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小児ウイルス性疾患に対する抗体検査とワクチン接種

職業感染対策実践レポート Vol.4
2006年10月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。
はじめに

 医療従事者は、職業上、さまざまな感染の危険にさらされているが、中でもウイルス感染症の防止のためにはワクチン接種が極めて有効な防御手段であり、麻疹・水痘・風疹・流行性耳下腺炎などいわゆる小児ウイルス性疾患に対するワクチン、その他にインフルエンザワクチンやHBVワクチンなどが挙げられる。今回は、本院において職員の小児ウイルス性疾患の感染予防を目的に行っている抗体検査とワクチン接種について紹介する。
新潟大学医歯学総合病院
感染管理認定看護師
内山正子

感染対策に取り組まれたきっかけは?
以前から専門分野で仕事をしたいと考えていたのですが、2 0 0 0 年から院内感染対策委員会の委員となりサーベイランスなどを行ううちに、感染対策に興味を持ち、ICNを目指すことにしました。

小児ウイルス性疾患が発生した場合の問題点

成人が小児ウイルス性疾患を罹患した場合、重症化しやすく、また妊娠中に風疹を罹患した場合、胎児への影響が心配される。一方、院内で一度患者が発生した場合、抗体を保していない他の患者や職員がその感染性のある時期に接触すると、感染の危険が生じる。それらのうち誰かが罹患すれば、2次感染、さらには院内蔓延の危険もある。この事態を避けるためには、抗体を保有していない接触者を対象とした緊急ワクチン接種の実施、その接触者が職員の場合は就業制限、患者の場合は隔離や退院等の対策、ときには入院制限が必要となり、人的にも経済的にも負担が極めて大きい。

麻疹発生

 本院では、感染管理部門が、小児ウイルス性疾患が院内で発生した場合の問題点を検討し、病院の体制整備、特に職員の抗体検査やワクチン接種が重要であることを病院管理部門に働きかけた。平成16年度には麻疹と水痘について、職員全員の抗体検査と抗体陰性者に対するワクチン接種を実施することが決定され、実施計画を作り始めた。
 そのような状況の中、医師1名が麻疹を発症し、約2週間後に同部署の看護師2名が相次いで麻疹を発症するという事例が発生した。この2次感染事例を受けて、接触者の緊急抗体検査を実施し、抗体非保有者の就業制限を行った。その結果、当該病棟の看護師の約半数が抗体を保有しておらず、就業制限に伴い同病棟の運営が困難となり、約2週間の病棟閉鎖を余儀なくされた。計画の実施がもう数カ月早ければ避けられた事態であったが、これも貴重な経験といえる。

麻疹発生事例を教訓として進めた対策

 上記事例発生を契機に小児ウイルス性疾患発生時の対応マニュアルと院内感染対策上問題となる感染症が発生した場合の連絡体制を整備した。さらに、外部委託を含む職員全員を対象に小児ウイルス性疾患4疾患の抗体検査を実施し、空気感染する麻疹と水痘の抗体陰性者にワクチンを接種した。麻疹・風疹・流行性耳下腺炎の抗体検査は感度の比較的良好なHI法、水痘はIAHA法で実施し、費用は病院負担とした。ワクチン接種は、副反応を考慮し、抗体非保有者のうち希望者に接種し、費用は個人負担とした。
 麻疹を例にとると、1750名のうち405名(23.1%)が抗体陰性であった。既往歴・ワクチン接種歴があるとされた783 名のうち、実際には203名が抗体陰性であった(図1)。この結果から、麻疹が発生したときに、既往歴やワクチン接種歴の聴取による接触者対応では不十分であることが明らかである。  麻疹抗体陰性者の約57%(229名)、水痘陰性者全員(4 名)がワクチン接種を受けた。翌年度からは、新採用職員を対象に抗体検査とワクチン接種を実施し、病院がそれらの結果を個人情報として厳重に管理して、院内感染防止対策に役立てることとしている。また、外部委託職員や本院で臨床実習を行う学生に対しては、少なくとも抗体検査を実施して抗体保有の有無を明確にしておくことを受け入れの条件とし、さらに抗体陰性者にはワクチン接種を推奨している。

おわりに

 職業上の曝露による感染を予防するため、あるいは医療従事者自身が感染源となることを防止するために、今後多くの医療施設や医療系の学校で、少なくとも医療従事者に対しては各種抗体検査を行い、ワクチン接種を推進する体制を構築すべきであると考える。