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感染症アラカルト: 「敗血症」の定義が変わった
〜新しい定義をどのように運用するか〜

2016年12月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

職業感染対策実践レポート Vol.13
国立成育医療研究センター病院 集中治療科 中川 聡先生
敗血症は感染に伴う臓器障害と認識される。容易に重症化し、死亡率が高い疾患であるが、早期に気づき、早期に治療が開始できると救命できる可能性が高い。
敗血症(sepsis)が最初に定義されたのは1991年のコンセンサス会議で、この時にSystemic Inflammatory Response Syndrome (SIRS)という概念が提唱され、敗血症は感染症によって引き起こされたSIRSであると定義された1)。SIRSでは4つの項目(体温、呼吸数、心拍数、白血球数)が提案され、この2項目以上を満たすとSIRSと診断された。現実的には、敗血症ではSIRSの4項目以外の症状・所見も呈しうるため、2001年に定義の改訂版が発表された2)。同時に重症敗血症という概念が導入され、これは敗血症によって臓器障害を呈する状態とされた。しかし、この定義の改訂版は、呈しうる症状の項目の多さや明確な診断基準の欠如などから、1991年の定義に置き換わるものとはならなかった。
最初の定義からほぼ四半世紀経った本年(2016年)、敗血症の定義がヨーロッパと米国の集中治療学会の合同委員会により改訂された3)。今回の改訂の要点は以下のとおりである。

  1. 敗血症は、感染に対して宿主生体反応の統御不全により臓器機能不全を呈している状態である(従来の定義の重症敗血症に相当する)。

  2. 敗血症性ショックは、敗血症のうち、循環不全と細胞機能や代謝の異常により、死亡率が高くなった状態である。


これらを診断するための診断基準として、下記を提案した。

  1. 敗血症: 感染症(疑いを含む)とSequential (Sepsis-Related) Organ Failure Assessment (SOFA)スコア(表1参照)4)の2点以上の上昇。

  2. 敗血症性ショック: 敗血症、かつ、適切な輸液をしても平均血圧を65 mmHg以上に維持するために血管作動薬の使用が必要、かつ、血中乳酸値が 2mmol/Lを超えた状態(この3項目を満たすと、現時点では死亡率は40%を超えるとされる)
表1 Sequential (Sepsis-Related) Organ Failure Assessment (SOFA) スコア
表1 Sequential (Sepsis-Related) Organ Failure Assessment (SOFA) スコア
表2 quick SOFA (qSOFA)
表2 quick SOFA (qSOFA)
この定義の改訂で注意しなければいけないのは、この新定義は成人患者のみに適用され、小児患者には適用されないことである。小児患者での敗血症の診断は、従来通りSIRSをもとにした診断基準による5)
この新定義の診断で使用されるSOFAスコアは、集中治療室(ICU)以外の環境では一般的ではない。また、臓器不全を呈していない患者のスクリーニングとしても適していない可能性が高いため、簡便な指標としてquick SOFA (qSOFA)(表2)を用いることが提案された。救急外来を受診した患者や一般病棟に入院している患者で、何らかの感染症が疑われたうえでqSOFAの3項目中2項目を満たすと、敗血症の可能性が高いと判断しようというものである。感染症(疑いを含む)+qSOFAで2項目以上陽性の場合は、SOFAスコアの採点に進み、それが2点以上であれば敗血症と診断される。一方、qSOFAの2項目を満たさなくても、敗血症を疑う場合はSOFAスコアによる診断に赴いてもよい。
qSOFAは、米国の大規模データを中心に評価され、qSOFAが2点以上を呈した患者は、それ未満の患者に比べて、3~14倍の死亡率を呈しうるとされた。日本のICU外の患者で本当にこれが言えるのかどうかについては、今後、国内でもこのqSOFAの意義を評価する必要があろう。
今回提案されたqSOFAは、単独でスクリーニング・ツールとしても使用可能であるが、近年、わが国でも浸透しつつある早期警告スコア(Early Warning Score; EWS)の使用と関連づけても使用可能である。ここでは、EWSの一例として、英国全土で使用されているNational Early Warning Score (NEWS) を紹介する(表3)6)。NEWSの運用では、合計で5点以上を警告値として、ICU入室も含め、院内の専門家(あるいはRapid Response Team)にコンサルトすることにしている。また、4点には満たなくても、1項目で3点〔Red Scoreと呼ぶ(の3点の項の背景が赤色になっていることに注目。たとえば呼吸数では25回以上)〕であれば、それも専門家にコンサルトする基準となる。qSOFAとNEWSを比較すると、qSOFAでの呼吸数22回以上はNEWSで2点、さらに呼吸数が25回以上となるとNEWS 3点となる。収縮期血圧は100 mmHg以下でNEWS 2点、さらに90 mmHg以下に低下するとNEWS 3点となる。意識レベルはA以外のV, P, UはすべてNEWSで3点である。すなわち、qSOFAで2項目を満たす場合は、少なくともNEWSで4点(多くの状況で5点以上となりうる)となり、その理由が敗血症以外であっても、重症管理をする部門へのコンサルトの対象となる。
EWSは院内急変を急変前に察知することにより、防ぎえる死を確実に防ごうという試みである。このことは、敗血症に限ったことではないものの、このEWSやqSOFAを活用すると、敗血症も早期に認知できる可能性が示唆されている。
表3 National Early Warning Score
表3 National Early Warning Score
意識レベルのA,V,P,Uは、A: Alert覚醒している、V: responsive to Voice声掛けに反応、P: responsive to Pain痛みに反応、U: Unresponsive無反応、を意味する。
文献
1. America College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conference. Definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med 1992; 20:864-74.
2. Levy MM, Fink MP, Marshall JC, et al. 2001 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference. Crit Care Med 2001; 31:1250-06.
3. Singer M, Deutchman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock. JAMA 2016; 315:801-10.
4. Vincent JL, Moreno R, Takala J et al. Working Group on Sepsis-Related Problems of the European Society of Intensive Care Medicine. The SOFA (Sepsis-related Organ Failure Assessment) score to describe organ dysfunction/failure. Intensive Care Med 1996; 22:707-710.
5. Goldstein B, Giroir B, Randolph A, et al. International Pediatric Sepsis Consensus Conference: Definitions for sepsis and organ dysfunction in pediatrics. Pediatr Crit Care Med 2005; 6:2-8.
6. https://www.rcplondon.ac.uk/projects/outputs/national-early-warning-score-news (accessed on July 26, 2016)