため末梢神経刺激を行った。

概要

もともと健康だった39歳女性が心静止による心停止をおよそ15分間呈した後、当院にて Arctic Sun™ 5000 体温管理システムによる体温管理療法が72時間施行された。

症例提示

患者年齢併存症の既往のない39歳女性で、入院当日まで問題がなかった。
発見時の状況自宅で患者が倒れる音を聞いた夫が、心拍出がなく無反応状態の患者を発見した。
初回の所見救急救命士による初回所見で心静止が確認された。夫がバイスタンダー心肺蘇生(CPR)を5分間行った。
患者が緊急状態にあった時間発見までにかかった停止時間は約15分。
病院到着前に取られた措置二次救命処置(ALS)のアルゴリズムに従い、LUCAS™ CPR システム(フィジオコントロール社、スウェーデン)を使用してCPRを継続。救急救命士によって現場で挿管された。
アドレナリン1mg を3回静注投与した後、ROSC(心拍再開)に至った。
併存症併存症なし。
病院到着時の患者の状態救急診療科に到着した時点で、GCSは6(E1V1M4)、瞳孔サイズは3で、光に対する反応あり。血圧170/90、脈拍(P)120の洞性頻脈。
自発的な換気努力を試みる。この時点の体温は34.2℃で、積極的な復温は行わなかった。
頭部CT(コンピュータ断層撮影)を実施したところ、出血、外傷、低酸素性脳障害の徴候はみられなかった。
病院到着時の心調律心臓専門医たちとの検討の結果、 初回リズムが心静止だったことから神経学的評価のため即座に血管造影を実施し、状況に応じてその後も血管造影を行うことを決定した。
神経麻酔による深鎮静と換気のため成人集中治療部へ移動。
心拍再開(ROSC)までにかかった時間Arctic Sun™ 5000 体温管理システムを使用し、72時間にわたり体温を36℃前後に維持した。当初は沈静のみを要したが、12時間の時点でシバリングが発生したためアトラクリウムの投与を開始し、四連刺激(TOF)の0~1を目標とした。鎮静と筋弛緩薬は72時間で中止し、患者は覚醒した。Arctic Sun™ 5000 体温管理システムと大腿・背中用パッドを使用し、正常体温(36℃)に達するまで徐々に復温を実施。
人工呼吸器から離脱し、コマンドに従うことができた時点で抜管した。
治療開始前のグラスゴー・コーマ・スケール(GCS)GCS 15/15で、わずかな記憶喪失を除いて神経障害なし。
入院時の診断名入心静止による心停止
実施された神経学的検査および予後の判定12誘導心電図では、虚血の徴候はみられなかった。その後は、24時間経過後にICUから退室し、48時間後に退院した。

冷却療法

事前冷却を開始した場所救急診療科の蘇生室
実施した事前冷却法蘇生中は積極的な加温を行わなかった。
体温管理を開始した診療科成人集中治療部
メインの温度プローブの測定部位食道
目標冷却体温36℃
目標温度の所要維持時間72時間
目標復温速度体温が正常だったため復温なし。
目標体温の到達にかかった時間入院時に既に36℃未満だったため、該当なし。
低体温療法/復温/常温療法に関連した合併症なし

院内プロトコルに準拠したか

「いいえ」の場合、その理由を簡潔に説明いいえ。
院内プロトコルは、体温管理療法(TTM)ではなく低体温療法を用いたNICEガイドラインIPG386に基づいていたため。

シバリングに対する処置

神経筋遮断薬/鎮静薬四連刺激(TOF)の0~1を得る速度でアトラクリウムを投与。
鎮静薬の種類RAS/CAM 評価のレベル‐5を目標にプロポフォールとアルフェンタニルによる鎮静を実施。

転帰

退院時の状態神経障害なし。GCS15、一部記憶喪失。
退院時の脳機能カテゴリー(CPC)CPC1 – 脳機能は良好。
6カ月時点のCPC(該当する場合)該当なし。CPC1を予測。
退院時の患者のステータス:生存/死亡生存

考察

院外心停止後に蘇生した意識消失患者では、死亡率および罹患率がともに高く、神経機能障害が顕著である。1 この場合の管理は、まず増悪原因の急性期管理を行い、次に患者にとって最良の神経学的転帰を得ることで構成される。
これまで様々な神経保護戦略が試みられてきたが、現在、NICEガイダンスは低体温療法の使用を提言している。2
初期の試験では、最長24時間の治療的低体温療法(32~34℃)と標準治療とを比較した。こういった試験で神経学的転帰および全生存期間の改善が示された。3,4 この結果に基づき、国内および国際ガイドラインで低体温療法が採用された。これらの試験で特筆すべき点は、脳酸素の必要量増加に伴う神経学的転帰の悪化に関連する発熱を、対照群の多くの患者が呈したことである。5
上記を背景に、発熱を交絡因子から除外するため、低体温療法と対照の平熱療法アプローチを比較する多施設共同無作為化対照試験であるTTMトライアルが実施され、36時間の治療において体温33°℃と36℃を比較した。TTM試験では、長い停止時間後の初期リズムが心静止である症例、頭蓋内出血および脳卒中の既往、初回体温が30℃未満である症例を除く、院外心停止後の全症例を選択基準に加えた。この試験では神経学的転帰や死亡率において差がみられず、院外心停止では発熱予防が神経保護のための最重要要素となるという理論を裏付けるものとなった。6 本症例は、初期リズムが心静止であり心停止は虚血に起因していない場合でも、Arctic Sun™ 5000 体温管理システムを使用した体温管理療法が良好な神経学的転帰をもたらす可能性を示している。


参考文献
1. Moulaert VR, Verbunt JA, van Heugten CM, Wade Dt; Cognitive impairments in survivors of out of hopsital cardiac arrest; a systematic review; Resuscitation; 2009; 80; 297-305.
2. NICE Guideline IPG 386 Therapeutic hypothermia following cardiac arrest: Guidance. www.nice.org.uk. Accessed on 10th September, 2014
3. Bernard SA, Gray TW, Buist MD, et al; Treatment of comatose survivors of out-of- hospital cardiac arrest with induced hypothermia; N Engl J Med; 2002; 346; 557-63.
4. The Hypothermia after Cardiac Arrest Study Group; Mild therapeutic hypothermia to improve the neurologic outcome after cardiac arrest; N Engl J Med; 2002; 549-56.
5. Leary M, Grossestreuer AV, Innacone S, et al; Pyrexia and neurological outcomes after therapeutic hypothermia for cardiac arrest; Resuscitation; 2013; 84:1056-61.
6. TTM Trial Investigators; Targeted Temperature Management at 33°C versus 36°C after Cardiac Arrest; NEJM; 2013; 369; 197-206.


販売名: Arctic Sun 5000 体温管理システム  医療機器承認番号 : 22700BZX00278000
販売名: Arctic ジェルパッド         医療機器認証番号 : 226ADBZX00175000

※本レポートはBD TTM ヨーロッパチームが作成したものを日本語訳にしたものです。
※今回ご提示頂いた結果は、著者の臨床経験例によるもので、全ての症例に当てはまるものではありません。患者様の状態、特性によって結果が異なる場合があることにご留意ください。
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