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感染制御と法的義務

2016年2月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

 感染症に関連する法律に、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)」や「新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)」、「医療法」などがあり、感染制御に関する内容は医療法施行規則に記載されている。感染症法や特措法は広義の感染制御と言えるが、これらに記載された法的義務についてまとめてみた。
 一般的に感染制御は院内感染の予防や対応に関する視点で説明されることが多く、医療法施行規則では以下の措置を講じることが要求されている。
1) 院内感染対策のための指針の策定
2) 院内感染対策のための委員会の開催
3) 従業者に対する院内感染対策のための研修会の実施
4) 当該病院等における感染症の発生状況の報告その他院内感染対策の推進を目的とした改善のための方策の実施

 感染症法では指定された感染症患者の届出が義務付けられており、新たな感染症の出現により、届出をしなければならない感染症が増えてきている。現在、一類感染症で7種、二類感染症で7種、三類感染症で5種、四類感染症で43種、五類感染症で22種に届出義務が課されている。また、一類から四類までに指定された感染症と、五類のうち侵襲性髄膜炎菌感染症と麻しんは直ちに届け出ることとなっており、それ以外の五類感染症は7日以内に届け出ることになっている(表1)。さらに近年、国際的に危惧が拡大しているテロに関連して、バイオテロに使用されるおそれのある病原体等について管理が強化され、一種病原体等から四種病原体等までを特定し、分類に応じて所持や輸入の禁止、許可、届出、基準の遵守等の規制が設けられている(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/gaiyou150807.pdf を参照)。一種から三種の病原体等を運搬するに当たって公安委員会への届出が義務付けられている。その他の病原体についても、運送業者ごとに約款などに記載された受け取り拒否条件などがあるため、それらを知っておく必要がある。
 これに加え、特措法では国民生活や経済に重大な影響を及ぼすおそれのある新型インフルエンザ等に対して、感染症法や検疫法、予防接種法等を補うものとして施行されている。この法律でいう「新型インフルエンザ等」には以下のものが含まれる。
1) 新型インフルエンザ: 国民の大部分が免疫を持たないことから、全国的に急速に蔓延し、国民の生命及び健康に重大な影響を与える恐れがあるもの。
2) 再興型インフルエンザ: かつて世界的に流行したインフルエンザで、現在の国民の大部分が免疫を持たないことから、全国的に急速に蔓延し、国民の生命及び健康に重大な影響を与える恐れがあるもの。
3) 新感染症: 既知の疾病と病状や治療の結果が明らかに異なるもので、病状の程度が重篤であり、新型インフルエンザと同様に、蔓延により国民の生命及び健康に重大な影響を与える恐れがあるもの。
 また特措法では、新型インフルエンザ等の発生時に都道府県知事によって医療関係者への要請、または指示を行うことができるとされており、東日本大震災の発生を機に未知の感染症を災害として意識したものになっている。
 新たな感染症の発生だけでなく、院内感染などへの国民の関心が高まっている現在、これらの法的義務について再確認してみてはいかがであろうか。
表1 すべての医師がすべての患者の発生について届出を行う感染
一類感染症(ただちに届出)
エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱
二類感染症(ただちに届出)
急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(病原体がコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限る) 、中東呼吸器症候群(病原体がベータコロナウイルス属MERSコロナウイルスであるものに限る) 、鳥インフルエンザ(H5N1)、鳥インフルエンザ(H7N9)
三類感染症(ただちに届出)
コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス
四類感染症(ただちに届出)
E型肝炎、ウエストナイル熱、A型肝炎、エキノコックス症、黄熱、オウム病、オムスク出血熱、回帰熱、キャサヌル森林病、Q熱、狂犬病、コクシジオイデス症、サル痘、重症熱性血小板減少症候群(病原体がフレボウイルス属SFTSウイルスであるものに限る)、腎症候性出血熱、西部ウマ脳炎、ダニ媒介性脳炎、炭疽、チクングニア熱、つつが虫病、デング熱、東部ウマ脳炎、鳥インフルエンザ〔鳥インフルエンザ(H5N1およびH7N9)を除く〕、二パウイルス感染 症、日本紅斑熱、日本脳炎、ハンタウイルス肺症候群、Bウイルス病、鼻疽、ブルセラ症、ベネズエラウマ脳炎、ヘンドラウイルス感染症、発しんチフス、ボツリヌス症、マラリア、野兎病、ライム病、リッサウイルス感染症、リフトバレー熱、類鼻疽、レジオネラ症、レプトスピラ症、ロッキー山紅斑熱
五類感染症(侵襲性髄膜炎菌感染症および麻しんはただちに届出)
アメーバ赤痢、ウイルス性肝炎(E型肝炎およびA型肝炎を除く)、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症、急性脳炎(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎およびリフトバレー熱を除く)、クリプトスポリジウム症、クロイツフェルト・ヤコブ病、劇症型溶血性レンサ球菌感染症、後天性免疫不全症候群、ジアルジア症、侵襲性インフルエンザ感染症、侵襲性髄膜炎菌感染症、侵襲性肺炎球菌感染症、水痘(入院例に限る)、先天性風しん症候群、梅毒、播種性クリプトコックス症、破傷風、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症、バンコマイシン耐性腸球菌感染症、風しん、麻しん、薬剤耐性アシネトバクター感染症
指定感染症(ただちに届出)
なし
※ジカ熱は四類感染症に指定される予定(2016年2月2日現在)

表1の続き 指定した医療機関が患者の発生について届出を行う感染症
小児科定点医療機関(全国約3,000ヵ所の小児科医療機関)が 週単位(月~日)で届出するもの
RSウイルス感染症、咽頭結膜炎、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、水痘、手足 口病、伝染性紅斑、突発性発しん、百日咳、ヘルパンギーナ、流行性耳下腺炎
インフルエンザ定点医療機関(全国約5,000ヵ所の内科・小児科医療機関)および 基幹定点医療機関(全国約500ヵ所の病床数300以上の内科・外科医療機関)が 週単位(月~日)で届出するもの
インフルエンザ(鳥インフルエンザおよび新型インフルエンザ等感染症を除く)
眼科定点医療機関(全国約700ヵ所の眼科医療機関)が週単位(月~日)で届出するもの
急性出血性結膜炎、流行性角結膜炎
性感染症定点医療機関(全国約1,000ヵ所の産婦人科等医療機関)が 月単位で届出するもの
性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症
基幹定点医療機関(全国約500ヵ所の病床数300以上の医療機関)が 週単位(月~日)で届出するもの
感染性胃腸炎(病原体がロタウイルスであるものに限る)、クラミジア肺炎(オウム病を除 く)、細菌性髄膜炎(髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌を原因として同定された場合 を除く)、マイコプラズマ肺炎、無菌性髄膜炎
基幹定点医療機関(全国約500ヵ所の病床数300以上の医療機関)が 月単位で届出するもの
ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、薬剤耐性緑膿菌 感染症
疑似症定点医療機関(全国約5,000ヵ所の内科・小児科医療機関)が届出するもの
摂氏38度以上の発熱および呼吸器症状(明らかな外傷または器質的疾患に起因するもの を除く)、発熱および発しんまたは水疱

厚生労働省ウェブサイトより引用 (http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/kekkaku-kansenshou11/01.html)
(文責:日本BD 小林 郁夫)