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I's eye: クロストリジウム・ディフィシルの真実

Clostridium difficile
2005年11月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

今回は、院内感染菌としての重要性が認識されつつあるClostridium difficile(C. difficile) についてお話しします。
 C. difficile は、芽胞を形成する偏性嫌気性のグラム陽性桿菌です。健康な成人の5-10%、入院患者では約25%の糞便中から検出されます。病院で生まれた新生児の便からも分離されるので、新生児集中治療室などをC. difficile の芽胞の貯蔵庫と言う人もいます。老人施設も芽胞の貯蔵庫となる可能性が高いと考えられています。
 芽胞を持っているので完全に除去することが難しく、床やトイレなど病院の環境中からも分離されます。そして、クリンダマイシン等の抗菌薬の投与を続けることによって正常細菌叢が乱れると、C. difficile が異常増殖して偽膜性大腸炎の発症に至ることになります。
 入院患者から検出される株のほとんどは外毒素を産生しており、これが偽膜性大腸炎の病因でCDAD(シーダッドと発音;、C. difficile 関連下痢症)等を引き起こします。毒素はA、Bの2種類が存在し、エンテロトキシン、サイトトキシンとそれぞれ異なった機能を担っています。A、B両毒素の作用によって粘膜細胞が破壊され、本来の粘液層とは異なる偽膜が形成されると、色々な症状を観ることになります。
 なお、臨床的には毒素Aを、検出キットを使って測定します。しかし、毒素A陰性/毒素B陽性株を見逃してしまう可能性がありますので、注意が必要です。
 入院時の便検査ではC. difficile 陰性であった患者の21%が入院後に感染し、そして、その31%が抗菌薬性の下痢を発症したことを示す報告もあり、新たに入院する患者にとってC. difficile 、及びその芽胞の存在は脅威と言えるでしょう。
 院内環境が汚染されていれば、入院日数の延長と共に、感染率が増加することも想像に難くありません。清浄な院内環境を保つためには、迅速に検査を行って、排菌を速やかに抑えるための、適切な投薬を行う必要があるでしょう。さらに、感染の拡大を防ぐためには、既に感染して激しい下痢症状を示す患者の一時的な隔離を行います。医療スタッフの手指を介する伝播防止には、流水での洗浄と、使い捨て手袋の適切な使用が望まれます。

参考文献

● 戸田新細菌学 第31版, 南山堂
● Abigail, A. et al.: Bacterial Pathogenesis A MOLECULAR
APPROCH, ASM PRESS
● Lynne, V. et al.:Risk Factors for Clostridium difficile
Carriageand C. difficile-Associated Diarrhea in a cohort of
Hospital Patients.
● J Infect Dis; 162: 678-684, 1990

(文責: 日本BD 武沢敏行)