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針刺し損傷とコスト

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1.針刺し事故のフォローアップにかかるコスト

●針刺し損傷が発生すると、通常、損傷直後に受傷者の血液検査を実施し、定期的にフォローアップする必要があります。また、損傷後の受傷者の血液を採取し1年間血清保存や永久凍結保存している施設もあります。


●このような損傷後の検査などのフォローアップにもコストは発生し、そのコストは施設によって異なるが、1件あたり5万円〜10万円という報告がされています。


県西部浜松医療センター医療従事者における針刺し切創事故に関するサーベイランスとコスト試算;浦野美恵子、矢野邦夫、他:環境感染、Vol.12 no2,1997

針刺し事故とコスト;島崎豊、INFECTION CONTROL'99 Vol.8 No.10

2.針刺し損傷によって感染した場合にかかるコスト

●針刺し損傷が発生した後、感染リスクが高い場合には発症予防のための予防投薬などの治療が開始されるため、これにかかるコストが発生し、さらに感染が成立した場合には、治療のためのコストが発生します。

●発症予防のための予防投薬としては、HIV感染血液への曝露後に推奨されている薬剤を3種類全て服用した場合、1ヶ月で約17万円と報告されています。

●実際に、針刺し損傷によってHCV陽転した場合のコストとしては、検査費・入院ベッド費・肝生検費・インターフェロン費・その他の費用を合わせると、1例で合計約310万円という報告があります。

針刺し事故とコスト;島崎豊、INFECTION CONTROL’99 Vol.8 No.10

●さらに、米国では、針刺し損傷によるHCV感染の結果肝硬変に進展し、肝移植を実施するケースが報告されています。その場合の肝移植にかかるコストは$250,000(約3,000万円)と報告されており、肝移植後の腎不全に伴う腎移植と、さらなる悪化のために再肝移植を実施した看護婦の例も報告されています。

ADVANCES IN EXPOSURE PREVENTION Vol.5, No.2, 2000

●日本では、非加熱血液製剤によるHIVとHCVの重複感染後に末期肝硬変になった患者に対して2001年4月に生体肝移植が実施されました。針刺し損傷後の感染での移植例はまだ報告されていませんが、手術費用は1千万円を超すとみれらており、また移植を希望しても適合する肝臓の提供者がいないこともあり、判断は難しいといわれています。

●また、最終的には和解が成立しましたが、「針刺し損傷によってHCV感染したのは病院側が十分な指導をしなかったからだ」として病院を経営する医療法人を相手取り損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は病院側に約2740万円の支払いを命じる判決を言い渡しており、日本でもこのようなコストも検討する必要性が出てきました。

日本醫事新報No.3954(2000年2月5日)

3.安全器材にかかるコストとその評価

●米国の針刺し安全防止連邦法において、すでに市場に出されている安全器材(針刺し損傷防止機構付き器材及びニードルレスシステム)による針刺し損傷防止効果については、下記のように有効性が評価されています。

*数多くの研究が、ニードルレスシステムや針刺し損傷防止機構付き鋭利器材などの安全器材は、総合的な血液媒介病原体リスク削減プログラムの一環として使用された場合には、極めて有効であることを証明した。

*2000年3月CDCは、使用された器材の種類や操作方法によるが62〜88%の針刺し切創が安全器材によって防止可能であると推定した。

●実際に安全器材を導入する際には、針刺し損傷防止機構という付加価値によってコストが割高になることがあるが、針刺し損傷の実態を把握し、安全器材導入による損傷防止効果を適切に評価することで、削減可能となるコストを明らかにし、対費用効果を明確にすることが重要となります。

●EPINetシステムでは、実際にそれぞれの損傷に要したコストを算出して、中空針及びランセットの30器材についてはすでに使用可能な安全器材による損傷防止で削減可能となるコストが自動計算されるプログラム※)があります。

※)このプログラムでは、「輸液ラインのアクセスに使用した金属針」と「ランセット」による針刺し損傷は、それぞれ「ニードルレスシステム」と「引っ込むタイプのランセット」によって100%防止可能と推定されており、他の器材については、患者への使用後に発生した損傷が防止可能な損傷として推定されています。

県西部浜松医療センター医療従事者における針刺し切創事故に関するサーベイランスとコスト試算;浦野美恵子、矢野邦夫、他:環境感染、Vol.12 no2,1997

日本ベクトン・ディッキンソン株式会社BDメディカル メディカルシステム事業部作成(エクセルファイル)
●さらに、医療機関における従来の器材と安全器材の実際のコスト(納入価格)を入力して、発生する針刺し損傷件数からコストシュミレーションできるプログラムも作成されています。

●日本でも、安全器材を導入し針刺し損傷防止効果とともに対費用効果においても成果をあげている医療機関が最近報告されるようになり、安全器材のニーズの高まりとともに市場に多く出回ることによるコスト採算も期待されています。