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ケーススタディー(2) 次の症例の感染症原因菌をお考えください。

このコーナーでは、ごく身近に起こりうる感染症のケースをもとに可能性のある原因菌を、患者さんの情報により、どう予想していくか、を紹介しています。臨床に携わる医師と検査技師、看護スタッフの情報のやり取りと連携が、正しい抗生物質の選択と速やかな原因菌の同定に繋がっていくことをご理解いただきたいと思います。

Question1:この菌種名をお答えください。


写真1:慢性複雑性膀胱炎患者
慢性複雑性膀胱炎患者の自然排泄中間尿(褐色混濁)をハートインフュージョン寒天培地で24時間培養したものです。この集落の菌種名を予想して下さい。因にこの株はグラム陰性桿菌でブドウ糖発酵性菌です。

Answer 1:写真1の答えは…

Serratia marcescens でした。

解説

●Serratia(セレイシア)=Serafino Serrati(蒸気船の発明者でイタリアの物理学者)
marcescens(マルセッセンス)=fading away(音が次第に消えて聞こえなくなる)

●非水溶性色素プロデギオジン(ピンク〜赤色)を産生するEnterobacteriaceaeの1菌種(色素非産生株もある)で、この色素はDorsetタマゴ培地の22℃培養で良好に産生され、肉エキスで抑制、マンニットで促進されるとの報告があります。

●大量の色素産生株が存在する検体では血液混入と見誤る場合もあります。

●S.marcescens はD Nase産生性が特徴であり、同定も比較的容易です。

Question2:この菌種名をお答えください。


写真2:糖尿病および脳梗塞患者
糖尿病および脳梗塞患者の臀部褥創から分離したブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌をハートインフュージョン寒天培地で24時間純培養したものです。この集落の菌種名を予想して下さい。

Answer 2:写真2の答えは…

Pseudomonas aeruginosa でした。

解説

●Pseudomonas(シュードモナス)=Pseudes(偽の)、monas(鞭毛をもった原生動物)
aeruginosa(アエルギノーザ)=aerugo(緑青の;銅銹だらけの)

●P.aeruginosa は低栄養条件で発育、増殖する非発酵グラム陰性桿菌であり、水やアルコールに可溶性の青色色素(酸性領域では赤色)ピオシアニンを産生します。

●ただし、P.aeruginosa はピオベルジン(黄緑色蛍光色素)、ピオルビン(赤ブドウ酒色色素)、およびピオメラニン(褐色色素)を単独または混在で産生する菌株もみられ、正しい色素の見極めが肝要です。特にPseudomonasfluorescens とPseudomonas putida の多くの株がピオベルジン産生性であり注意が必要です。

Question3:この菌種名をお答えください。


写真3:病院環境検査時に手洗い
病院環境検査時に手洗い槽から分離したブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌をハートインフュージョン寒天培地で24時間純培養したものです。この集落の菌種名を予想して下さい。

Answer 3:写真3の答えは…

Chryseobacterium indologenes でした。

解説

●Chryseobacterium(クリセオバクテリウム)=Chryseos(黄金色)、bakterion(小桿菌)
indologenes(インドロゲネス)=indolum indole(インドール産生の)

●C.indologenes は名前の由来どおり、インドール陽性、濃黄色、またはオレンジ色非水溶性色素を産生する非発酵グラム陰性菌です。

●同属のChryseobacterium meningosepticum 等はレモン色や明るい黄色であり、判別は容易です。

●C.indologenes のオレンジ色、フレキシルビンはアルカリ条件下で赤色となる性質をもっていることから、3%KOHとの反応でみるフレキシルビンテストが利用できます。因にC.meningosepticum やオレンジ色のMyroides odoratus は通常フレキシルビンテスト陰性です。

Question4:この菌種名をお答えください。


写真4:皮下膿瘍からMRSAと共に
皮下膿瘍からMRSAと共に分離したブドウ糖発酵グラム陰性桿菌をハートインフュージョン寒天培地で24時間純培養したものです。この集落の菌種名を予想して下さい。

Answer 4:写真4の答えは…

Chromobacterium violaceum でした。

解説

●Chromobacterium(クロモバクテリウム)=Chroma(彩色の)、bakterion(小桿菌)
violaceum(ビオラセウム)=Violet(紫色の)

●C.violaceum は非水溶性黒紫色色素ビオラセインを産生する発酵性グラム陰性桿菌で若い培養菌では淡い紫の美しい集落が観察されます。

●この色素は肉エキス不含、マンニット添加培地を用い室温培養すると著明となり、嫌気培養では無色となります。

●C.violaceum はオキシダーゼ陽性ですが、色素産生菌ではこの試験の妨げになることもあります。