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日本臨床検査自動化学会 第49回大会 ランチョンセミナー
地球生命からみたAMRの捉え方

全ての生物が共生する世界へ 地球レベルのAMR対策 重要に
THE MEDICAL & TEST JOURNAL 2017年11月21日
講演・ファシリテーター:毛利 衛氏(薬剤耐性対策推進国民啓発会議 議長/宇宙飛行士)
コメンテーター:
康 東天氏(九州大学大学院医学研究院 臨床検査医学 教授/日本臨床検査自動化学会 理事長)
舘田 一博氏(東邦大学医学部微生物感染症学講座 教授/日本感染症学会 理事長)

 日本臨床検査自動化学会第49回大会のランチョンセミナー「地球生命からみたAMRの捉え方」(共催:日本ベクトン・ディッキンソン)が9月23日、横浜市内で開かれた。宇宙飛行士で薬剤耐性対策推進国民啓発会議議長の毛利衛氏が講演し、その後、康東天氏(日本臨床検査自動化学会理事長)、舘田一博氏(日本感染症学会理事長)が、薬剤耐性(AMR)の現状と薬剤耐性菌の検出に向けた検査現場の取り組みについてディスカッションした。

毛利氏の講演
ワンヘルスによる共生が必要

毛利氏写真
毛利氏
 WHO(世界保健機関)が地球環境に対して、「ワンヘルス」を唱えています。ヒトは地球生命の一つであり、動物、植物、微生物、自然環境を含めて共生する考え方です。2003年にはヒトゲノムが解読され、ヒトのみならず、生物は全て遺伝子でつながっていることが証明されました。
 生命の根源は細胞です。細胞には、環境、光、エネルギー、温度、大気が必要です。地球上に75億のヒトがいて、将来は100億を超えるとの見方がありますが、生物にとってヒトだけが特別ではありません。地球の資源には限りがあり、ヒトによるエゴでもめるのではなく、新たな変革のために「未来知」という意識を持って、全ての生物との共生を考えていくべきです。

パネルディスカッション
臨床検査からの貢献は?
感染症・自動化両学会が連携確認

舘田氏写真
舘田氏
—薬剤耐性(AMR)は、現在、日本ではどのような状況ですか。
舘田氏 AMR対策は、地球レベルで考えていかなければなりません。日本は、アジアの国々やアメリカに比べて良好な状況が維持されていると思います。これは臨床検査の進歩とともに、感染対策・感染制御において、医療現場で活躍している皆さんの成果だと感じています。
 政府は昨年4月、AMR対策のアクションプランを発行し、2020年までに耐性菌の割合を目標として定めました。例えばMRSAの割合は20%以下というように、抗菌薬の適正使用を進めるための方向性を示しています。
 目標の達成は非常に難しい状況です。私もアクションプランの作成に関わってきた一人として、非常に重要な方向性が示されたことから、達成に向けて努力していかなければならないという思いを持っています。AMR対策は、2020年で終わるものではなく、その先も続けていかなければなりません。

—自動化学会の会員の方々にはどのような関わりが求められますか。
康氏 耐性菌を減らすためには抗菌薬の適正使用が必要です。そのためには起炎菌の薬剤感受性を迅速に調べなければなりません。これができていないと、ブロードレンジの抗菌薬が使われることで耐性菌が作られます。細菌検査を迅速に行うために、自動化学会の役割が非常に重要です。細菌検査の自動化は、一見遅れているように見えますが、この表現は正しくなく、人の専門性が非常に高いと考えるべきです。
 起炎菌が同定されると、薬剤感受性の自動化は既存の技術で、簡単にできると思います。しかし、起炎菌を同定するまで、すなわち培養から菌の同定は、高度な臨床的な細菌の知識が必要になります。その壁は乗り越えていかなければなりません。
康氏写真
康氏
—検体検査の分野では、検体の搬送から検査までの自動化が非常に進んでいるとお聞きしています。
康氏 日本は、臨床検査の自動化に関して、昔から現在に至るまで先頭を走っています。細菌検査も世界の先頭を走るべきであり、その能力があると思います。
 ノーベル賞を取られた田中耕一先生が開発されたTOFMS(飛行時間型質量分析法)技術が細菌同定検査に応用され、菌の同定に関して革命的な変化が起こっています。
 細菌検査の自動化には、起炎菌をどのように同定するか、培養法をどのように選択するかといった細菌検査の他のステップにおいても本当のイノベーションを開発していかなければなりません。新しい技術的なイノベーションが起こってくると、人間にさらに新しい専門性が求められてきます。イノベーションを恐れる理由は、検査の世界ではまったくありません。
 自動化学会は、産業とアカデミアの連携で発展してきた学会です。この学会に参加されている皆さんは、耐性菌を減らして最終的に撲滅させることに対して、非常に高い意識をお持ちです。

—「あなたのリスク、ほどよいクスリ」という標語があります。薬を創っても耐性菌が出るという問題はどうしたらいいでしょうか。
舘田氏 ビジネスという視点では、新しい薬を開発し、それを続けることが難しい状況があります。これは日本だけでなく、世界的に見てもそのような問題があります。
 日本は、世界標準の抗菌薬をたくさん開発してきた国ですから、ある意味ノウハウを持っていて、人的なリソースもたくさんあります。それを生かして世界に貢献できるような、そのような方向性を持っていくべきでしょう。
 一方、以前の病院は、院内感染が起こるとなかなかオープンにできませんでした。院内感染がなかなか表に出ませんでしたが、今は、早く見つけてオープンにするといったパラダイムシフトが起こっています。

—日本はますます高齢化社会になっています。
康氏 抗菌薬がどんどん使われ、医療費の増大とともに、耐性菌の問題が生じています。しかし、医師も医療技術者も大変忙しく、目の前の課題に追われています。ワンヘルスの視点で、地球環境を守るための医療が大切であるということを常に訴えていくことが非常に大切です。

—AMRを含めて、今後、期待されることは。
康氏 検査技師もサイエンスに貢献しなければいけないということで支援してきました。幸い多くの検査技師がいろいろな研究により博士号を取るようになりました。これは止めることのできない流れです。
 自動化学会は、今年、「細菌検査感染症委員会」を立ち上げました。自動化学会大会に参加している皆さんも積極的にサポートしていただき、耐性菌を減らすために自動化学会が大きく貢献していきます。
舘田氏 この4月に感染症学会の理事長になりました。学会の大事なテーマの一つとして、学際化の推進を掲げています。感染症は、グローバルな視点で考えていかなければなりません。感染症学会だけで収まるものではなく、いろいろな分野の先生方、さらに獣医師、薬学、理学そういった方々との連携をさらに強めていきたいと考えています。その中で特に重要な領域として検査領域を考えています。今後は、感染症学会と自動化学会がさらに連携を深めながら、AMR問題に対して対策を進めていきます。