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I's eye: 真菌感染症

2008年6月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

今回のテーマは真菌感染症です。
真菌による感染症は、細菌やウイルスによる感染症に比べてなじみが薄いように思われますが、一般的に考えられるより身近にある感染症です。
例えば、表在性皮膚疾患の代表であるいわゆるミズムシ、タムシ(白癬菌という糸状菌が原因)の発生率は、あらゆる感染症の中で最も高く、全人口の10%を優に超えると言われています。特に、近年の易感染患者の増加に伴って、日和見(ひよりみ)感染症としても大きな注目を集めています。
また欧米では、エイズ患者の増加と相まって、多くの耳目を集めるに至っています。 さて、この感染を担う真菌は、一般的には“カビ”“酵母”と呼ばれており、これらによって引き起こされる感染症を真菌感染症/真菌症と言っています。
ところで、一口に真菌/カビ/酵母と言っても多くの種類があり、また感染部位によっても、深在性(内臓)真菌症、深在性(深部)皮膚真菌症、および浅在性(表在性)真菌症に分けられます。
種類は、担子菌(キノコの大部分を含む:キノコも真菌に含まれる!)まで含むと数十万とも言われ、真核生物に属する真菌は、有性、または無性的に作られる胞子から増殖すること、そして菌体の切断部位から成長増殖することなど、原核生物に属する細菌とはまったく異なる細胞構造と生殖様式、生活環を有しています。
おおまかには、菌糸を伸ばす糸状菌(mold,filamentous fungi)と、菌糸を伸ばさず、大部分の生活環を単細胞ですごす酵母(yeast cell)に分けることができ、それぞれ、多くの真菌感染症の原因となっています。


ところで近年、細菌による感染症は数々の抗生物質(抗菌薬)の開発に伴って減少をみるに至っていますが、真核生物である真菌には細菌に適応する抗生物質がまったく無効であるばかりか、かえって症状を悪化させる場合がままあります。
これは、細菌に対する抗生物質の使用によって正常細菌叢がダメージを受け、結果として真菌の増殖を促すためと考えられます。
さらに、易感染患者の場合、続発性の重篤な深在性真菌症を引き起こしやすく、その典型がHIVに感染したエイズ患者と言える訳です。 真菌は、院内感染菌としていまだ大きな注目を集めるに至っていませんが、高度医療の展開に伴って、ますます易感染患者の増加することは、容易に想定できると思います。
易感染患者が増加すれば、よく知られているMRSA等の細菌のみならず、真菌による院内での感染の続発も十分に考えられます。
したがって、医療関係者はますます真菌感染症に関わる機会が増えることになる訳で、真菌、特に病原真菌に関する十分な知識の習得は必須であると考えるべきでしょう。
【日和見(ひよりみ)感染症】
通常では病原性を持たないような弱毒微生物による感染症。宿主(感染者)に免疫不全などの問題があるため発症する。

【真核生物】
核膜に覆われた核、80Sリボソームを構造に持つ真核細胞からなる。

【原核生物】
核を持たず、70Sリボソームを構造に持つ原核細胞からなる。


参照
病原真菌と真菌症 改訂3版 山口英世 著 南山堂バイオテクノロジーのための微生物学基礎知識 西村千昭 監修 医薬ジャーナル社