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RSウイルス院内感染対策の経済効果

必見!諸外国の医療経済事情
2005年11月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

創刊号では、いくつかの文献を用いて費用効果分析と統計手法をもとに、院内感染対策の意義を検討した。諸外国の医療制度は基本的に民間に依存しているため、選択肢を検討する際、頻繁に費用効果分析を行っている。わが国でも、日本版DRG/PPSの導入に向けて、医療の効率化は避けては通れない課題であり、その中で院内感染対策費用は医療費削減のための必要投資として考慮されるべき分野と言える。

ここでは、前回取り上げた費用効果分析の計算式(表1)と疫学研究法を用いてRSウイルス院内感染対策の費用効果分析を紹介する。

RSウイルスによる院内感染防止策の例

 RSウイルスは、かぜ症候群を起こすウイルスとして最も重要なウイルスのひとつである。RSウイルス感染症は、小児科にとってインフルエンザ同様に重要な呼吸器感染症であり、乳幼児期の呼吸器系ウイルス感染症のなかで最も多いと考えられている(2歳までにほとんどの幼児がRSウイルス感染を経験)。大人(特に高齢者)の感染も認識され、内科の領域でも関心の高いウイルスである。

RSウイルスは飛沫感染とともに、感染性の飛沫粒子が患者の衣類などに残存し、接触してウイルスが付着した手指で口や鼻を触ることで感染する経路、つまり間接的な接触感染に留意する必要があるといわれている。したがって、予防では特に手洗いが重要である。 RSウイルスによる院内感染リスクは高く、病院内の新生児や乳児の感染防止には特に注意が必要であると言われている。米国では、RSウイルスの感染管理に取り組むことが推奨され、まず、迅速に病原体を検出するために組織培養ではなく抗原あるいは遺伝子(real-time PCR)法による検査が行われている。

RSウイルスの院内感染対策について、Maccartneyらは大学病院において感染管理活動の費用効果を検討した1)。Maccartneyらは防止策実施前(1988年11月-1992年4月)と後(1992年11月-1996年4月)におけるRSウイルス感染の罹患率*を比較し、相対危険度**を計算した。

入院期間による曝露の影響を補正するのに入院期間を「2.5日以下」から「10日以上」までの5つのグループに分け、各曝露群のグループの罹患率を算出し、RSウイルス防止策の前後で比較した。

結果、実施後の相対危険度は0.61(95%CI: 0.53-0.69)、つまり、対策により感染リスクは39%減少した。また、実施後の約4年間で40症例減少していることから、毎年約10症例の減少と算出される。また、防止策実施に必要なコストは、年間15,627ドルと計算した。

費用効果分析

Maccartneyらの研究を、計算式(表1)をもとに費用効果を分析すると右のようになる。

まとめ

院内感染防止のためには、幅広い観点から資源の投資を検討する必要がある。この例では、迅速にRSウイルスを検出することによって患者の感染リスクを減らすことができるため、検査室への追加投資もまたコスト効果的な選択肢であろう。


参考文献
1)Maccartney, K., et al. 2000. Nosocomial respiratory syncytial virus indections: The cost-effeciveness and cost-benefit of infection control. Pediatrics 106(3): 520-526


* 罹患率 ある人口集団における、ある一定の観察期間での疾病の発症頻度の率
**相対危険度(relative risk) あるリスク因子への曝露群と非曝露群での疾病となるリスクの比
(文責:日本BD 高橋洋)