医療関係者向けのページです

特集:カテーテル関連尿路感染予防のためのCDCガイドライン2009について

2010年10月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。


2010年10月
満田 年宏 先生
公立大学法人 横浜市立大学附属病院 感染制御部 部長(准教授)
東京医科大学 微生物学講座兼任准教授
日本臨床微生物学会理事、日本環境感染学会 教育委員会委員長

はじめに

カテーテル関連尿路感染予防のためのCDCガイドライン2009が公開された。本稿ではこのガイドラインの概要について紹介したい(ガイドラインの全訳,詳細な解説については満田年宏拙訳・著 “カテーテル関連尿路感染予防のためのCDCガイドライン2009(ヴァンメディカル刊)” をご参照いただきたい)

概要

米国疾病制御予防センター(Centers for Disease Control and Prevention [CDC], http://www.cdc.gov/)の公開している感染予防のための各種ガイドラインの中でも1981年に公開された“カテーテル関連尿路感染予防のためのCDCガイドライン(Guideline for Prevention of Catheter-associated Urinary Tract Infections.1981)”は最も古く改訂されずにいたが2009年末にようやく大幅な改訂がなされた。改訂された“カテーテル関連尿路感染予防のためのCDCガイドライン2009(Guideline for Prevention of Catheter-Associated Urinary Tract Infections 2009,http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/guidelines/CAUTI_Guideline2009final.pdf)”は,本文と付録の2部構成で,CDCのウエッブサイトからのみ全文がファイルで公開されている(http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/dpac_uti_pc.html)。
ガイドラインに引用された文献は281件(1981年版は35件),水準が割り当てられた勧告の数は70件(1981年版は23件)にのぼる。


今回のガイドラインは次のように構成されている。I. 要旨(※改訂の趣旨の説明),II. 勧告の概要(※勧告文そのもの),III. 履行と監査(※CDC によるケアバンドルと改善サイクル紹介),IV. さらなる研究のための勧告( ※高い質のエビデンスの創出が求められている課題項目),V. 背景(※カテーテル関連尿路感染の定義や疫学情報を紹介,VI. 対象範囲と目的(※誰が尿路カテーテルケアが必要なのか,その運用方法,閉塞時の対応について紹介),VII.方法( ※ガイドラインの策定工程,勧告の水準の定義を紹介),VIII. エビデンスのレビュー(※主要な論点についてのエビデンスの評価),参考文献,である。
勧告の強さ(水準)は,改訂版医療感染制御の実務に関する諮問委員会(HICPAC) の分類法にもとづいている(カテゴリーIA:最終的に実際の臨床的有益性または有害性を示唆する高度〜中等度の質のエビデンス†により支持された強い勧告,カテゴリーIB:実際の臨床的有益性または有害性を示唆する質の低いエビデンスにより支持された強い勧告か,質の低いまたは非常に低いエビデンスにより支持された慣例,カテゴリーIC:州法または連邦法で規定された強い勧告,カテゴリーII :臨床的有益性と有害性の得失評価により示唆されたエビデンスにより支持された弱い勧告,勧告なし/ 未解決の課題:有益性と有害性の得失評価が不明な質の低いまたは非常に低いエビデンスが存在する未解決の課題)。

改訂の特徴

ガイドラインの策定に関してこれまでのガイドラインと大きく進歩した点が2つある。
(1) システマティックレビューの文献を引用していること(※訳注:システマティックレビュー[systematic review] とは,あるテーマに関して一定の基準を満たした質の高い臨床研究を集めそのデータを統合し,総合評価の結果をまとめた文献のこと。世界中で行われている臨床研究のデータを集積しているので信頼性は高く,多くの文献を読む労力を省くことが可能となる。代表的なシステマティックレビューにはコクラン共同計画[The Cochrane Collaboration,http://www.cochrane.org/] がある。)
(2) 臨床ガイドラインの勧告に関する査定,開発,評価に関する等級付けシステム(Grading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation [GRADE],http://www.gradeworkinggroup.org/) の手法を適用していること。
さらに,引用文献の質的評価や勧告の水準を決めた要因に関しての付録資料も公開されている点も今までにガイドラインにはない試みである。
今回のガイドライン改訂の特徴として,病院内にとどまらずに医療を提供している全ての環境に対応して策定されている。
基本原則として(1)不必要なカテーテル留置をなくす(あるいは留置するにしてもその期間を短縮し),(2)過剰な微生物学的な検査の実施や予防的な抗菌薬投与についても慎むべきであることを強く主張している。
カテーテル留置の代替法としての間歇的自己導尿についても詳細なレビューがなされている。

策定にあたって検討された主要な論点 (Key Questions)

カテーテル関連尿路感染(CAUTI) 予防に関するエビデンスを評価するため,(1)尿路カテーテル処置はだれが受けるべきか?,(2)尿路カテーテルを要する患者にとっての最良の実践とは?,(2)尿路カテーテルの閉塞に伴うカテーテル関連尿路感染予防のための最良の実践とは?といった3つの主要な論点をまず立てこれに関連する背後の論点に関するデータを検討している(詳細な論点は表1参照のこと)。

表1. カテーテル関連尿路感染予防についての主要な論点
満田年宏訳・著.“ カテーテル関連尿感染予防のためのCDCガイドライン2009(ヴァンメディカル刊, 2010)”より引用

勧告の概要

勧告は次の内容で構成される。(1)尿路留置カテーテルを要する患者(または留置カテーテルの代替法を要する集団)に関する勧告,(2)カテーテル挿入に関する勧告,(3)カテーテルのメンテナンスに関する勧告,(4)カテーテルの適切な留置,ケア,および抜去を実践するための質改善プログラム,(5)必要な管理基盤,(6)サーベイランスの戦略(表2 に尿路留置カテーテル使用に関する適応例と不適切な使用例について記載した原文の表2.を紹介する)。
今回の改訂ガイドラインでは,旧ガイドラインの更新に加えて,長期的なカテーテル留置を要する患者や間歇的導尿など他の導尿法により管理可能な患者におけるカテーテル関連尿路感染予防について,現在のエビデンスをレビューしている。
銀被覆コーティング済みのカテーテルの使用に関する勧告は草案で記載されていたが,最終版では消失しており,一部解説が行われているにとどまった。

終わりに

ガイドラインが進化を遂げられるのは質の高いエビデンスがあってこそである。本ガイドラインの終わりにも,引用した数々の文献の質の低さを嘆き科学者にさらに質の高いエビデンスの創出を要望している。
勧告文の数が飛躍的に増えており,臨床の現場においていかにして効果的な予防策の実践ができるのか,適用する改善策の優先順位付け(あるいはケア・バンドルのような効果的な対策の組み合わせ)や教育の重要性がさらに高まっている。