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末梢静脈カテーテル関連 血流感染とその影響

必見!諸外国の医療経済事情
2009年9月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

島崎 豊 先生写真
島崎 豊 先生
【略歴】
1977年、大雄会一宮看護専門学校卒業。日本看護協会「感染管理研修」、聖路加国際病院「感染管理研修」、国立国際医療センター「エイズ看護研修」、県立愛知病院「結核感染予防研修」等を修了。1994年より愛知県厚生連 海南病院にて看護師長 感染管理責任者として勤務。
2005年に医療安全管理部 感染対策室 感染管理責任者 専任となる。

1. カテーテル関連血流感染(CR-BSI:Catheter Related Bloodstream Infection)の現状

 CR-BSIは、中心静脈カテーテル(CVC:Central Venous Catheter)に起因することが多いと考えられているが、実際には末梢静脈カテーテル(PVC:Peripheral Venous Catheter)でも発生しておりPVC-BSI 対策も重要視され、敗血症による死亡例も報告されている1)-5)。
 各国のICU におけるCVC-BSI 発生率は、米国1.8〜5.2/1,000日6)、フランス・ドイツ・イタリア・英国1.23〜4.2/1,000日7) 、日本1.3〜2.9/1,000日(JANIS院内感染対策サーベイランス2006年)と報告されている。

2. PVC-BSI対策の実際

図1 TPNとPPNの使用量の推移(月平均)
図1 TPNとPPNの使用量の推移(月平均)
 当院では、2002 年頃より中心静脈栄養(TPN:Total parenteral nutrition)に替わり経管栄養や経腸栄養、末梢静脈栄養(PPN:Peripheral parenteral nutrition)が多用されるようになったことに伴い、PPNに関連したPVC-BSIが問題視されサーベイランスを実施し対策を講じてきた(図1)。
1)PVC-BSI の発生率
 2003年5月1日から2004年7月31日までのTPNとPPN施行患者について調査した結果、調査期間中のTPNに関するCVC延べ日数は2,582日、PPNに関連するPVC延べ日数は11,046日であった。
 CVC-BSI 数は7 件、PVC-BSI は17 件。PVC-BSI 発生率は1.54/1,000日、PVC-BSI発生率は2.71/1,000日であり有意差は見られなかった(p<0.19)1)。


2)マニュアル作成
 CR-BSI対策マニュアルを整備して注意喚起することが最も重要であり、挿入時の無菌テクニックやカテーテル刺入部・輸液ラインの管理についてICTによる監査も必要である。
 当院で使用しているPVC挿入手順のパンフレットを図2に示す。手指衛生や手袋着用、駆血帯の衛生管理、PVC挿入時の無菌操作の徹底、ドレッシング材に挿入日を記載するなど写真を用いて示すことにより手技を統一することが可能である。
図2 末梢静脈カテーテル挿入手順
図2 末梢静脈カテーテル挿入手順
<3)ドレッシング材の選定
 CVC刺入部のドレッシングは、多くの施設でフィルムドレッシング材が使用されるようになったが、PVC 刺入部への使用も必要である。フィルムドレッシング材の選定で重要な条件は、水蒸気の透過性や固定力、操作性などであり、蒸れやすい製品はドレッシング材の交換が増加することによって、業務量やトータルコストへの影響もあるため個別コストのみで選択しない。

4)末梢血管カテーテルの材質
 Makiらは、テフロンとバイアロン(特殊ポリウレタン)についてランダム化比較試験(RCT)を行い、感染率は両群で差がなかったが、静脈炎の発生率はバイアロン製カテーテルが30%低率であったと報告している8)。

5)閉鎖式輸液ポートの選択
 Field らは、閉鎖式輸液ポートの構造により、メカニカルバルブよりもスプリットセプタムのポートの方がCR-BSI 発生率が優位に低減されると報告している(5.8/1,000日>2.6/1,000日)9)。

6)サーベイランスとフィードバック
 問題となる症例は、細菌検査室よりICTへ直ちに報告され介入できるシステムを構築することが必要である。
図3 感染対策とCR-BSI 発生数・血液培養検体数の推移
図3 感染対策とCR-BSI 発生数・血液培養検体数の推移
7)CR-BSI発生数の推移
 当院では、サーベイランスを基にマニュアルを整備し、ICTによる監査を強化した。
 また、輸液療法に関連する器材の見直しを図り、スプリットセプタムタイプの閉鎖式輸液システム導入やフィルムドレッシング材を水蒸気の透過性に優れた製品に変更、バイアロン製カテーテルを使用した安全機構付き静脈留置針を導入した結果、CR-BSI発生数の減少を見た(図3)。

3. CR-BSIに対する治療と期間

 PVC-BSIに対する抗菌剤治療のデータは乏しいが、CVC-BSIと同様と考えるのが一般的であり、臨床現場ではそのように対応されている。起炎菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌が主なものであり、メチシリン耐性株(MRCNS、MRSA)を考慮し、エンピリックな治療としてはバンコマイシンを投与することになる。体重やクレアチニンクリアランスにもよるが、通常はバンコマイシンを1〜1.5g/日の投与になり、グラム陽性球菌の治療期間は最低でも14日間となるためバンコマイシンを14日間使うことも十分ありえる。起炎菌が分かりメチシリン感受性株ならセファゾリンに変更して、合計14日間ということもあり、長期になると感染性心内膜炎に準じて4〜6 週間ということもあるがそれほど多いわけではない。
 全身状態が悪い場合にグラム陰性桿菌が感染している場合があり、頻度的には少ないがESBL産生菌などを考慮してメロペネム 0.5g×3回/日というのが一般的である。治療期間は7〜14日間となり場合によっては長くなることがある10)。
 バンコマイシンは1バイアル約4,000円であり、1日3バイアル使ったとして12,000円。カテーテル関連血流感染が発生すると最低でも14日間治療するため、抗菌剤の費用は168,000円と高額になる。
 医療機関において、使用頻度が高いPVC に関連する感染対策を強化しPVC-BSIを制御することは、医療の質向上と医療費削減に向けて重要な課題である。

参考文献

1)島崎豊他:当院の血管内カテーテル血流感染症のサーベイランス報告〜末梢静脈栄養と中心静脈栄養の比較〜、第20 回日本静脈経腸栄養学会、2005.
2)半田真美他:末梢静脈カテーテルの感染対策、第21 回日本環境感染学会総会、2006.
3)島崎豊:末梢血管カテーテル感染における穿刺部位標準キットの有効性、第21 回日本環境感染学会総会、2006.
4)安立なぎさ他:末梢静脈カテーテルに注目した血流感染防止への取り組み、第24 回日本環境感染学会総会、2009.
5)馬場智代他:末梢血管カテーテル関連MRSA 敗血症を経験して学んだ院内感染対策、第24 回日本環境感染学会総会、2009.
6)Pronovost P, Needham D, Berenholtz S, et al.An Intervention to Decrease Catheter-Related Bloodstream Infections in the ICU.N Engl J Med 2006, 355, 2725-2732.
7)E. Tacconelli*, G. Smith, K. Hieke, A. Lafuma, P. Bastide*Catholic University, Rome, Italy , Epidemiology, medical outcomes and costs of catheter-related bloodstream infections in intensive care units of four European countries: literature- and registry-based estimates,Journal of Hospital Infection , 2009, 72, 97-103.
8)Maki D.G et al,Risk factors for infusion-related phlebitis with small peripheral venous catheters.A randomized controlled trial.Ann Intern Med 1991; 114 : 845-854
9)Field K,et al:Incidence of catheter-related bloodstream infection among patientswith A needleless,mechanical valve-based intravenous connector in an Australian hematology-oncology unit. Infect Control Hosp Epidemiol. 2007; 28(5) : 610-613.
10)Clinical Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Intravascular Catheter-Related Infection: 2009 Update by the Infectious Diseases Society of America Clin Infect Dis 2009 ; 49 :1-45.