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CDCワークブック:監訳にあたり/満田 年宏先生

監訳にあたり
2005年2月吉日
横浜市立大学附属病院臨床検査部 準教授
満田年宏(みつだとしひろ)
本資料の原本は米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)が2004年2月14 日付けでウェブサイト上で公開したものである。米国では2000年の11月6日に連邦法で針刺し防止法が制定され(当時のクリントン大統領が連邦議案HR5178に署名し法制定された)、それ以降、米国における医療従事者の針刺し損傷による職務感染に対する認識と社会的な支援体制がソフト&ハードの両面において成熟しつつある。一方、我が国においても、日本環境感染学会、日本感染症学会、職業感染制御研究会などの学術活動を通して、職業感染に対する危機意識の啓発活動とその対策の充実が討議・改善・実行されてきた。その成果として、2004年の健康保険医療制度の改訂においては、安全機能付きの血管内留置針とその機能を持たないものとの保険点数上の差別化が図られ、厚生労働省も針刺し防止策に対して積極的な取り組みを見せ始めている。

「より安全な環境で医療に従事したい」と考えるのは、全ての医療従事者の切実な願いである。しかし、いったん医療の現場で診療・看護その他の業務に取り組むとこうした自らに襲ってくる感染に対する危機意識より、患者生命や医療の質の改善に重点が置かれ、自らを省みず感染管理上極めて危険な体制で業務に従事している場合がある。米国で針刺し損傷防止法案が採択された背景には深刻なHIV感染症/AIDSの蔓延があるが、我が国は国民病とまで言われたHBV/HCV感染症やHTLV-I感染症/成人T細胞白血病などによる血液媒介感染症のリスクが高く、この点では米国以上に積極的に針刺し損傷による職業感染防止策に取り組むべき立場にある。 

 鋭利器材損傷を含めた血液・体液曝露の実体を集計し評価する米国バージニア大学のJanine Jagger教授により開発されたサーベイランスシステムである「EPINetTM」およびその疫学統計処理ソフトウエアの「EpisysTM」は、職業感染制御研究会により日本語化され、無償で利用可能となっている(既に多くの施設が厚生労働省への報告に活用している)。我が国においても職業感染防止の気運が高まりつつあるが、医療の現場においても組織体制の改革や効果的でコスト面でも優れた診療材料の選択が求められる時代である。鋭利器材損傷の実態を科学的に評価する EPINetと、その評価内容を反映し適切な現場対処を実現するためのツールとしてのこのワークブックの両者を有効に活用することで、少しでも我が国における鋭利器材損傷による職業感染が減ることを願っている。

なお、読者の理解を深めるためできるだけ監訳者注釈を加えたのでご参照いただきたい。また、このワークブックは米国内の現状に則して作成されたものであり、読者各位におかれては我が国の現状を理解した上でご活用いただければ幸いである。

監訳者注:関連資料とURL

[資料]

(1)木村哲監修.インフェクションコントロール2002年増刊:セーフティマネジメントのための針刺し対策A TO Z. メディカ出版. 2002年11月

(2)Preventing Occupational Exposures to Bloodborne Pathogens:Articles from Advances in Exposure Prevention, 1994-2003 Editors: Janine
Jagger, M.P.H., Ph.D., and Jane Perry, M.A.(


[URL]
・職業感染制御研究会 
http://jrgoicp.umin.ac.jp/
・日本環境感染学会 http://www.kankyokansen.org/

・The International Health Care Worker Safety Center at the University of Virginia Health System
http://www.healthsystem.virginia.edu/internet/epinet/