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箕面市立病院
新規微生物検査システムの導入効果

次代を見据える臨床検査システム
THE MEDICAL & TEST JOURNAL 2014年10月21日
藤井啓嗣氏
藤井啓嗣氏
 箕面市立病院(317床)は大阪府北摂地区において中核病院としての機能を担っている。臨床微生物検査室では2013年から検査機器および感染管理システムの大幅な変更を行い、同定感受性試験の迅速な結果報告や感染管理情報の充実化を実現した。耐性菌の蔓延や、感染管理加算1の要件にJANIS等のサーベイランス参加が必須となるなど、ますます微生物検査室の重要性は高まっており、ICT・NST等のチーム医療の一角を担うとともに、今後さらに次世代型微生物検査機器への変化を加速させる必要がある。

新システム導入の背景

 国内の自動同定感受性検査機器は、長時間培養型のいわゆる従来型自動機器が主流であった。このため微生物検査による臨床支援は時間がかかる検査として認識され、臨床医からも一定の理解を得られていたが、耐性菌の増加、血液培養検査の増加、感染管理加算の創設等により、同定感受性結果報告の迅速化や感染管理に役立つ価値あるデータ集計への要望は年々高まってきている。また感受性試験においてはPK/PD理論による感染症治療が広まっており、必要最小限の薬剤濃度による報告から、より正確で幅広いMIC値報告が求められ始めた。
 当院ではこのような時代の変化を背景に、迅速性と正確性を両立した機器として、BDフェニックスシステムを導入し、同時に当該機器では検査できないインフルエンザ菌や嫌気性菌用として、CCDカメラによる客観的判定が可能な栄研化学社製IA01MIC mk㈼を併用することとした。オペレーションシステムは感染管理に生かせるデータ集計や治療に伴う各種情報を迅速かつ正確に報告するために、BD微生物検査システムを導入した(図1)。
 BDフェニックスシステムは、同定は最速2時間から、感受性試験は最速4時間から結果を出すことが可能である。またこれらの迅速判定結果は、同定結果や個別の薬剤の感受性試験結果が終了した時点でリアルタイムに報告することができる。われわれはこの迅速性とリアルタイム送信機能を利用し、中間報告を劇的に迅速化させた。
図1:システム構成図
図1

臨床医の評価

図2:血液培養実施状況の推移
図2
 特に血液培養陽性検体に対する迅速報告は自動送信機能と相まって、臨床医の評価が極めて高い。担当医師は中間報告を含め以前よりも早期に培養結果を把握することが可能なことから、より早期に適切な治療を行うことができる。また敗血症や不明熱で培養結果に基づいてアセスメントを行う際にも非常に有用である。一方ICTも迅速報告をDe-escalationなど抗菌薬の適正使用管理に役立てており、加えて現在では導入したソフトウエアにより血液培養陽性までの時間の統計データも提供できるようになった。当院ではICNを中心に血液培養の実施状況を改善する活動を積極的に行っており、血液培養結果の迅速なフィードバックやこのような関連情報の提供は血液培養検査数や複数セット数の向上に寄与していると考える(図2)。

より効率化を追究

【写真】ICTメンバーの皆さん
ICTメンバーの皆さん
 従来型自動機器は培養時間が長時間かかる一方で、菌液調整が比較的簡易であるという利点がある。しかし昨今、特にMRSAを疑う場合、治療薬に対する正確なMIC値が求められている状況から、簡易な調整方法は行わず、面倒な菌液調整法を実施していた。従って効率化を実現するためには迅速性、正確性とともに、菌液調整を効率化する必要があると考えた。この菌液調整を自動で行う機器が、新たに開発された自動菌液調整装置、BDフェニックスAPである。BDフェニックスAPは、菌の濁度の基準値であるマクファーランド0.5、または0.25の菌液調整を自動的に行う機器であり、担当技師がマクファーランド0.5を超えると思われる適度の菌液を用意することで、自動的にマクファーランド0.5まで正確に希釈調整する。菌液調整の自動化は、個々の技師による品質差をなくし、作業時間の短縮を可能にした。
 一方、将来における課題として、業務量の平準化が挙げられる。測定時間が長い機器の場合、報告時間を少しでも早めるためには、可能な限り午前中に同定感受性試験の準備を集中させる必要があり、業務量の平準化は困難であった。迅速機器導入後は、就業時間内に機器にセットすれば翌日朝までには結果が判明している。これにより検体の重要度や業務内容に合わせフレキシブルに対応できる。このようなことから迅速機器は臨床診療への有用性のみならず、業務の平準化にも効果があることが分かった。

品質の維持

 これまで、微生物検査の品質は個々の担当技師の技術に委ねられてきた。しかし今後、ベテラン技師の引退や人手不足による人員の削減は避けられず、品質の低下を防ぐための方策を検討しなくてはならない。今回新たにシステム構成を決定する際には、将来にわたる品質維持も大きな検討課題として考慮した。従来型自動機器においては、最終判定を技師による目視判定等が担ってきたが、検査品質の平準化という点では、人によるデータの差が問題になる可能性は否定できない。新システムでは、判定結果まですべて自動で実施され、また正確なデータの基礎となる菌液調整も自動化されていることから、目視による判定ミスやデータの個人差はなくなった。今後ますますリソース不足が懸念される中、結果取得までは、可能な限り機器による客観的で個人差のないアウトプットが理想的だと考える。

感染管理への貢献

 現在感染管理に関する活動は、抗菌薬モニタリング、病棟回診、環境検査、地域連携と多岐にわたる。当院の微生物検査技師も第1、第3水曜日の午後、2〜3時間程度病棟回診に同行し、抗菌薬使用患者の状況、状態等をチェックしている。また月・水・金の午前中は1〜1.5時間程度かけて抗菌薬モニタリングを実施している。  感染管理のみならず、治療に有用なデータ集計の充実化は今回の新システム導入の重要なテーマの一つであった。以前のシステムでは、定型の限られた集計機能しかなかったため、ICT活動に必要なデータ集計をほとんど手作業で行っており、新たなデータ集計の要望にもなかなか対応することができなかった。BD微生物検査システムに搭載されている「多次元統計システム」は、集計条件の設定操作が簡単であり、患者属性や検査結果など、ほぼ全てのデータ項目を自由に組み合わせて集計することが可能である。またハイスペックサーバーにより、膨大なデータを対象に複雑な設定をしても瞬時に集計が終了する。サーバーのスペックは意外に見逃されがちだが、集計時の処理時間は、臨床医の要望に迅速に対応する上でも重要なポイントの一つである。また当該システムは、BDバクテック血液培養自動分析装置の測定開始時刻も集計対象にすることが可能であるため、病棟別に測定開始時刻と検出菌の関係を集計すると、特定の病棟で「夜間帯に採血された血液培養においてコンタミ率が高かった」などの新たな発見が可能になる。

今後の取り組み

 グローバル化の加速とともに、海外で話題になっている耐性菌や感染症は、もはや対岸の火事ではなくなった。また医療行政も年々変化するとともに、耐性菌の検出、感染管理の重要性はさらに増してくるであろう。従って次世代の微生物検査システムを検討する際、現在の状況に対応できるシステムであるという視点のみならず、5〜10年程度の将来も見据えながら検討しなくてはならない。今回われわれは耐性菌の蔓延、血液培養の増加、医療行政の変化、リソース不足等を予測しながら新規システム導入を決定した。特に報告までの時間においては近い将来さらなる迅速化を求められる時代が来ると確信する。現在われわれは血液培養陽性検体からの直接検査(同定感受性試験)を検討中である。これによりさらに数時間の短縮が実現し、臨床効果や経済効果への貢献は計り知れない。
 昨今微生物検査関連の技術革新が目覚ましい。しかしそのような機器に頼るだけでなく、メーカーの提供する機器の性能を最大限生かすこともまたわれわれの使命ではないかと考える。