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特集:インフルエンザの脅威に備える

2005年11月
財団法人 ライフ・エクステンション研究所付属
永寿総合病院
小児科部長
三田村 敬子

※スライドはすべて本誌付録CD-ROMに収められており、勉強会などでご活用いただくことができます。

インフルエンザウイルスの概要

 インフルエンザウイルスはエンベロープをもつ一本鎖RNAウイルスで、オルソミクソウイルス科インフルエンザウイルス属に属する。わが国で冬季に流行するインフルエンザはA型とB型で、その遺伝子は8本のRNA分節に別れていて、エンベロープ上には血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)のスパイク様構造をもつ。
 
 HAとNAはpoint mutation(点変異)による抗原性の変化(連続変異: antigenic drift)が徐々におこり、その変異が大きければ、既往があってもそれまでの免疫で対応できず多くの人が罹患する。毎年ワクチン株を選定するのはこの変異に対応するためである。

 A型はHAとNAの異なる亜型に分けられ、それまで流行していたウイルスとは異なる亜型のウイルスが突然出現することがあり、これを不連続変異(antigenic shift)という。ヒトとトリのウイルス間の遺伝子再集合(遺伝子の交換)によるとされ、人類にとって全く未経験の新型ウイルスであるため、世界的な大流行(pandemic)となる可能性がある。

院内における流行期前の準備



 いったんインフルエンザのアウトブレイクが発生してしまうと、抗ウイルス薬などで対応しても、一定の限界があり多大な労力を要するので、インフルエンザの感染対策の基本は予防である。患者のリスクを評価して個々のワクチン接種に対応するだけでなく、施設の従事者、出入りの業者、ボランティア、家族を含めた接種計画を立てる。米国の接種勧告対象者は表のようになっている。ハイリスクグループと、ハイリスクグループに接する人々が接種対象者で、基本的にはわが国も同様である。効果がでるまで2週間をみて、例年流行が始まる12月下旬に間に合うように11月中に接種するのが望ましい。

院内における流行期の対応

 インフルエンザの典型的な症状は、突然発症する高熱と気道症状で、頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感などの全身症状が強いことが特徴で、これらがインフルエンザ様疾患の疫学調査の報告基準となっている。診断に際して、周囲の流行状況や接触歴は有用な情報となる。迅速診断キットの結果を集計し、リアルタイムの情報発信に活用することができる。病室配置表に表示する方法もわかりやすい。
 インフルエンザ迅速診断キットは、ウイルス量が103-105PFU以上で陽性反応を示す。ウイルス分離と比較した成績は、特異度は90%以上と高いが、感度は鼻咽頭ぬぐい液あるいは吸引液で60-100%、咽頭ぬぐい液で50-90%と幅がある。検出率は発病初期12時間ぐらいまでとB型で低い傾向がある(約10%)。検体採取者での違いが大きく、最も重要なことは確実な検体採取である。
 集団発生では必ず確認検査をする。

院内における発生時の対応

 インフルエンザ患者は病初期は多量のウイルスを排泄するため(108PFU/mLぐらいまで)初期対応が非常に重要である。発病1日前から発病後5日間は感染の可能性をみておく。小児の調査では、タミフルR投与後も、解熱した時点で60%以上がウイルス分離陽性である。

 抗インフルエンザ薬の予防投与は、接触後の短期投与と、流行期にわたる長期投与の方法がある。70-90%の予防効果がある。CDCでは発生後2週間、院内流行が終息してから1週間までを勧めているが、わが国では7-10日間の投与が保険診療外で認められている。
 ノイラミニダーゼ阻害剤はアマンタジンと比べて耐性を生じにくいが、小児の詳細な検討では、投与患児のアマンタジンで80%、オセルタミビルに18%耐性株が検出された。2004/2005シーズンには全国のサーベイランス検体の0.4%にオセルタミビル耐性株が検出されており、調査を継続していく必要がある。

鳥インフルエンザへの対応

 従来、インフルエンザは鳥から人へは直接伝染しないと考えられていたが、1997年香港でのH5N1型の患者発生で、鳥から人への感染が始めて確認された。現在東南アジアでH5N1型による多くの死者がでており、人から人への感染は明らかにされていないが、pandemicを想定した態勢がとられつつある。
 すでに、海外の鳥インフルエンザ流行地域から帰国した渡航者がインフルエンザ様疾患を発症したため、衛生研究所で対応した事例がある。疑感染者が医療機関を受診した場合は、SARSの体験を生かして対応することになろう。

参考文献

1) Glezen WP: influenza viruses. Textbook of Infectious Diseases Ed.4, Vol.2:2024-2044 W.B. Saunders, USA
2) Harper SA et al: Prevention and control of influenza, recommendation of the Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP). MMWR 54(RR08):1-49,2005.
3) 川上千春、三田村敬子、木村和弘: 迅速診断キットの基礎的検討. インフルエンザ 4:317-324,2003.
4) 国立感染症研究所 感染症情報センター: 高病原性鳥インフルエンザが疑われる患者に対する医療機関での対応. 2004/2/19
5) インフルエンザ施設内感染予防の手引き. 平成16年度版 厚生労働省健康局結核感染症課、日本医師会感染症危機管理対策室