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Ignazzo Interview: 毎週の全病棟ラウンド実施により確実で効率的な感染管理を実践
東京大学医学部附属病院

2014年8月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

2014年8月

東京大学医学部附属病院
副看護部長
感染管理師長
感染管理認定看護師 内田美保 先生


今回は、2010年に多剤耐性緑膿菌(MDRP)保菌患者の複数事例がみられた東京大学医学部附属病院副看護部長の内田美保先生にインタビューを行いました。MDRP早期検出に寄与した感染対策チーム(ICT)の活動や、MDRP検出直後の対応、MDRP伝播終息に向けての感染対策などについてお話しいただきました。

東京大学医学部附属病院の感染制御体制

Q1. 感染管理の組織体制について教えてください。

内田 :当院は病床数1217床、職員数約3500人、1日当り外来患者数3091人、入院患者数1日約1049人、入院患者平均在院日数(一般病棟)12.9日(2012年度)の急性期を担う大学病院です。院内の感染管理業務については、感染制御部と感染対策センターが共同して行っています。(図1)。
 感染制御部には消化器内科や感染症内科、腎臓内科などの医師が所属しています。近年、感染対策重視の方針によって増員され、現在は6名のICDで業務を行っています。当院の感染制御部の特徴は、検査部・細菌検査室と密に連携していることです。検体中の微生物検査の結果など、細菌検査室で調査されたレポートが毎日感染制御部に渡るようになっており、情報を円滑に共有できています。また、大学院医学研究科に感染制御学講座が開設されており、同部の医師が教員として学生の教育や研究を行っていることも特徴の一つです。
 一方、感染対策センターにおいても立ち上げ当初に比べてスタッフが増員され、現在5名の看護師(専従2名、兼任2名、時間雇用1名)で業務を行っています。兼任の2名は看護業務と並行して当センターの業務にあたっていますが、専従の看護師と時間雇用の看護師が在籍していることから、余裕をもって感染管理の業務を行うことができるようになりました。
 また、感染制御部長が感染対策センター長を兼任しているため、より連携しやすい組織となっています。上記2部署に検査部・細菌検査室、薬剤部のメンバーが加わってICTを結成し、当院の感染対策を組織横断的に実施しています。ICTは病院長直轄のチームで多職種から構成され、チーム医療を実践しています。
図1:感染管理の組織体制

要点をきめて毎週行う効率的な病棟ラウンド -ICTはチーム医療の元祖-

内田美保先生
Q2. ICTではどのような活動を行っていますか。

内田:ICT の活動の中心は病棟ラウンドであり、10年以上にわたり毎週行っています。病棟ラウンドには多部署のメンバーが参加しており、感染制御部から医師が6 名、細菌検査室から細菌検査技師が約2名、看護師は感染対策セン
ターの看護師に加えて病棟のリンクナースが2名加わり約5名、薬剤師や事務職員が数名参加しています。加えてさまざまな職種領域で実習中の学生も参加しています。これらのメンバーを3 チームに分け、病棟を2 チーム、外来部門を残りの1チームが分担して回っています。
 当院では病棟ラウンドを効率的に行うために、実施前にミーティングを行い、前回までのレポートなどを参考にしながら確認場所や確認項目を定めて分担しています。その結果、約1時間30分で全病棟を回ることができています。
 病棟ラウンドの結果は、常時病棟スタッフにフィードバックし、改善を促しています。例えば、ある病棟において手洗いの取り組み状況が悪かった場合、改善するように促し、次回の病棟ラウンドの際に改善されたかどうかを確認します。最近、このようなフィードバックのサイクルが効果的に機能しつつあることを実感しており、私はこれこそがまさにチーム医療、ICTは元祖チーム医療だと思っています。
Q3. 病棟ラウンド後に作成するレポートの記載内容や情報の活用方法について教えてください。

内田:病棟ラウンド後に作成するレポートの一つとしてラウンド結果表をご紹介します(図2)。感染制御部で作成してくれるラウンド資料には、新たに確認された情報を毎回のラウンドごとに上乗せして記載し、次回のラウンドに役立てています。病棟ラウンドの際に最も役立つ情報は新規保菌患者の情報であり、新規保菌患者を有する病棟・病室については、とりわけ慎重に確認や指導を行っています。
 一方、本資料は情報量が多く、年に2回のみ病棟ラウンドに参加するリンクナースや、その日のみ参加するメンバーが、記載情報を瞬時に全て理解するのは困難です。そのため、このラウンド資料とは別に多剤耐性菌に対する抗菌薬の処方一覧や、発熱・下痢などの原因となるClostridium dicileにより産生される毒素(CDトキシン)の検出結果、カテーテルから採取した血液による血液培養の結果などの情報についても整理し、患者の保菌状況を把握するために活用しています。

毎週の病棟ラウンドがMDRP早期検出の鍵

Q4.MDRP 複数例検出の経緯と検出直後の対応について教えてください。

内田:当院内で2010年10月19日、MDRP 保菌患者が複数例検出された結果が細菌検査室から報告されました。毎週実施しているラウンドにより保菌患者の情報が常時得られていたこと、また病棟ラウンドの調査対象とする菌種の中にMDRPを含んでいたことから、複数例発生後早期の検出となりました。
 MDRP検出直後、病院長が即座に対策委員会を招集し、感染対策を開始しました。ICTは現場を回り、水まわりの環境整備や手指消毒の重視などに関する注意喚起を行いました。検出日から1週間後には入院制限を始めました。また、環境調査や入院患者の保菌調査を行いました。

MDRP終息に向け、清掃を重点的に実施

Q5. MDRP 検出後、特に重点的に行った感染対策について教えてください。

内田:MDRP の早期終息に向け、部屋ごとに閉め切っての徹底した室内の清掃を行いました。通常は平面的に清掃を行っていますが、このときは壁やロッカーなども含めた立体的な清掃を徹底的に行いました。清掃後は環境調査を行い、水回りなどは特に注意して起因菌が検出しないことを確認しました。清掃業務は通常、委託業務として清掃業者に依頼していますが、このときはMDRP複数例発生の終息に向けて当院スタッフも全面的に協力し、十分な話し合いのもと、ICNが清掃を行う部屋のリストの作成や清掃手順の伝達・確認などを行いました。

清掃業者に手順書や仕様書の遵守を徹底させることが重要

Q6. 清掃を行う上でのポイントを教えてください。

内田:当院のように複数の清掃業者に清掃を依頼している場合、業者間で清掃方法を統一させることが重要だと思います。当院ではMDRP発生を契機に国公立大学病院感染対策協議会による外部調査を受け、病棟の清掃用具が雑然としている点について指摘されました。それをきっかけに清掃手順書を作成し、清掃方法の統一を図りました。また、清掃手順書とは別にICTが作成に関与した清掃業務仕様書がありますが、その仕様書には清掃業者が行う業務内容に加え、作業員への教育、清掃方法の伝達などについても各業者の責任として適宜実施するように定められています。「何回教育しなさい」「こういうことを教育しなさい」ということまで、非常に細かく書いてあるわけです。仕様書づくりは大変ですが、ICTのメンバーでもある物流環境チームの事務職員が心を込めて作成に取り組んでいます。
 また、清潔度を区分けしてモップなどの清掃用具を区域ごとに変えるゾーニング(図3)が仕様書に定められていますが、清掃業者によってはゾーニングを守らず、清掃用具の使い分けを行っていないことがしばしば見受けられます。そのため、仕様書に定められた通りに実施されるよう、注意を払うことが大切です。

蓄尿件数の大幅削減による保菌者数の減少が最大の成果

Q7. MDRP 検出後の改善点について教えてください。

内田:院内感染のリスクである蓄尿検査の実施件数を大幅に削減できたことが大きな改善点です。MDRPの発生以前から病院全体で蓄尿件数を減らす動きがあり、約10分の1となる1日100件程度にまで減らせていました。しかしながら、患者が入院した際にはルーチンに蓄尿を行う、という流れができていたため、完全に廃止することができませんでした。MDRP発生を機に、自動蓄尿装置の使用を全面的に禁止し、ルーチンの蓄尿検査は廃止しました。蓄尿検査実施は申請制とし、必要な場合のみ行えるように規則を定めました。
 蓄尿件数大幅削減の結果、特にメタロβ-ラクタマーゼ産生菌の保菌者数は劇的に減少し、以前の10分の1程度までに減少しました。

病院全体での対応が蓄尿件数削減へのポイント

Q8. 蓄尿件数の大幅削減を実現できた理由について教えてください。

内田:病院長をはじめとする病院組織全体が蓄尿件数削減に向けて動いたこと、また医療の標準化委員会のもとに尿検査適正化実施ワーキンググループ(図4)を立ち上げたことが自動蓄尿装置の使用禁止およびルーチンの蓄尿検査廃止につながりました。グループにはICTのメンバーのみならず、蓄尿を実際にオーダーする内科や検査部の医師や検査技師が参加していたこと、またグループのリーダー長がICT以外のメンバーであったことが、件数削減に向けた早期院内の合意形成と、それによる大幅削減実現の鍵になったと思います。ICTだけでなく組織ぐるみの対応がポイントだったと思います。

病院の建築構造も感染に関係する

Q9. 感染管理を行う上で他に重要なことがあれば教えてください。

内田:感染管理において清潔な環境を維持することはとても重要です。細菌の汚染には、病院の建築構造が影響することがあります。清潔と不潔のゾーンが交差しないようにすべてについて注意する必要があります。病院建築家でもあったナイチンゲールは病院の建築構造の欠陥が病院内の二次感染を誘発することを述べており、150年も以前にすでに、換気が十分に行え、太陽光線が十分に当たり、入院患者が密集せずに十分な空間が得られる病棟を考案しています。
 また、汚染により感染を誘発しやすい場所は、浴室・汚物室・手洗い場・流し台などの水回りです。配管の形や流し台の大きさなども感染誘発に影響します。加湿器や患者の使用する酸素供給装置からも感染が広がります。このように、感染しやすい場所や装置は経験上把握できているため、病棟ラウンドではそれらを重点的に確認するようにしています。
 今後も病院は次々と新しい建物に置きかわりますが、感染管理の分野は意外に落とし穴です。建物の構造がアウトブレイクの発生に関係するといっても過言ではありません。病院設計に関わる皆様には是非、感染管理の視点を持っていただきたいと強く望みたいと思います。

診療報酬の改定は地域連携のきっかけに

Q10. 感染防止対策加算の新設による利点はありますか。

内田:平成24年度の診療報酬改定においては、全国の各病院でのICT の業務が評価され、感染防止対策加算1(400点)、感染防止対策加算2(100点)、感染防止対策地域連携加算(100点)が新設されました。当院では感染防止対策加算1および感染防止対策地域連携加算の届出を行っており、その結果、事務の職員を1名増員することができました。また、感染防止対策加算1の基準として年4回以上、感染防止対策加算2を算定する医療機関と共同カンファレンスを開催することが定められています。当院でもそれが地域連携のきっかけになっています。当院で開催している共同カンファレンスへ、感染防止対策加算2の届出を行っている近隣の4施設に参加いただいています。しかしながら、このカンファレンスでは1回あたり1時間30分しか時間がとれないため、各施設が実践報告するのがやっとというのが現状です。そこで、施設間での相談などがより密接に行えるように、看護師のみが集まる「感染担当ナースの会」を立ち上げました。現状10人程度の少人数で行っていますが、普段得られないような看護業務に関する情報の交換ができており、非常に役に立っていると思います。私自身この地域に長年住んでいますが、地域で働いている同じ職種の人たちと交流した経験がありませんでした。この活動を通して今後、徐々に規模が広がることを期待しています。

感染管理で看護師がより働きやすい環境へ

Q11. 各施設の方々へメッセージをお願いします。

内田:看護管理と感染管理の両立は難しいというイメージがありますが、感染管理により院内感染を減少させることは、看護師自身が働きやすい環境を作ることにつながり、患者さんへの安心・安全な医療の提供や、病院への貢献につながります。感染管理はやり甲斐があり、病院を変えることができる醍醐味のある仕事です。現場を見て実際に起きていることを確認すること、現場の声に耳を傾けることを大事に、無理しすぎず一呼吸置きながら頑張っていければ良いですね。