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フランスにおけるICU入室時のMRSA保菌者検出(スクリーニング)の効果

必見!諸外国の医療経済事情
2006年10月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

日本や米国等において、院内でのMRSA感染率が高率なことが議論となっています。今回はフランスにおけるICU入室時のMRSA保菌者検出(スクリーニング)の効果について、費用効果分析も含め紹介します。

研究報告1

  メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が蔓延している病院での MRSA対策プログラムの費用と効果の比較を目的にフランスの大学病院の内科ICUで実施されたケースコントロール研究で、「ICU入室時の保菌者のスクリーニングと隔離は、隔離しない場合に比べ有益」であるとの結果が報告されている。
同研究は、入室時にMRSAの保菌率が4%であるフランスの大学病院の内科ICUで、1993年1月から97年6月の間に、ICUでMRSAに感染した 27例の無作為に選抜した患者と同時期に入室したMRSAに感染していない27例の対照患者を比較した。MRSA感染によるICU費用と MRSA対策プログラムの費用との比較を主なアウトカム評価項目に設定した。
 費用効果分析結果によると、MRSA感染例は対照例よりも有意に多くの治療行為を必要としている。MRSA感染例の治療にかかる平均総費用は、対照群の費用を9275ドル上回った。この結果から、MRSA対策プログラムによって、MRSA感染率が14%低下すれば「費用効果的である」としている。

 また、MRSA伝播率、伝播と感染の比率、ICU在室日数、隔離対策にかかる費用を変数とした感度分析では、MRSA対策戦略はICU入室時のMRSA 保菌率が1%〜7%の間では有効であり、伝播後に感染率が50%以上である場合は、対策手段の費用とMRSA伝播率によっては「有効」との結果が得られた。
これらの結果から、同研究報告は「MRSA感染が蔓延している病院のこの例では、ICU入院時の保菌者のスクリーニングと隔離は、隔離しない場合に比べ有益である」との結論を導き出している。

研究報告2

 フランスの11の病院における14のICUで、集中治療室入室時におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)保菌者の検出を目的とした多施設共同研究が、1997年7月1日から同年12月31日までの6カ月間にわたって行われた。
 研究結果報告によると、MRSAのスクリーニングを行って入室した2347例のうち、162例(6.9%、ICU間の範囲3.7%〜20.0%)が MRSA陽性であった。うち、54.3%はスクリーニングの検体のみで検出された。また、ICU初入室のMRSA陰性と考えられていた2310例のうち、スクリーニングによって新たに96例でMRSA保菌が認められた。また、多変量解析におけるMRSA保菌に関連する因子は、60歳以上、長期入院の後、移動してきた患者、入院または手術歴、直接入室した患者で開放創がある者——となっている。
 以上の結果から同研究は、(1)ICU入室時のMRSAスクリーニングは、MRSA保菌者の半数以上が検出されることから有用(2)ICU入室時のスクリーニングでは、鼻腔スワブおよび皮膚の損傷部からの検体を用いるべきで、もしあれば、さらに臨床検体を採取すべき(3)ICU入室時のMRSA保菌に関係する因子は、MRSA保菌を予測する感度スコアの開発に用いることはできなかった。したがって、入室時のスクリーニングはICUの患者の全員またはそのほとんどで行うべき(4)ルーチンでのICU入室時のスクリーニングは、MRSAの有病率が高い区域では経済的な節約になる場合がある——と結論している。また、これらの知見がICU以外の病棟に適用できるかどうかについては、「さらなる研究が必要」と慎重なコメントを付記している。