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【PHARM TECH JAPAN Vol.33】
タイムラプス影像技術を利用した微生物検査の全自動迅速・省力化ソリューション

PHARM TECH JAPAN Vol.33 No.2(2017)より転載
日本ベクトン・ディッキンソン株式会社
永江茂行,上條茂徳,安田鋭造

はじめに

表1 微生物迅速試験法一覧1)
表1 微生物迅速試験法一覧1)
 昨今,本邦でも微生物試験の迅速化の重要性が認知され,さまざまな業種で検討が開始されている。平成28年度には第十七改正日本薬局方が公示され,参考情報として微生物迅速試験法が収載された1)。その方法とは今までの培養法とは異なる細菌検出法,計数・計量法で,直接測定法と間接測定法の合計13の方法が紹介されている(表1)。これらの方法での細菌数・細菌量の測定は,得られる結果が使用する手法により異なり,最新の手法を用いても,絶対値を得られない点に留意すると記述されている。また,各手法のバリデーションのための標準菌株は存在するが,生理活性も含めて標準化することは容易ではない,とも言及されている。そして新手法を採用するにあたってのバリデーションの方法と解釈,および応用分野と考慮すべき点についても紹介されているものの,各手法で得られる結果と従来法(培養法)は必ずしも相関関係を求める必要はない,との記述により1),これの解釈には苦慮することになるものと考えられる。つまり,合理的な結果とその妥当性の検証を行うには,新手法に対しての深い理解と,しっかりとした理論に基づく合理的かつ妥当性のある検証が求められている。
 各手法にはそれぞれ特徴があり,また留意点も異なってくる。筆者らは,間接測定法の中のマイクロコロニー法を取り上げ,これの特長と応用分野の検討をした。本稿は,マイクロコロニー法に位置づけられる,「タイムラプス影像解析法(Time-Lapse Shadow Image Analysis)」に基づいて製品化されている全自動迅速微生物検査装置MicroBioμ3D™の迅速性・省力化および性能とその応用分野について紹介する。この装置の大きな特長は,現行法である寒天培地による培養法をそのまま利用している点にある2)。培養法の歴史は約200年ほどであるが,いまだ微生物試験に広く利用されている理由のひとつは,生きている微生物を観察することができるからである。さまざまな微生物の発育に対応するため,その微生物に必要な栄養素などの研究により,各種微生物の培養に最適な寒天培地の開発がなされ,一般細菌,病原性細菌やカビ・酵母に対応できる数多い種類があり,分野ごとに適したものが使われ続けている。今から30年ほど前に遺伝学的試験(遺伝子解析)が世に登場し,迅速微生物試験への応用に大きな期待がもたれ,「近い将来,寒天培地による培養法にとって代わる技術である」ともいわれていた。しかしながら,いまだに寒天培地による培養法が利用され続けていることの理由は,培養法が生きた微生物を検出するのに適していることに他ならないからであろう。例えば,遺伝学的試験によって微生物の存在が判明した場合でも,確認試験を培養法で実施し,その再現性を確認している施設も少なくない。その後の菌種同定(一定量の菌数が必要な場合)やその微生物の保存にあたっては,微生物を生きた状態で検出することが必要となるからである。長い歴史と信頼性がある寒天培地による培養法を利用した本装置の特長と応用分野を以下に示す。

1. 製品残渣の含まれたサンプルでの検討

 医薬品・化粧品・食品等の製品リリース試験・原材料試験では,寒天培地を使用した従来法の試験時の課題として,サンプル中に製品・原材料由来の残渣や濁りが見られることが多く,コロニーが発育しても残渣と識別することが困難なケースがあげられる。これらのサンプルでは,残渣もしくは濁りが見られる状態であっても,コロニーと区別する必要があり,場合によっては作業者の個人差が出やすく,時間や労力を必要とする。このような残渣が多くみられるサンプルにおいての本装置での影響を検討した。
 製品残渣がある状態を疑似的に準備するため,バタークッキー(生地:淡黄色),即席めん(生地:白色)を粉砕した残渣試料に,Escherichia coli(ATCC 25922)およびStaphylococcus aureus(ATCC 29213)をそれぞれ混合し試験サンプルとした。E. coliによる試験サンプルは,デソキシコレート寒天培地( 以下,DESO)にて重層,S.aureusによる試験サンプルは,標準寒天培地(以下,SMA)にて混釈し,本装置による生菌数のモニタリングを実施し,サンプル残渣の生菌数測定への影響を検証した3)。図1,2に試験結果を示す。本装置はサンプル中の残渣に影響されることなく,コロニーの成長をモニタリングし,コロニーのみを正確に検出することが確認された。本装置で最初にコロニーを検出した時間でのシャーレの画像を図3,4に示す。製品残渣の多いこれらのサンプルでは,コロニーが検出されても,残渣のサイズより明らかに大きくならない限りコロニーと断定することは難しく,作業者の個人差が出やすいのが事実である。
図1 増殖曲線と培養画像:バタークッキー+<i>E. coli</i>(10<sup>0</sup>オーダー)をDESOにて培養(重層法)
図1 増殖曲線と培養画像:バタークッキー+E. coli(100オーダー)をDESOにて培養(重層法)
図2 増殖曲線と培養画像:バタークッキー+<i>S.aureus</i>(10<sup>1</sup>オーダー)をSMAにて培養(混釈法)
図2 増殖曲線と培養画像:バタークッキー+S.aureus(101オーダー)をSMAにて培養(混釈法)
図3 コロニー検出開始時間(9時間):コロニー数1
図3 コロニー検出開始時間(9時間):コロニー数1
図4 コロニー検出開始時間(8.5時間):コロニー数6
図4 コロニー検出開始時間(8.5時間):コロニー数6
 本装置の測定原理は,寒天培地を通して光を照射し,目視では確認できないミクロのレベルで発育しているコロニーの陰影をCCDカメラで連続モニタリングする。通常のカラー画像では3Dデータを入手することはできないが,コロニーの陰影を撮影した2D画像は,コンピュータで3Dデータに変換することで,コロニーの成長を読み取ることが可能となる(図5)。2D画像は,コロニーカウンターなどでも使用されているが,3D画像が利用できないためにコロニーと残渣の識別に限界があり,判定ミスを生じやすい。この特殊技術により,本装置では,製品・原材料由来の残渣などが存在していても,コロニーと残渣の識別ができ,正確な菌数測定が可能となる。迅速法導入を検討した際,製品残渣の影響ですべての製品検査に適用できない,もしくは,一部の製品検査のみでしか適用できず,運用面でのメリットを見出すことができず導入されないケースもみられる。製品残渣が多いサンプルでも正確に測定できることは,実際の製造現場での運用面を考えると重要な点と考えられる。
図5 2D画像を3Dデータに変換
図5 2D画像を3Dデータに変換

2. メンブレンフィルター法での検討

 本装置は,寒天平板法をそのまま使用するため,従来法との相関性が高く4),混釈・塗抹法およびメンブレンフィルター法(以下MF法)に関係なく測定することが可能である。また,医薬品などの製造現場では,液状の製品や製薬用水などの試験において,MF法が行われている。
 MF法での本装置の検討をBacillus pumilus(NBRC14367)を使用し,タイプの異なる4種類のMFにて濾過したものを試験サンプルとし,標準寒天培地(以下SMA)を用いて,本装置による生菌数のモニタリングを実施した。混釈・塗抹法だけでなく,メンブレンフィルター法においても正確に菌数測定できることが確認された。また,検討に用いた4種類のMFのうち(表2),フィルターの色が白色(無地)かつフィルター上に格子のない仕様が,本装置を用いた正確かつ迅速な菌数のモニタリングには最適であった。図6にB. pumilusでのコロニー増殖曲線とMF法でのシャーレ画像と,図7に4種類のMF法での初回検出時間を示す。フィルター上に格子のないサンプルA,Bにおいて,格子ありのC,Dよりも迅速にコロニーを測定することが確認された5)
 本装置が混釈・塗抹法・MF法に関係なく測定できるのは,レンズの色収差を利用した多段焦点方式により(図8),寒天培地表面からの深さに関係なく発育したコロニーに同時に焦点を合わせることできるからである。
表2 MFのタイプ
表2 MFのタイプ
図6 MF法でのコロニー増殖曲線とシャーレ画像
図6 MF法でのコロニー増殖曲線とシャーレ画像
図7 初回検出時間(<i>B. pumilus</i>)図8 検出原理とレンズの色収差
図7 初回検出時間(B. pumilus)       図8 検出原理とレンズの色収差

3. 嫌気培養での検討

図9 MB用専用の嫌気培養キット
図9 MB用専用の嫌気培養キット
 本装置は,寒天平板法を使用するため,寒天培地に生えてくるすべての菌種において菌数を測定することが可能である。つまり,一般細菌だけでなくカビや酵母などについても正確に測定することが可能である4)。また,別販売されている専用の嫌気培養キット(図9)を使用すると,嫌気性菌のコロニー検出が可能となる。嫌気性菌検出用キットは1.嫌気性菌用PEプレート,2.脱酸素剤,3.酸素インジケータ,4.嫌気用袋からなり,嫌気性菌用PEプレートを入れた嫌気用袋に嫌気培養するサンプルシャーレ(MF法・混釈法・塗抹法にて調製したサンプルシャーレ)の底面を嫌気性用PEプレートに合わせ入れた後,脱酸素剤と酸素インジケータを挿入し,バキュームシーラーで嫌気用袋内を吸引シール後,本装置にて計測を行うというものである。
 図10に食塩添加リン酸緩衝液にて1×101cfu/mL程度に調整したClostridium sporogenes(ATCC 10231)1mLをサンプルとし,ソイビーンカゼインダイジェスト寒天培地(以下SCDA)にMF法にて実施した嫌気性培養による本装置の測定事例を紹介する。なお,本試験の培養条件は32.5℃120時間である。C. sporogenesを用いたMF法による嫌気培養では,31.5時間でコロニーの検出を開始し,48.0時間でコロニーの計測を終了している。嫌気性菌の検出および計測を本装置によって実施することにより,サンプル中の嫌気性菌を標準法に比べより迅速なコロニー計測が可能となる。本装置は,培養法を使用するため,寒天培地に生えてくるすべての菌種において菌数を測定することが可能である。
図10 嫌気性菌のコロニー検出グラフと検出画像(MF法,供試菌:<i>C. sporogenes</i>)
図10 嫌気性菌のコロニー検出グラフと検出画像(MF法,供試菌:C. sporogenes

4. 運用面での利便性について

図11  コロニー検出を受信したスマートフォン
図11 コロニー検出を受信したスマートフォン
 マイクロコロニー法の1つである「タイムラプス影像解析法(Time-Lapse Shadow Image Analysis)」に基づいて製品化されている全自動迅速微生物検査装置MicroBio μ3D™の特徴や応用分野について紹介したが,迅速性や正確性の向上以外にも,多くの特長があるので以下に列記する。

・省力化
➢ 本装置の導入に際しては,装置の導入コストはかかるものの,高価な試薬は必要なく,現在使用している寒天培地をそのまま使用できるので,ルーティンコストのセービングが可能である。
➢ 全自動でコロニー数を測定できるため,土日に出勤せずにデータを得ることが可能であり,休日出勤の低減につながる。
➢ 通報システムが標準仕様となっており,携帯電話やスマートフォンでコロニー検出画像を確認することができる(図11)。

・信頼性
➢ 画像データを保存することができるため,トレーサビリティーが高い(運用によってデータ保存内容を変更できる)。
➢ 社内LAN環境が整っている場合には,離れた場所でも機器コントロールができる。例えば機器は試験室,PCは事務所といった運用方法も可能である。
➢ 21 CFR Part 11対応ソフトがオプションとして準備されている。
➢ 機器故障の場合,寒天培地を別のインキュベーターに移し試験を継続できることや目視による試験もできる。
➢ 機器本体は,4温度帯の培養温度設定が可能となっている。また,その各温度帯は温度ロガーによって厳密に管理することができるため精度管理上優れた機能となっている(図12)。
図12 温度制御機能
図12 温度制御機能

おわりに

 微生物迅速試験は何も今になって現れたわけではないが,まだまだ使用されている施設がかなり少ないのが現状である。この要因としては冒頭にも述べたが,新手法へ移行すると現行法で培ってきたデータやその信頼性がそのまま使えないことにある。また,現行法である培養法との相関の解釈,新手法での妥当性の検証方法の問題が大きな壁となっているのが事実であろう。新手法のほとんどが結果を出すまでのプロセスでブラックボックス化となっていることも不安を助長するものと考えられる。現行の培養法が廃止され,迅速試験のみになった場合には導入する壁はなくなり安心して導入できるであろうが,その時代が来ることはまだ先の話なのかもしれない。
 しかしながら,品質保証と品質管理に求められる要求事項は,年々厳格化されており,その中で微生物迅速試験を導入していくことには,しっかりとした妥当性を証明することが必要であり,いささかの迷いがあっては導入のリスクが伴うこととなる。迅速化とそのデータの妥当性を鑑みると,本稿で紹介した「タイムラプス影像解析法(Time-Lapse Shadow Image Analysis)」に基づいて製品化されている全自動迅速微生物検査装置MicroBioμ3D™が現行法を利用し,寒天培地を使用していることで,今まで培ってきたデータもそのまま使用できるため,導入への障壁は低いと考えられる。
■参考文献
1)第十七改正日本薬局方(2016)参考情報「G4. 微生物関連 微生物迅速試験法」, 2419-2420
2)小川廣幸(2016), 寒天培地培養法の迅速化を可能にしたタイムラプス影像解析法, ファームテクジャパン第32巻第14号, 23-30
3)BD Diagnostic Systems Industrial Microbiology(2015), マイクロバイオμ3Dオートスキャナー サンプル残渣の影響の検討, APPLICATION NOTE
4)BD Diagnostic Systems Industrial Microbiology(2014), マイクロバイオμ3Dオートスキャナーによる標準菌株の迅速かつ正確な生菌数測定, APPLICATION NOTE
5)BD Diagnostic Systems Industrial Microbiology(2015), マイクロバイオμ3Dオートスキャナーのメンブレンフィルター法の検討, APPLICATION NOTE

関連情報

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