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MRSAフォーラム2022 シンポジウム3

開催地 長崎
会場 出島メッセ長崎 1階会議室 101BC
開催日時 2022年7月9日(土)15:50~17:10
備考 本シンポジウムにご参加いただくには、MRSAフォーラム2022への参加登録が必要です。
詳細は ホームページ よりご確認ください。

本シンポジウムは整理券制ではございません。直接会場へお越しください。

共催:MRSAフォーラム2022
   日本ベクトン・ディッキンソン株式会社

MRSA の診断と感染対策について考える


座長:賀来 満夫 先生 東北医科薬科大学医学部 感染症学教室

演題1:院内感染対策におけるMRSAの位置づけ
演者:泉川 公一 先生 長崎大学大学院医歯薬総合研究科 臨床感染症学分野
            長崎大学病院 感染制御教育センター

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、MRSAは、院内感染対策における象徴的、古典的な薬剤耐性菌である。
1990年代に、「院内感染」という富家恵海子氏の著書にMRSAが登場し、世の中に広く知られるようになった。その後、院内感染対策のうち、標準予防策、ならびに接触感染対策として、手指衛生やコホーティングなどがしっかりと実践されることにより、MRSAの検出がかなり減ってきたことは、周知の事実である。長崎大学病院においても、感染制御部、感染制御教育センターの設立にともない、感染対策の啓発、指導が進むに従い、手指衛生率が上昇し、それに反比例してMRSAの検出が大幅に減少してきた。このように、黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率は、日本における薬剤耐性(AMR)対策アクションプランの成果目標の項目にもあげられており、医療機関における院内感染対策のベンチマーク、指標として用いられている。多くの医療機関の感染制御部では、MRSAの検出率をサーベイランスしており、通常と異なる異常な検出件数の上昇を如何に早く探知し、対策をとるかが、MRSAの院内感染対策の肝となっているかと思われる。その一方で、MRSAが注目されはじめてから時間が経過し、新たな抗MRSA薬の登場、また、CA-MRSAが登場するなど、MRSAを取り巻く環境も変化してきた。もちろん、医療機関内では、MRSA以外の薬剤耐性菌も存在しており、アンテナをしっかりとはり、注意を払うことが重要となっている。
本講演においては、院内感染対策におけるMRSAの位置づけの変遷を示すとともに、長崎大学病院におけるMRSA集積例の自験例も示して、Infection Control Teamとしてどのように対応しているか、また、その課題についても紹介させていただきたい。

演題2:NICUにおけるMRSA感染症対策
演者:山岸 由佳 先生 高知大学医学部 臨床感染症学講座 高知大学医学部附属病院 感染管理部

集中治療室(ICU)は一般的に人工呼吸器や中心静脈カテーテルなどの侵襲的医療機器の使用頻度が高く医療従事者による頻回な直接的接触が多い。また種々の要因で入院日数が長期化することなどから一般床と比較し感染のリスクがより高い部署である。しかし、成人と異なり新生児は免疫学的、解剖学的、産科的要因などにより未熟であることから易感染性や重症化がみられること、正常細菌叢が形成される以前に耐性菌を含む微生物に曝露すること、児は保育器内など狭い空間で栄養と排泄の管理をされながら医療を受けるため交差感染のリスクが高いこと、児は感染症に特徴的な臨床症状に乏しく早期発見が困難であることなどの特徴がある。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)は重要な院内感染の原因菌の1つであるが、厚生労働省院内感染対策サーベイランスによれば、MRSAは日本における院内感染症の新規発症に関わる原因菌として最多とされている。新生児集中治療室(NICU)は前述のような条件の中、MRSAの保菌率が高く、MRSA敗血症などの重症感染症の発症率が高くなる。NICUに出入りするヒトはある程度決められた職員および限られた家族で、院外あるいは院内他部署からのMRSAの持ち込みを監視するために児には積極的保菌調査が行われている医療機関も多い。児は自身で他に動き回ることはないため耐性菌が伝播するのはヒトあるいは物品を介した伝播である。一旦多発事例が発生すると、在院日数、入院費が増加し損失も大きい。
本セッションでは、NICUにおけるMRSA感染症の疫学、診断、アクティブサーベイランスの有用性と今後の課題・展望について述べる。

演題3:分子疫学ツールを用いたMRSAの診断と感染制御
演者:掛屋 弘 先生 大阪公立大学大学院 医学研究科 臨床感染制御学

世界中で耐性菌のまん延が危惧されている。中でも多剤耐性緑膿菌(MDRP)やカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)、ESBL産生大腸菌等のグラム陰性桿菌の耐性菌まん延が話題となり、現在はポストMRSAの時代とも言われている。実際、JANISデータに見る黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの分離率は徐々に低下してきている。その結果は、我が国における院内感染対策の向上に寄与するものと考えるが、我が国で最も多い耐性菌はMRSAであり、MRSAの感染管理は院内感染対策の重要指標として、今後も決して軽視してはならない。一方で、MRSAの院内伝播を正確に判断することは難しい。同一病棟や同一診療科内で複数のMRSAが検出された場合に院内伝播の可能性を考えるが、入院時にすべての患者にスクリーニング検査が行われていない場合には、持ち込みか院内伝播かの判断は難しい。またMRSAの薬剤感受性パターンは非常に似ており、同一菌株による院内伝播かどうかの判断が難しいことが多い。市中型MRSA(CA-MRSA)は院内型MRSA(HA-MRSA)と薬剤感受性パターンが異なることが、一つの特徴であるが、近年はCA-MRSAも院内伝播例でも検出されるため、薬剤感受性パターンにより同一菌株かどうかを判断することには限界がある。また、MRSAが分離されればすべて院内伝播と安易に判断されれば、院内感染対策に尽力してきたスタッフの努力を踏みにじることになる可能性もあり、正確な院内伝播の判断が求められる。
近年はMLST(Multilocus Sequence Typing)法やパルスフィールドゲル電気泳動法やPOT(PCR based open reading frame typing)法などの分子疫学的解析を活用することにより正確に院内伝播判定をすることが可能となり、効率よく院内感染対策強化を実施することが可能となった。我々は院内感染対策においてPOT法を活用することにより通常検出することが難しいアウトブレイクを検出し、MRSA病棟内伝播率を前年比40%減少させ、医療経済効果も有することを報告している。一方、実際POT法による院内感染対策を運用する上で、その課題も見えてきた。本講演では当院の院内感染対策における分子疫学解析(POT法)の活用事例と有用性について概説する。