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特集:カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)

2015年3月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

2015年3月
松本 哲哉 先生
東京医科大学微生物学分野

はじめに

 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(Carbapenem-resistant enterobacteriaceae、CRE)は、「悪夢の耐性菌」として最近、注目を集めている。しかもその名前を用いて警告を発しているのは米国疾病対策予防センター(CDC)であり、感染症の専門家集団が危機感を強めていることから、米国のマスコミも大きな話題として取り上げている。確かにCRE の問題が深刻になっているのは諸外国であるが、すでに日本国内の医療機関でもCREによるアウトブレイクが起こり、マスコミで取り上げられている。
 この状況を受けて、2014年9月19日に感染症法施行規則(省令)が改正され、「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症」が、5類全数報告疾患に指定され、全国全ての医療機関で該当する感染症の患者を診断した場合には保健所に届け出ることが義務付けられた。これにより、CRE に対して国内の医療機関でも対応の仕方が大きく変わっていくものと考えられる。そこで今回はCRE の特徴とともに、検査や診療面の対応について解説する。

1. 細菌学的特徴

表1. 代表的な腸内細菌科細菌の菌種
表1. 代表的な腸内細菌科細菌の菌種
 CRE は一言で言えば“ カルバペネムに耐性を示す腸内細菌科細菌” である。そのため、菌の種類は腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に限定される。ここで混乱しやすいのは、“腸内細菌科の菌”と“腸内細菌”は一部重複しているが異なる範疇に分けられる点である。すなわち、“腸内細菌”は一般的に“通常、腸内に生息しているすべての菌”を指している。
一方、“ 腸内細菌科の菌” はおおざっぱに言うと、“グラム陰性の通性嫌気性桿菌でブドウ糖を発酵し、芽胞を形成せず、硝酸塩を還元して亜硝酸にする性状を有している菌” を指している。腸内細菌科の代表的な菌としては大腸菌や肺炎桿菌などがあり、それぞれエシェリキア属とクレブシエラ属に属している。腸内細菌科のその他の菌として、エンテロバクター属、シトロバクター属、プロテウス属、セラチア属など20数種の属の菌がある(表1)。通常、これらの菌はヒトや動物の腸内に常在し、腸管内で病原性を示すことはない。しかし赤痢菌、サルモネラ、ペスト菌など通常ヒトが保菌していない菌も腸内細菌科に含まれており、これらの菌はいったん腸管内に入ると増殖して病原性を示す。

2. 薬剤耐性の特徴

図1 β- ラクタマーゼの分類とカルバペネマーゼとの関係
図1 β- ラクタマーゼの分類とカルバペネマーゼとの関係
 細菌が抗菌薬に耐性を示す機序はさまざまであり、その中の代表的な機序として、β-ラクタム系抗菌薬の分解酵素であるβ-ラクタマーゼの産生がある。β-ラクタマーゼの中にはカルバペネマーゼと呼ばれるカルバペネム分解酵素があり、CRE はこのカルバペネマーゼを産生することで、カルバペネムに耐性を示す。カルバペネマーゼは大きく分けてClass A,B,Dの3つに分類することができる(図1)。この中でCREとして注目されるClass Aの代表格がKPC(Klebsiella pneumoniae Carbapenemase)型と呼ばれるタイプである。さらにClass Bのメタロ-β-ラクタマーゼというタイプの中には主に日本で多くみられるIMP型や、インドから世界中に広がっているNDM(New Delhi metallo- β-Lactamase) 型などがある。また、欧州ではClass Dの OXA-48型などと呼ばれる別のタイプのカルバペネマーゼもみられている。
 カルバペネマーゼはカルバペネム系抗菌薬だけでなく、ペニシリンおよびセフェム系の抗菌薬にも耐性を示すため、基本的にβ-ラクタム系抗菌薬はほとんど全てに耐性を示す。なおCRE はβ-ラクタム系抗菌薬以外の抗菌薬に対する耐性遺伝子を同時に保有している割合が高く、ニューキノロン系抗菌薬やアミノグリコシド系抗菌薬などにも耐性を示す場合も多い。

3. CRE が問題となっている要因

 CREはなぜ今、大きな問題となっているのか。それはCREが高度な耐性を有し、治療がかなり困難な状況に陥っていることも一つの理由であるが、CREの感染者の数が急増し、世界的な広がりを見せていることも理由に挙げられる。ただし広がっているCREの種類や増加の仕方は国や地域によっても大きな違いがある。その背景にはそれぞれの国の医療事情や衛生環境などの影響があるものと考えられる。
 NDM-1産生菌が広がっているインドでは、以前は抗菌薬が薬局でも販売されており、処方箋なしで購入が可能であった。そうなると、誰もが容易に抗菌薬を入手することができるため、明らかに大量の抗菌薬が不適切に使用されていたと思われる。インドに限らず、抗菌薬を薬局で自由に購入できるような国では明らかに耐性菌が広がりやすく、さらに家畜などに用いる抗菌薬も耐性菌を生み出す要因と考えられる。
 日本国内では抗菌薬は処方箋なしでは使用することはできないが、医療の現場における消費量の増加が影響している可能性が高い。過去に遡ると、国内ではカルバペネム系の最初の抗菌薬であるイミペネムが1987年に発売され、さらにパニペネム(1993年)、メロペネム(1995年)、ビアペネム(2002年)、ドリペネム(2005年)と次々に発売された。国内でメタロ-β-ラクタマーゼ産生菌が増加した背景には、これらのカルバペネム系抗菌薬の使用量が急激に増加したことが一因とも考えられる。
 菌の伝播という点では衛生環境面の不備も要因となりうる。すなわち、医療機関においては感染対策が不十分であると耐性菌を広げやすくなる。また海外の一部の国では、一般の住環境も耐性菌によって汚染されているという報告もあり、入院患者だけでなく一般の健常人においても耐性菌による保菌や感染のリスクが高まっている。

4. 代表的なCRE の状況

CRE に含まれる細菌は実際には多くの種類があるが、今回は代表的な耐性菌(表2)を取り上げて以下に概要を説明する。
1)メタロ-β-ラクタマーゼ産生菌
 メタロ-β-ラクタマーゼは国内ではIMP 型が主流であるが、まれにVIM型の菌も分離される。世界で初めてIMP型のメタロ-β-ラクタマーゼ産生菌が分離されたのは日本であり、1991年に分離された緑膿菌から検出した例が荒川らによって報告されている。それ以降、国内でIMP型β-ラクタマーゼ産生菌は主に緑膿菌を中心に分離例が増加していたが、その後、セラチアや肺炎桿菌などからも分離される例が認められている。
 国内でCRE として今後問題となるのは、おそらくIMP型のメタロ-β-ラクタマーゼ産生菌と考えられる。特に注意すべきなのはIMP-6と呼ばれるタイプのメタロ-β-ラクタマーゼ産生菌である。IMP-6産生菌は従来まで国内で多くを占めていたIMP-1産生菌と異なり、イミペネムに対し「感性」と判定されることが多いため、通常の検査で見逃される可能性も否定できない。すでに国内でもIMP-6タイプのCREのアウトブレイクが報告されていることから、注意が必要である。
2)NDM-1 産生菌
 NDM -1 産生菌は2009年に最初に報告され、インド、パキスタンでまず流行が起こった。その後、英国内の各地で分離されるようになったが、その背景としてメディカル・ツーリズムの影響などが指摘されている。現在ではアジア地域を含めて世界各地から分離例の報告がなされている。日本国内でも2009年に最初に分離された例が報告されているが、それ以降も分離例の報告は少なく、多くても十数例程度と考えられる。
3)KPC 産生菌
 KPC産生菌は1996年に初めて米国で発見され、その後、米国北東部を中心に感染例が報告されるようになった。米国CDCによって報告されたカルバペネム耐性の肺炎桿菌は、大半はKPC産生菌と推定され、2000年は肺炎桿菌の1%以下であったが、2007年には8%にまで増加した。さらにその後も分離頻度は増加している。
 KPC産生菌は米国以外の国でも報告されるようになり、ヨーロッパの各国やインド、中国など世界各地で分離例の報告が認められ、その数は増加傾向にある。日本国内でも本菌の分離例が報告されてはいるが、実際に確認されているのは十例程度と考えられる。
表2. 代表的なCRE の概要
表2. 代表的なCRE の概要

5. 感染症の臨床的特徴

 CREによる感染症は、大腸菌や肺炎桿菌が主体であり、尿路、呼吸器、肝胆道系、菌血症・敗血症、その他各種感染症の原因となり得る。菌そのものの病原性が変化しているわけではないので、感染を起こした場合の症状や検査所見が大きく変わるわけではない。しかしその耐性ゆえに各種抗菌薬を用いても治療に抵抗性を示し、難治性感染を起こしやすく、さらに重症感染に至ると致死率が高い。その典型例がKPC産生菌であり、肺炎桿菌はその厚い莢膜により貪食抵抗性であるが、さらにKPCを産生する菌は抗菌薬も無効なため、菌血症や敗血症に至った症例の約50%が死亡するという報告もある。

6.診断

表3.感染症法に基づくCREとしての耐性の確認
表3.感染症法に基づくCREとしての耐性の確認
表4.検体の種別による起因菌としての評価と届出
表4.検体の種別による起因菌としての評価と届出
表5.感染症法に基づくCRE 感染症の届出基準(概要)
表5.感染症法に基づくCRE 感染症の届出基準(概要)
図2.感染症法に基づくCRE 感染症の届出のフローチャート
図2.感染症法に基づくCRE 感染症の届出のフローチャート
 CRE による感染症の診断は、まず患者から分離された菌が微生物学的検査によってCRE の基準を満たすことを確認する必要がある(表3)。ただし、CREは腸内細菌科の菌であるため保菌患者から分離される場合もある。そこで、菌が分離されたら、さらに保菌か感染症かの鑑別が必要であり、ひとつの目安として感染症法では検体種別によって判断することを求めている(表4)。その上で、CREによる感染症と診断した場合には、感染症法に基づいて届出を行う必要がある(表5)。図2に菌の分離から届出までの流れをフローチャートでまとめたが、感染症か否かの判断は最終的に主治医に委ねられていることから、症状や検査所見を基に慎重な判断が求められる。なお、NDM-1産生菌やKPC産生菌など、まず国内で遭遇する可能性がない菌が分離された場合は、流行地域への海外渡航歴などの確認を行い、感染ルートを突き止める努力も必要である。

7. 治療

 CRE 感染症に単独で有効な抗菌薬は限られている。既存の抗菌薬の中ではコリスチンかチゲサイクリンがまず候補に挙げられる。チゲサイクリンはすでに国内でも承認されているが、コリスチンは今後承認予定であり、現在は個人輸入で入手して使用するしかない。
 現在開発中の抗菌薬の中にはCRE感染症に対して有効性が期待される薬剤も含まれている。例えば、セフタジジム/アビバクタム(CAZ/AVI) はβ-ラクタマーゼ阻害薬のアビバクタムと第3世代セファロスポリンのセフタジジムを組合せた合剤であり、クラスA 、Cおよび一部のクラスD β-ラクタマーゼ産生菌に抗菌活性を示す。これまでの検討結果では、KPC産生菌に対しても良好な抗菌活性を示すことから、現在、その開発が急がれている。それ以外に開発中の抗菌薬の中にもCREに有効性が期待される薬剤があるが、具体的にいつ頃、臨床の現場で使用可能になるのかは不明である。

※コリスチンは2015年3月に製造販売が承認され、同5月からGSKが販売を開始しました。

8. 感染対策

 CREに対する感染対策は接触感染予防策が行われる。すなわち他の耐性菌と基本的な対策は同じである。ただし注意すべき点は、CREはMRSAやESBL産生菌のように高い頻度で分離される耐性菌の場合と比べてまだ国内ではまれにしか分離されておらず、さらに高度な耐性を有するため、もし院内の患者から分離された場合は、より徹底した対策が必要と思われる。すなわち、患者の隔離や手指衛生の励行、PPEの適切な使用などは当然であるが、もし同一病棟で複数例分離患者が発生した場合は院内伝播と判断し、必要に応じて環境の調査や入院中の患者のスクリーニング検査の実施を検討する。病棟のスタッフはCREが分離されたことの情報を共有する必要がある。さらに、その意義について理解し、必要な対策を検討して全員の認識をひとつにしなければならない。

おわりに

 これまでCREはインドなどのアジア地域や米国など海外での広がりが顕著であったため、まだ国内では危機感は持たれていない印象がある。しかし、今後、国内でも海外と似たような状況に陥らないとも限らず、対岸の火事として無関心でいるわけにはいかなくなっている。CREが感染症法によって全数報告の対象となり、CREに関心が高まるひとつのきっかけにはなったと思うが、まだ国内での検査体制や医療現場の認識が追いついておらず、十分に対応できる体制作りが今後、急務である。

文献

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