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院内感染対策のインフラとしてのPCR検査

─ COVID-19とともに地域医療を継続していくために ─
2020.10.10 | 日経メディカル提供記事より転載


2020年8月18日 Web 会議システムを用いて実施

2019年12月、中国武漢市を発端に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が全世界に広がった。
慶應義塾大学病院では、かなり早い段階から全自動PCR(polymerase chain reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)検査装置「BD マックス™ システム」の導入を計画、この4 月より同システムを使用し全ての入院患者を対象に新型コロナウイルス感染者を特定するアクティブサーベイランスを実施している。
その背景や選定理由、成果などについて、同院臨床検査科・感染制御部の上蓑義典氏にお話をうかがった。
栁原 克紀教授写真
慶應義塾大学医学部
臨床検査医学
慶應義塾大学病院
臨床検査科・感染制御部

上蓑 義典 氏

COVID-19 の流行でPCR 検査体制の見直しが必要に


 慶應義塾大学病院では従来より、結核菌や近年感染者が増加している非結核性抗酸菌はもちろん、医療関連感染の原因菌としても知られているClostridioides difficile や薬剤耐性菌の検出にPCR検査を積極的に実施していました。その当時は、多くの患者さんを対象としたアクティブサーベイランスとしてのPCR検査の必要性は、ほとんど認識していませんでした。中国武漢市のCOVID-19パンデミックに端を発し、日本では2020年2月時点ですでに、指定医療機関だけで全てのCOVID-19患者さんを管理することは困難となっていました。当院でも、患者さんの受け入れを本格的に検討する中で、一般の入院患者さんおよび院内スタッフの安全・安心を確保するために、院内感染対策としてSARS-CoV-2のPCR検査体制の構築に動き出していました。

効率よく、大量のPCR 検査ができる装置を検討


 既存のリアルタイムPCR 検査装置で検査体制を構築、運用していく上で問題となったのは、RNA 抽出などの手作業が必要となる工程の煩雑さで、大量の検体処理が必要になった場合に、検査体制が破綻するのは明らかでした。そこで私たちは、全自動PCR検査装置の導入を決定し、候補に挙がったのが日本ベクトン・ディッキンソン株式会社(日本BD)のBD マックス™ 全自動核酸抽出増幅検査システム※(以下、BD マックス™ システム)だったのです。
 この検査システムの特徴で注目していたのは、①核酸抽出・増幅・検出工程を全て自動化できること、②全自動化による人為的ミス、コンタミネーションのリスクの軽減、③オープン試薬を用いて、独自のPCRアッセイの構築が可能であることの3点でした。大量のリアルタイムPCR 検査を少ない工程で実施でき、今後、新興感染症が流行したとしても、試薬開発までのタイムロス、試薬の入手困難などに左右されずに、自由度が高い柔軟な検査対応が可能だと判断して導入を決めました。

アクティブサーベイランスの必要性を再認識


 全自動PCR 検査装置の導入を決めた3月上旬時点では、呼吸器症状やCT所見などから感染が疑われる患者さんを中心にPCR検査を行うことを想定しており、入院患者さん全例を対象にしたアクティブサーベイランスは考えていませんでした。
 しかし、3月後半になって状況は大きく変わりました。当院における院内感染が明らかになり、この事例を含めてCOVID-19では無症候例が多く存在し、その患者さんを介して感染が拡大することが分かってきたのです。院内感染を防止するためには、症状の有無を問わず入院する患者さん全てが感染している可能性があることを前提とした対策が必要であり、全例リアルタイムPCR検査によるアクティブサーベイランスを実施することとしました。

1日100 件以上のPCR 検査にも対応


 アクティブサーベイランスの実施に伴い、1 日のPCR 検査数は急増し、100 件近くに上りました。この数のPCR 検査を実施するのはかなり困難で、全自動PCR 検査装置を導入していなかったら、アクティブサーベイランスはほぼ不可能だったと思います。
 全自動PCR検査装置を用いたリアルタイムPCR検査は、検査技師の負担が圧倒的に少なく、サンプルの入れ違いなどの人為的ミスや分析の失敗率も劇的に減少しました。これにより、100件を超えるPCR 検査にも安定して対応することができたのです。今回のような緊急時には、経験が少ないスタッフの協力も必要でした。このシステムの操作はかなり簡便なので、全てのスタッフが問題なく扱うことができた点も大きなメリットだったと思います。日本臨床微生物学会による「BD MAX を用いた2019-nCoV 検出~ Onestep RT real-time PCRによる検査手順書~」があったことも大変助かりました。
 実際に使用してみると、BD マックス™ システムのスペック、サイズは、とてもよく考えられているなと感じています。1回で100検体以上を検査できる全自動PCR 検査装置もありますが、かなりの大きさになりますし、当院のような大学病院でも100検体が同時に集まるようなことはありません。1回に測定できるのは24検体で、1回の測定にかかる時間は2~3時間です。1日5サイクル、100件以上のPCR 検査を実施することが可能です。24件ずつ結果を確認できるため、効率よく運用できます。当院は946床ですが、十分に対応可能でした。
慶應義塾大学病院の検査室でフル稼働している「BD マックス™ システム」写真
慶應義塾大学病院の検査室でフル稼働している「BD マックス™ システム」

インフラとしてのBD マックス™ システムが院内感染対策の要


 COVID-19流行は、未だ収束する兆しが見えません。今後もしばらくは、現在と同様の状況が続くと予想しています。また、これから冬にかけて、インフルエンザとの鑑別も必要となります。当然、COVID-19院内感染対策もしばらくは継続していく必要があります。
 今回のCOVID-19の流行を通じて痛感したのは、未知の新興ウイルス感染症はいつ流行するのか予想できないということ、そして流行下にあっても、さまざまな疾患で入院が必要な患者さんへの医療提供は必須であり、そうした患者さんに安心して医療を受けてもらうためには、アクティブサーベイランスを念頭に置いた感染対策の徹底が重要だということです。
 また、病院スタッフは常にウイルス感染症のリスクにさらされていますが、アクティブサーベイランスが実施されている事実は、スタッフの不安感を大きく軽減させる効果が期待できると思われます。患者さん、病院スタッフの安全・安心を確保するために、必要な時にいつでもアクティブサーベイランスを開始できるインフラストラクチャーを備えておくことが重要です。オープン試薬で簡便かつ大量にリアルタイムPCR検査を実施できる検査装置は、新興ウイルス感染対策の要だと考えています。

※販売名 : BD マックス™
 製造販売届出番号 : 07B1X00003000125