4-2. 院内感染と耐性菌2

監修:金光敬二先生(福島県立医科大学 感染制御医学講座 教授)

キリンの首とMRSA?

突然話は変わりますが、キリンの長い首と、MRSAは似たところがあります。みなさんキリンを見たことありますよね。

キリンの首は、なぜあんなに長くなったのでしょう、考えたことはありますか。
昔、キリンの先祖は今のオカピと同じような姿だったそうです。

オカピは森のウマと言う意味で、先祖も草原を駆けまわっていました。ところが、気候の変化が徐々に起こって日照りの日が多くなり、低いところにあるエサの植物が枯れ始めました。群の全てにはエサが行き渡らなくなったのです。そのような時、突然、群の一頭が、まだ多く残っている自分の丈(たけ)より高いところにあるおいしそうなエサに気が付きました。そこで必死に首を上げ、それを取ろうとし始めたのです。

草原には、既にエサとなる草木が少なくなっていたので、他の仲間も同じように首を上げて、新しいエサを取ろうとし始めました。

そうこうしている内に(長い時間が経ちました)、草原では、高いところにあるエサを取りやすい体つきの、長めの首と足を持ったものたちが、多くかっ歩するようになりました。
当然生まれてくる赤ちゃんの首も足も長くなり、きびしい自然の中で、よりエサを取りやすい特徴を持ったものが生き残った結果と考えられる訳です。そして、更に時間が経って、我々はあのキリンを目にしていることになります。

もちろん、キリンの先祖にも色々な特徴(ちょっと足が、首が長い・・、逃げ足が速い・・)を持ったものが、エサの不足する前から既にいたと考えられるので、エサは高いところにあると言う変化した環境が首の長いものを選んだ、と言い換えることもできます。
これを適者生存(てきしゃせいぞん)、または環境、自然に左右される(選択される)ので、自然選択、または自然淘汰(とうた)などと言います。




さてキリンの話と、耐性菌であるMRSAと何の関係が・・?

この適者生存、自然選択は、動物だけではなくて生物界全て、ウイルスから人間にまで当てはまるものなのです。
病原体の一種である細菌も例外ではありません。彼らも生き残るために適者生存を繰り返して、より環境に適応した、そこで生き抜くことのできるものが残ってきました。

細菌(病原菌)にとって、先ずエサとなる栄養が必要なことは言うにおよびません。これは草原のキリンと同じで、自分のまわりに、今まさにある栄養を有効に利用できるものが生き残りました。そして、細菌を殺す、または弱らせる作用を持つお薬である抗菌薬の攻撃にも耐えたものが、耐性菌として今生存している訳です。

もっとも、草原のキリンにもきびしい攻撃が繰り返されたかも知れません。それは天候の変化であったり、また恐ろしい天敵(肉食獣)の存在など・・それらに耐えるために、より丈夫で天敵に攻撃されにくいもの(それで足もより長くなったのかも)が生き残ったのでしょう。

病原菌にもまさに同じことが言え、抗菌薬に、例えばペニシリンと言ったものに簡単にやられてしまっては、その種は絶えてしまいます。
イラスト:黄色ブドウ球菌が耐性化してMRSAとなり、ペニシリン系、セフェム系抗菌薬の攻撃を防御しているイメージ
従って、ここでも偶然にペニシリンに耐える菌が出現したのをきっかけとして、更にペニシリンのみならず、その他の抗菌薬の攻撃に耐えるもの(抗菌薬を分解したりする能力を持つもの)だけが適者生存の法則に則って生き残ることになります。

例えば黄色ブドウ球菌の場合、多くの抗菌薬の攻撃をくぐり抜け、これに耐えるMRSAという姿を我々は目にしていることになります。

さて、元々抗菌薬の攻撃に耐えることができず体から取り除かれた菌が、例えばペニシリンで黄色ブドウ球菌による感染症を治療することができたのにできなくなった場合、黄色ブドウ球菌はペニシリンに耐性化したと言います。

これは既に述べたように、ペニシリンと言う抗菌薬によって、ペニシリンに耐性の菌が選択されたことを指します。

と言うことは、抗菌薬が存在しなくなれば逆の選択が起こって、抗菌薬に耐える能力、分解するような能力は無くなる、と考えられませんか?