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感染症アラカルト: 疥癬 : 診断・治療~感染対策

2015年3月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

九段坂病院皮膚科 谷口 裕子 先生

はじめに

 疥癬とは、ヒゼンダニが皮膚の角層に寄生しておこる痒みの強い皮膚病である。長時間直接接触することで、ヒトからヒトに感染するが、患者が使った寝具に時間をおかず接触するなどの間接接触でも感染する。感染は家族内、病院、集団生活を行う施設、当直室、マッサージ院などで起こる。戦後大流行したが、衛生状態の改善により一旦減少し、海外旅行の増えた1975年頃から性感染症として流行が始まった1)。当初は20代の男女に多く見られたが、ほどなく高齢者の多い施設、病院での発症が多くなり、疥癬は高齢者の病気と認識されるようになった。しかし、最近保育園や会社の便座を介した集団発生が報告されており2) 3)、高齢者や医療従事者だけの疾患とはいえない状況になっている。
 病型には通常疥癬と感染力の強い角化型疥癬(ノルウェー疥癬)がある。通常疥癬では寄生したヒゼンダニの数が数十匹程度であるが、角化型疥癬では100万~200万匹に及ぶといわれる。病型によって対策が異なるので、区別して治療、対応することが必要である。

1. 疥癬の症状

 通常疥癬の典型的な症状は、 ① 腹部、大腿内側などに散発する粟粒大の紅斑性丘疹(図1)、 ② 手掌、指間、手関節部屈側、足側縁、趾間、臍などに生じる線状の鱗屑を伴う皮疹(疥癬トンネル)(図2)、 ③ 陰嚢、陰茎、大陰唇、臀部、腋窩などの小豆大の結節(図3)、である。 ① については、皮脂欠乏性湿疹など他の皮膚病に類似しているため、 ② ③ の有無に注意する。特に②は診断のポイントとなる(後述)。ほとんどの場合、顔面、頭部に皮疹は見られないが、乳幼児、高齢者では生じることがある。
 角化型疥癬は悪性腫瘍やステロイド内服などによる免疫低下を伴う患者に発症する。通常疥癬患者が誤診されて、ステロイドを内服、外用した場合にも角化型となることがある。典型例では顔面、頭部を含む全身、とくに四肢伸側に牡蠣殻状の鱗屑を付着する(図4)。一方、手、足などに限局して角化が見られる症例もある。角化型疥癬では爪疥癬を伴うことがあり、爪白癬に似た爪甲の肥厚を認める(図5)。また、角化型疥癬患者では瘙痒を訴えない場合があるので注意が必要である。
図1 腹部に散在する粟粒大の紅斑性丘疹 図2 手関節屈側、手掌中央の線状の鱗屑を伴う皮疹(疥癬トンネル) 図3 陰嚢、陰茎の小豆大の結節(原図 大滝倫子) 図4 手掌、指屈側の角化局面(原図 大滝倫子) 図5 爪白癬様の爪甲の白濁肥厚と趾腹、足底の角化局面

2. 診断・検査

図6 疥癬トンネルの先端より少し前方に虫体を認める(ダーモスコープ像) 図7 ヒゼンダニの雌成虫、卵、卵の殻
 疥癬の診断には、疥癬トンネルのある部位より虫体、卵を検出することが必須である。疥癬トンネルをダーモスコープで見ると、トンネルの先端の少し先に虫体が認められることが多い(図6)。結節の表面にトンネルを伴うこともある。これを眼科用鋏刀で切除あるいは注射針ですくい取り、鏡検する(図7)。トンネルが見られない場合、小水疱、痂皮を鏡検すると、虫体を検出できることがある。
 角化型疥癬は疑いさえすれば診断は容易である。四肢、躯幹の鱗屑、足底の角化部、爪甲下角質増殖部を鏡検すると、多数の虫体を検出できる。

3. 治療

 治療対象は「ヒゼンダニが検出され確定診断された患者」あるいは「確定診断された患者と接触機会があり、かつ典型的な臨床症状を呈する患者」である。疥癬では治療後、ヒゼンダニが全滅しても瘙痒、皮疹が遷延する場合があるため(疥癬後遺症)、診断がはっきりしないまま疥癬治療薬を投与すると、疥癬が治っていないのか、別の皮膚病なのか混乱のもとになる。しかし、施設などでの集団発生では、やむをえず一斉投与を行う場合もある4)。その際は、皮膚科専門医による経過観察が必要である。
 以下に現在国内で用いられている治療薬を示す(投与量は通常疥癬の目安)。このうち、保険適用があるのは外用薬のフェノトリン(スミスリン® ローション)、硫黄軟膏(院内製剤あるいは市販薬アスター® 軟膏)、内服薬のイベルメクチン(ストロメクトール®)である。硫黄軟膏は効果が低いため、通常疥癬ではフェノトリン外用薬またはイベルメクチン内服薬を用いることが推奨される。角化型疥癬では両者の併用を検討する。併用の場合はフェノトリンを塗布し12時間経過後に洗い流してから、イベルメクチンを内服することが勧められるが、併用方法は今後の検討が必要である。
 いずれの治療薬も、投与数日後、ダニが死滅する際にアレルギー反応により痒みが一時的に強くなったり、小丘疹や小水疱が出現する場合があるので、事前に患者に説明しておいたほうがよい。

1) 外用療法
外用薬は入浴後に頚から下の全身に膜を作るように塗り残しがないよう塗布する(高齢者や乳幼児では顔面、頭部まで塗布するのが望ましい)。とくに手、足や陰部などのヒゼンダニが卵を産む部位には入念に塗る。角化型疥癬では顔面、頭部にも塗布する。
① 5% フェノトリン(スミスリン® ローション)(保険適用)
 1回30g 1週間隔で2回塗布

2014年8月に発売された疥癬治療薬である。ピレスロイド系殺虫剤(除虫菊の有効成分とその誘導体)で、効果が高く、毒性が低いが、乳幼児、妊婦での安全性は確立していない。同系統のペルメトリン(後述)は海外の多くの国で第一選択薬であり、フェノトリンにも同様の効果が期待される5)。なお、アタマジラミ症に用いられる市販薬スミスリン® L シャンプータイプ、スミスリン® パウダーは0.4%フェノトリンであるが、この濃度ではヒゼンダニには無効である。
② 硫黄軟膏(5~10% 沈降硫黄ワセリン)(保険適用)
 1回20g程度 1日1回 5~15日間連日塗布

乳幼児、妊婦にも使用可能である。接触皮膚炎を起こしやすいので注意する。
③ クロタミトン(オイラックス® クリーム10%)(保険適用はないが、容認されている)
  1回20g程度 1日1回 10~14日間連日塗布

乳幼児、妊婦にも使用可能であるが、大量または長期にわたる広範囲の使用は控える。接触皮膚炎を起こしやすいので注意する。名称がオイラックスの外用薬でも、オイラックスHクリーム、市販のオイラックスA、オイラックスPZ軟膏・クリーム、オイラックスデキサS軟膏はステロイドが含有されているので使用してはいけない。
④ 安息香酸ベンジルローション(12.5~35%水溶液あるいはアルコール溶液)
 1日1回約100mL程度、5日後に再塗布(3日間連日塗布、あるいは隔日で3回など種々の投与法あり)

乳幼児、妊婦での安全性は確立していない。国内では院内製剤で使用されているが、保険適用はない。刺激性があり、中枢神経系の副作用が報告されているので、顔面、頚部への外用は慎重に行う。
⑤ 5%ペルメトリン(Permite®CREAMなど)
 1回20g程度 1週間隔で2回塗布

2ヵ月以上の乳児、授乳婦、妊婦における安全性が報告されており、効果も高いため、海外の多くの国で第一選択薬である6)。しかし、国内では認可されていないため、医師の責任で輸入し、投与に際してインフォームドコンセント、同意書が必要となる。頻回に使用すると接触皮膚炎を起こす。

2) 内服療法
 イベルメクチン(ストロメクトール® 3mg)(保険適用)
 200μg/kg 空腹時 1週間隔で2回内服

妊婦,体重15kg 未満の小児での安全性は確立していない。肝機能障害、血小板減少の副作用が報告されており、投与前後の血液検査が必要である。高齢者や胃瘻患者では吸収がよくないためか効果が不十分な例が見られる3)。なお、ストロメクトール® の添付文書では糞線虫症の治療法に基づき、投与間隔が2週間となっているが、疥癬ではヒゼンダニのライフサイクルを考慮して、1週間隔とすべきである。
 外用、内服のいずれの治療薬も卵には効果が少ないため、フェノトリンやイベルメクチンは1週間おきに最低2回の投与が必要である。なぜなら、卵が孵るのが3~4日、産卵から成虫までが10~14日であり、2週間間隔で投与すると次の卵が産まれてしまうからである。ステロイド外用薬を長期に使用していた症例や角化型疥癬患者、原疾患のためステロイドや免疫抑制剤を全身投与されている患者では3回以上の投与が必要になることがある。

4. 治療開始後の注意

 治療によりダニが全滅しても痒みや丘疹、結節をくり返す場合があり、数年続くこともある(疥癬後遺症)。とくに乳幼児では手掌、足底に水疱が出没することがある。この場合はダニが検出されないことを確認した上で、内服、外用の抗ヒスタミン薬やステロイド外用薬を用いた治療を行う。漫然と疥癬の治療薬を投与することは毒性のため危険である。
 また、オイラックスクリーム® による接触皮膚炎を生じ、疥癬が治らないと誤解されている症例がしばしば見られるので、注意が必要である。

5. 感染対策

 感染した可能性のある人(家族、介護している人など)は受診させ、症状に応じて治療する。症状がない場合、通常疥癬の患者から感染する場合の潜伏期間は1ヵ月程度、角化型疥癬からだと1週間程度であることを念頭に経過観察する。高齢者施設で疥癬が集団発生する場合は、ほぼ必ず角化型疥癬患者が感染源となっているので、感染源をつきとめることが重要である。角化部が足底などに限局していて見逃されていたり、角化型疥癬患者の治療後に爪疥癬が残存していて感染源となっている場合がある。
 生活指導としては、通常疥癬では掃除、洗濯は普通でよく、部屋に殺虫剤を撒布する必要はない。但し、共用の洋式便座はそのつど清拭した方がよい。また、通常疥癬でも長時間密着して介助する場合などは手袋・ガウンを着用する。角化型疥癬では隔離、介護者の手袋・ガウン着用、洗濯物の熱処理(50℃、10分)あるいは殺虫剤撒布、部屋の殺虫剤撒布などが必要となる。

文献

1) 大滝倫子:節足動物と皮膚疾患.疥癬の症状と治療.東海大学出版会,東京.P155-171,1999.
2) 牧上久仁子、大滝倫子、石井則久:園児間で伝播した保育園感染集団感染例.皮膚科の臨床51(13):1843-1846,2009.
3) 相馬かおり、川瀬正昭、江藤隆史:会社内トイレの暖房便座を介しての感染が疑われた疥癬の症例.日本臨床皮膚科医会雑誌30(4):441-443,2013.
4) 大滝倫子,谷口裕子,牧上久仁子:高齢者施設での疥癬の集団発生に対するイベルメクチンの治療効果.臨床皮膚科59(7):692-698,2005.
5) 石井則久、四津里英:今後期待の皮膚科治療薬 Part.1 疥癬 総説2 ピレスロイド系薬剤.Visual Dermatology11(7),2012.
6) 森下綾子、谷口裕子、滝野長平、大滝倫子:疥癬に対するペルメトリンクリームの有効性について.日本皮膚科学会雑誌120(5):1027-1032,2010.